ユマ姫暴走記録2
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!
クッソムカつく! あのクソ魔女! 黒峰が! 死ね! ぶっ殺してやる!
俺を慕っていた騎士達が、死んでいった。
俺のじゃない、ロアンヌの、殺すべき帝国の騎士だけど!
でも、俺が殺すのは良いけど、魔女に殺されるのは嫌だ!
いや、無理に殺すつもりはなかった、彼らは本当に俺を愛してくれたから。
……俺は帝国の全ての人間を殺すぐらいのつもりだった。
ソレこそが俺の復讐だった。
でも、俺を好きな人間まで殺したくは無かったんだ、ソレほどにアイツらは俺の為に頑張ってくれたんだ。
アイツらにも殺意を向けようとして、でも出来なくて、俺はいつしか、苦しくて、らしくない程に帝国への殺意を丸めていた。
復讐が俺の全てなのに!
俺が、俺を! 殺しそうになっていた。
思えば、昔、ゼスリード平原で俺に怯えた帝国兵を一人、ぶっ殺した事がある。
アイツは俺に弓を引いた。いや、俺の殺意で弓を引かせたのだ。一番臆病なアイツは混乱して俺に矢を放った。
そして、正当防衛だと、俺は喜んでアイツの脳みそを吹っ飛ばした。
その時は気持ちが良かった。
でも、後からなんだか胸に小骨の様につっかえた。
果たして、アイツは俺を殺したかったのか?
俺が可愛く微笑めば、アイツだって俺を好きになったかも知れないのに。
現に帝国の陣内で乗り込んで、俺が檻の中で可愛くしていれば、帝国兵もたちまち俺の虜になった。
そんな奴らまで殺す必要はないじゃないか?
じゃあ、俺が殺したいのは?
俺が殺さなくてはいけないのは?
まず、俺を嫌いな人間だ!
俺が可愛くしていても、それでも俺に仇なすならば、気持ちよく殺せる!
それと、俺に殺されたい人間だ。
俺みたいな美少女に殺されたいって言うならば、俺が引導を渡してやる。
俺が始めた戦争だ、その位の責任は取るつもりだ。
もっとシンプルに言おう。
死にたくないなら俺に
死にたいなら俺に言え、楽に死なせてやる!
ただし、苦しんで死にたいと言うのなら多少はサービスしようじゃないか!
服従か、死か! 選ぶ権利をくれてやる。
しかし、捕虜になった帝国兵は数千人規模だ、悠長に選ばせるには余りにも時間が足りない。
決断の時は、すぐソコまで迫っている。
だったら選びやすい様にしてやろう!
俺はとっておきの衣装、木村からパクったバニー衣装に袖を通す。
いや、通す袖は無いが。
肩はもちろん、鞭の傷跡だらけの背中も丸出し。
どの世界でも、どの宇宙でも、どの次元でも、無条件にドエロいファッションだ。
我ながら完璧な出来映え。覗いた鏡の中には、幼くも儚げで、恐ろしくも美しい、狂気に満ちた一匹のウサギさんが居た。
乗馬鞭を手に、艶然と微笑む。
「行きましょう!」
「はい」
陶然とシャリアちゃんが答え、後ろに控えて付いてくる。
しかし、俺達の行く手を遮る者が居た。
「正気ですか? その姿!」
シノニムさんだった。
興ざめとシャリアちゃんが鼻を鳴らすも、無視してコチラに詰め寄って来る。
「はしたないと言う次元ではありません! 今までも酷かったですが、もはや娼婦でもしない格好です!」
言ってくれる! だが俺は凶暴な笑みを見せつけた。
「娼婦でもしない格好? 結構じゃないですか?」
「なっ?」
真っ向から言い返し、俺は口の端を釣り上げてギラついた目で睨んだ。
「私を買うか、私に買われるか? 服従か、死か? 彼らにはキッチリ選ばせます」
「何を言っているのです?」
意味がわからんか?
俺にも解らん!
しかし、コレほどに可愛いのだ。
それはもう、男の意識で見ていると脳みそがトロける程に。
それでも尚、俺に逆らうと言うなら、もう『敵』で良いだろう?
俺はシノニムさんに乗馬鞭を突きつける。
「アナタは私の敵ですか? 味方ですか?」
「そ、それは……」
シノニムさんは言い淀む。
言えないのなら、死ぬか??
