新しい私
「大復活!」
シノニムさんに殺されかけて、勢い余ってシャリアちゃんも食べちゃったりして、俺は大変な事になってしまった。
一ヶ月で帰るつもりが三ヶ月ぐらい掛かった訳で、いやー、驚いたね。
ようやく、明日には王都に帰れる場所にまで戻ってきた。
既に季節は春。
俺は十五歳になっていた。
十六までに死ぬとすると、もう一年も時間が無い。後はもう好き勝手に暴れる事に決めた。
ここまで何をしてたかと言うと、足も生えない内から大暴れ。ゼスリード平原では襲ってきた
それがあんまり美味しかったもんだから、こっそり装甲車を抜け出して、鳥を狩って喰らう日々。食い過ぎて寝込んだりして、幼少の苦い思い出が蘇った。蘇ったけど、引かないし媚びないし省みない。
……滅茶苦茶にお腹が減って仕方が無いからだ。
俺の胴体はかなりコンパクトになってしまった。バイバイ大腸、サヨナラ小腸。いくら食っても太らない体質と言えば聞こえは良いが、食っても食っても垂れ流しだったのが実情だ。つまり吸収率が極めて悪かった。
凶化したとは言え体を戻すには大量の肉を必要としたのだ。
魔法を使い上半身だけでカッ飛んで行って、巨大な
そんで、ようやく胴体が塞がって、ゆっくりと足が生えてきたのだが……
……なんか翼まで生えてきた。
なにを言ってるか解らんし、俺にもさっぱり解らんかった。
でも、生えたもんは仕方がない。醜ければもいでしまおうかと思ったけれど、純白の羽があんまり綺麗だったから、なんとなく生えるに任せてしまったワケだ。
だいぶ人間を辞めてしまった訳だが、ユマ姫マジ天使! って感じで大丈夫だろう。きっと。
他にも色々寄り道をして、そろそろ王都に戻ろうかと言うタイミング、どうもオーズド伯が王都で俺の悪評をばらまいているらしい事を知る。
これはド派手に帰還して、俺のニューボディを見せつけるしかないだろう。
今までも何度かやって、毎回大好評の凱旋パレードだ。そこで、俺の人気を見せつける。
美少女の主張とくたびれたオッサンの訴えでは、民がどちらを信じるかは知れたモノ。
って、思ってたんだけどさ。
だけど、今回、なんか羽が生えちゃってるじゃん?
どうなの? コレ。人間辞めてない? 大丈夫?
天使を通り越して、悪魔って言われない?
異端審問会キャンセル火炙りの、即死コンボを決められそう。
皆の反応が楽しみな反面、ちょっぴり怖かったりもした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
で、翌日。
俺は何事もなく王都に辿り着いていた。
しかし、装甲車で待機。
登場はなるべく劇的に、人が多い場所でド派手に行きたいからだ。
俺を乗せた装甲車は、いよいよ王都のメインストリートに差し掛かる。
車内からでもザワザワと人いきれが聞こえてくる、いつも通りの大盛況。目を瞑れば、輝くばかりの運命光が取り囲んでいた。
そろそろ市街の中心地。ここらが良いタイミング。
「出ます!」
宣言を一つ、俺は選挙カーみたいに改造された車内のハシゴを登り、装甲車の上に身を乗り出した。
「「「ウォォォォォ!」」」
絶叫の様な歓声に押しつぶされそうになる。
俺の人気はいまだ健在だ、まずはそれに安心する。紛れて飛んで来たクロスボウのボルトを人差し指と中指で挟んで受け止めると、俺は背中の羽を思い切り広げた。
「皆さん、ご機嫌よう。ただいま戻りました。ユマ・ガーシェント・エンディアンです」
決まった!
完璧な挨拶。拡声の魔法で、街路の隅々まで声が響いた。
「「「…………」」」
しかし、返されたのは重い沈黙だった。
アレ? やっちゃったかな? 俺はテヘヘと照れながら指に挟んだボルトを捨てると、皆に向かってとびきりの笑顔を振りまく。
「「「…………」」」
しかし、誰も何も口にしない。ぽかんと大口を開けて、俺の姿を見上げている。
なんだろう? いきなり暴動が起こるような雰囲気ではないのだが、こうも無反応だとリアクションに困る。
異端審問会が始まるなら、早くして欲しい。逃げるから。
俺は開き直って天井に設置した椅子にどっしり座る。
開き直ったついでに羽まで大きく広げ、大きなため息をつくのだった。
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