俺はもう帝国かどうかに拘らない。笑顔でシノニムに一歩近寄る。
「み、味方です。当たり前でしょう!」
「そう」
俺はニッコリと微笑んだ。
「ならば、行く先へ、私の元に、アレを届けて下さい」
「アレ? アレとは、まさか?」
「頼みましたよ」
それだけ言って、俺はすり鉢の底へと歩き出す。
この世界の基準では、キチガイ染みたエロさのバニーガールで、俺は堂々と陣内を練り歩いた。
それにしても、娼婦でもしない姿とは参ったね。
裸同然な娼婦も居ると聞く。つまりコレは裸よりもずっとエロいと? そうかそうか。
言ってしまえば、バニーガールは地球人類の英知の結晶。
いや、言い過ぎたか? とにかくエロく見せるために、考え抜かれたデザインだ。
……多分。きっと、恐らく。
俺みたいな、胸が控え目なタイプの美少女には似合わないかと思ったが、背伸びしたエロスが、余計に犯罪臭を放って脳を溶かす。
ほら、荷物を運んでいた小僧が荷物を取り落とし、現場主任にドヤされるが、その主任だって俺を見て固まった。
小僧は慌ててスケッチを手に、俺の事を絵に描こうとしている。
うむうむ、薄い本かね? 違うわな。アレはちょくちょく兵士が書いていた記録だろうか?
まぁ良いや、固まる兵士や商人を余所に、俺は囚われた帝国兵が吹き溜まる、すり鉢の底へと乗り込んだ。
途中で揉みくちゃになるかと思ったら、呆然とした兵士達は俺をただ見ていた。
定位置に到着した俺は、シャリアちゃんを四つん這いにさせ、その背中にドッカリと座った。
人間を椅子扱い。態度で彼らを威圧する。
そして拡声の魔法を使って大喝する。
「各部隊の責任者、前へ!」
叫ぶと同時、すり鉢の中は蜂の巣を突いた様な騒ぎになった。
「何だアレ? 何だアレ! 何だアレ!?」
「痴女か? ユマ姫なのか? ホント?」
「夢でも見てるのか? もう死んでるのか? 俺」
そりゃそうか、エロに特化したバニー姿だけじゃない。俺は囚われていた時の深窓の姫君の擬態を容赦なくぶん投げている。
なにせ、今日は死ぬか生きるかを選ばせに来たのだ、気弱な姿は見せられない。
「前へ! 死にたいなら、今すぐ兵に銃を撃たせる!」
再度叫べば、混乱の末に、俺の目の前には六人の隊長が出そろった。
しかし、これだけの軍隊だ。同じ隊長でも姿には個性があった。
六人の内、四人こそ武闘派っぽいゴリゴリの騎士姿だが、一人は汚いオッサンで、もう一人は小綺麗な若い将校だ。
もちろん、みんな背が高い。
座っている俺は、すっかり見上げる格好だ。
面白くない。
俺は端的に、彼らに命ずる。
「跪け!」
「…………」
しかし、誰も従わない。
「跪くか、死か! 選べ!」
宣言と同時、俺は大げさに右足を高く上げた。
すると、六人の目が、一斉に俺の足を追いかける。
白いハイヒールを履いた、網タイツの足だ。全員にとって未知の体験に違いない。
「選べ! 跪くか? それとも死ぬか!」
再び宣言し、俺は上げた右足を左足へと絡ませる。
なんの事は無い、座ったまま、足を組んだ。
ただソレだけ。
ソレだけで、小汚いオッサンの隊長は立ってられなくなった。両腕は縛られているために、不格好に前屈みになって、そのまま跪く。
俺には解る。
「跪いたな? 下から見上げる私の姿はどうだ?」
「いや、それは……」
言えないか? でも、言わなくても解る。存分に俺の股間、バニースーツが作るVラインばかりをギラギラと凝視してるじゃないか。
見た目通りの下品なオッサンに、ある意味で安心する。
「座っただけか? 跪いたのではないのか?」
俺は、立ち上がりオッサンのまん前に移動するや、仁王立ちに問い詰める。
「あの、その」
オッサンはモゴモゴと口ごもる。しかし、泳いだ目線は俺の体を彷徨っていた。
どうだ? 間近から見上げるロリ系バニー少女の股間は!
「ジロジロ見るな!」
しかし、許さん! 俺は見上げるオッサンの顔面をハイヒールで踏み潰す。
「あげごっ!」
そして、仰向けに転がり、曝け出されたオッサンの汚い股間へ目掛けて鞭を振るった。
「ぐべぇぇぇ」
「他に、跪く者は?」
俺はのたうつオッサンを無視して、鞭先を弾いて弄ぶ。
そんな俺に、鋭い視線を向ける人物が居た。
「わ、私は悪魔には屈しない! 絶対にだ!」
意外にも、気丈にそう言ってのけたのは、小綺麗な若い将校だった。
恐らくは中央から出向の官僚で、この中では一番偉い人物。
武闘派でもない文官が必死に抵抗する様が四人の騎士隊長にも火を付けたのか、勢いに飲まれていた彼らから、ボケっとした部分が消えてしまった。
くぅ、上手く行かないモノだ。
優男風の官僚のくせに、妙な男気を見せてくれる。
……と、よくよくその将校を見てみると、頬は上気し、瞳は期待に潤んでいるではないか。
え? 何コイツ? あ、そうか、コイツは!
……死にたい側か!
「ほぅ、良く言った!」
「ぐえっ!」
俺は将校のネクタイを引っ掴むと、リミッターを外した力で強引に引っ張った。首が締まった将校は、前屈みに地面へ突っ伏すハメになる。
俺は、その後頭部をハイヒールで踏みつけ、尋ねる。
「ゆっくり嬲り殺しにされるのと、楽に死ぬのとどっちが良い!」
「あ、え?」
地面とキスしながら、混乱した将校は選べない。
ならばと俺は、頭から突っ伏した将校の、突き出された尻へと鞭を走らせた。
――ピシィィィ
「あうっ!」
思いの外、いい音がしたな。そして、良い声で鳴いた。
「選べ! 早く! すぐさま死ぬか、それともこのまま嬲られたいか!」
「嬲られたいです!」
将校が情けなく『おねだり』すると、将校の男気に勇気を貰ったとばかり、凜々しい表情をしていた隊長達が一転、「え? 何言ってるの?」と顔を呆けさせた。
そうだよ! コイツは、いけ好かないエリートながらに、必死に意地を見せたワケじゃない!
ただの! ヘンタイだ!
――ピシィ! ピシィ!
俺は乗馬鞭で鞭打つ。
こんな事なら、女王から水牛の鞭を借りておけば良かったか? いや、バニーちゃんには乗馬鞭ぐらいのが似合うよね。正直、水牛の鞭はトラウマだし。
「あうぅぅ」
それにしても、コイツ、幸せそうに良い声で鳴くじゃないか!
周りの隊長もすっかり、「あっ察し」みたいな顔に変わってしまった。
しかし、時間は有限だ。そろそろこんなモンで良いだろう。
「シノニム!」
「は、はいっ」
恐る恐ると言った感じで、すり鉢の底にやってきたのはシノニムさん。
その手には巨大な剣があった。それも、信じられない位の大きさである。
「な、なんだ? あの剣は」
「デカすぎる!」
「人間に扱えるのか?」
中は空洞なんだけどね。それでも5kg以上はあるので、余裕で持ってきたシノニムさんは結構力持ち。
父の形見、王剣バウ・ラ・ザルディアだ。
こんな時の為に、木村に運んで貰っていた。
俺は魔力を流し、噴出する空気の力を借りつつ、それを高く掲げ、将校に最後通牒を突きつける。
「私に従うのを良しとしない、骨のある男よ。立て! そして選べ! 戦士らしく、首を刎ねられ死ぬか! この剣で頭からかち割られ、無惨な挽き肉に成り果てるか!」
俺の言葉に、その場に居た殆どの人間は首を傾げた。
意味のない二択。苦しみながらプライドも保てない挽き肉に意味はあるのかと。
しかし、将校は立ち上がり、叫ぶ。
「挽き肉に! 挽き肉にして下さい!」
「良く言った!」
そして、俺は王剣を振り下ろす。
――グチャァ!
人間が、立ったまま真っ二つに分割される。その異様に皆が息を飲む音がハッキリ聞こえた。
でも、斬られる瞬間まで、コイツは何だかんだ満足そうにしてたから、俺も悪い気持ちはしない。
しかし、失敗したな。返り血を浴びてしまった。真っ白なバニースーツが血に染まる。
いや、コレはコレで?
「う、美しい」
くたびれたオッサン隊長が呆然と呟く。
そうか、そうか? そうか! 実は俺もそう思っていた。
「さて」
俺は再び、シャリアちゃんに腰掛け、足を組み直し、尋ねる。
「跪くか、死ぬか、選べ!」
「は、ハイッ!」
今度は、残った四人全員が跪いた。
あと、腰掛けたシャリアちゃんの息が荒い。血まみれの俺がそんなに可愛いか?
やっと座った騎士風の四人の隊長はどうだ?
ビビってるだけかも知れない。確認するべきだろう。
「お前等は全員、私に、従う。それで良いんだな?」
死にたいなら、今すぐ選べ! 俺は血に塗れた大剣を弄び、見せつける。
「あ、う……」
しかし、誰も剣など見ていないのだ。
コイツら、ドコを見ている?? マヌケ面で、必死に何かを目で追っている。
俺は立ち上がって問い詰めようと、組んだ右足を上げる。
? すると、皆の目線が大きく動いた。
その先には俺の足。なんだ? 俺の足を見てるのか?
ああ、なんだ。オッサンや将校を踏みつけた事で、右のハイヒールが壊れて脱げかけている。
組んだ足の先、俺のつま先で、プラプラと踊るハイヒール。それを大の男が目で追っているのだ。
俺はなんだかおかしくなって、足を上げ、つま先でプラプラとハイヒールを遊ばせながら、右へ左へ振ってやる。
すると、オッサンと四人の騎士が、口を開けっぱなしの呆けた顔で、必死でハイヒールを目で追うのだから笑ってしまう。
愉しい!
俺の背筋がゾクゾクと震える。奇妙な快感が確かにあった。
コイツらは間近に死が迫っているのに、それでも俺の足に夢中か!
俺は大仰に右足を上げ、下ろす。そして今度は左足をあげた。そうしてゆっくりと、ゆっくりと、足を組み替えた。
「ハウッ!」
すると、五人は変な声をあげ、口を半開きに涎を零す。
先ほどと同じく足を組んだだけ。しかし、跪いた姿勢から見上げる姿は、どうにも刺激が強かったらしい。
今度は彼らに、壊れていない左足のハイヒールをプラプラと見せつける。
「踏んで欲しいのか? しかし、見ての通り、この靴は壊れやすい。先着順だ!」
いや、一応ね、言い訳しておくが。半分以上は冗談で言ったのだ。
なのに、オッサンを含む五人の隊長が、前のめりに足元へ縋りついてきた。
「わ、私を!」
「いや、私を」
「俺だろ!」
「何を! これ以上グリムダス殿に良い思い、いや無様をさせる訳には! この私に」
……いや、コイツら揃いも揃って変態過ぎるだろ。
圧倒的な迫力とエロい格好で、腰を引けさせ選ばせるつもりが、俺の腰が引けてしまった。
身の危険を感じ、蒼い顔で仰け反ると、可愛いと逆に興奮する始末。
ヤベェなコイツら……だけど、こう言う変態に、俺は慣れてるけどね。
「ハァハァ、姫様、私も踏んで下さい」
ケツの下で、興奮した侍女の声がしていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【木村視点】
「え? 意味解らないんだけど?」
暴発寸前の帝国兵を、なんだかんだ手懐け? たのか? なんか、屈服させた様にも見える。
現に、すり鉢の底では地に伏せた騎士隊長の頭をグリグリと踏みつけているでは無いか。
騎士にあるまじき、屈辱のポーズ。と言うか、SMプレイだな。バニーガール姿だし。
言葉を失した俺を見て、田中が言った。
「楽しそうじゃん、お前も踏まれて来いよ」
「いや、遠慮しておくわ」
なんだよあの集いは。
いつ殺されるんだってピリピリした空気が、謎の熱狂に変わってしまった。
「どうせ死ぬなら、この娘に殺されたい」そんな声が聞こえてくる。
魔女の洗脳より可愛いモノと思って居たユマ姫の魅力だが、ある意味もっと恐ろしいモノなのかも知れない。
「いや、それにしても吹っ切れすぎだろ。恥とかないのかよ」
バニーガールとか、この世界ではお嫁に行けなくなるような格好よ? お姫様的にアレで良いのか? そんな俺の言葉を受けて、ゲラゲラ笑う田中が指差す。
「いや、そうでも無いみたいだぜ。ああ見えて、結構照れてる」
田中が指差した先、ようやっと俺達の存在に気が付いたユマ姫と目が合う。
足元に寝そべる騎士を無視して、痴態を見つめる俺達に、嫌そうな顔をチラリと見せる。
そして、プイっと顔を逸らした。
確かに、その顔はハッキリと赤かった。
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