ユマ姫観察日記3

 真夜中に叩き起こされた。

 テムザンの直属騎士が魔女を連れて戻ったとの事。

 マズイ。予定よりずっと早い。きっと木村だって王国陣地へ戻ったばかりのタイミング。


 まさか真夜中に叩き起こされるとは……


「テムザンめ、真夜中に何を考えているのだ!」


 タリオン伯、言ってやって、言ってやって! コレはあまりに非常識。

 だが、あれよあれよと言う間に、俺の周囲、スタジアムみたいな溜め池予定地、通称『すり鉢の底』に、ほぼ全軍が集められ、煌々と篝火が焚かれてしまった。


 これじゃ明日は全員寝不足確定だ。

 戦争の真っ只中にこんな采配は正気じゃない。


「どうやら、魔女は真実を話したいと言っているとか」

「そんな事で全軍を召集するとは良いご身分だな。それに従う将軍も何を考えておられるのか」


 ロアンヌの騎士達もザワついている。誰も詳細を知らないみたいだ。

 そうこうしていると、本当にこのすり鉢の底に全員を招集したらしく、ザワザワと喧噪が大きくなってくる。


 篝火がバンバン焚かれ、反射する甲冑がキラキラと輝いて昼間の様な明るさになっていた。

 落ち着かない。肌がザワザワと粟立つ。一体何が起こるのか?


 痛ッ!


 首筋に、チリチリとした痛み。俺の運命が、削られている!


「将軍と騎士団が来たぞ!」


 誰かが叫んだ。すり鉢の淵、見上げる高い場所に、テムザンとその直属騎士が並んでいる。


「皆の者、こんな時間に良く集まってくれた。今日は皆に重大発表がある」


 テムザン将軍が拡声器で叫ぶと、いよいよ夜とは思えぬ騒がしさになった。


 背筋がぐっしょりする程の冷や汗を俺は自覚する。なにせ見てしまったのだ、目を瞑った時、真っ暗な世界を。


 当たり前に聞こえるだろうが、違う! 俺は目を瞑っても人間の気配が、運命光が見えるんだ。

 なのに、このすり鉢は暗かった。

 つい先日まで、花畑みたいに多くの運命光が見えたのに。



 死ぬ!


 このままでは

 この場の全員が……



「ユマ姫、どうしたのです? 大丈夫ですか?」


 ロアンヌの騎士団長、マークスが心配そうに尋ねる。

 馬鹿のくせにこういう所は目ざといな、流石はイケメン騎士団長サマか。


「嫌な……予感がします」

「私もです」


 そりゃそうか、誰が見たって尋常じゃない。


 見上げれば、テムザン将軍の指示の元、すり鉢の淵には大きな木箱が運ばれて来た。

 あの箱は、一体なんだ?


「皆の者、見えるか? コレが、魔女じゃ」


 え? あの箱が魔女? 箱の中に魔女が居るのか???


 違う! 運命光は、箱の中に生物は居ないと言っている。俺はマークスに囁く。


「あの箱からは人の気配がしません! 爆弾かも! 気をつけて!」

「ッ! 解りました」


 マークスは俺を庇う様に牢屋の前に立った。前が見えないが仕方ない、いま頼れるのはコイツらだけだ。


「我々は、魔女を捕獲するために西に向かった」


 テムザンに続いて、語り出したのはテムザン直属騎士の騎士団長を名乗る男だった。図抜けた巨漢で田中より大きいかも知れない。全身鎧に身を包んでいる。


 威圧感のある大きな鎧姿、対するは極小の運命光。つまり、ああ見えて、アイツは既に死にかけている!


「魔女は怪しげな施設に我々をおびき寄せた。卑怯な罠に掛かったが、そんな物ハ我ラニはキカナイ。ワレラハ魔女の捕獲に成功する」


 叫ぶ直属騎士の様子がおかしい。

 落ち着きがなく、声も震えて聞きづらい。

 滑舌の悪さに苛立ったテムザンが拡声器を奪う。


「結果、魔女は人に化けるバケモノだと判明した。そして、魔女はこうも言ったそうじゃ、ユマ姫も同類のバケモノとな」


 テムザンの言葉はあまりにも荒唐無稽。兵達は一斉に怒号を挙げて抵抗を示した。


 そりゃそうだ。人に化けるバケモノってなんだよ? ンなモン有るワケ無い。


 かつて俺は『ルイーンの宝飾』という、姿を変える宝石のレプリカでカディナール王子を釣り上げた。

 あんなのは、あくまでお伽噺のアイテムだ。そんなモンが無い事は子供だって知ってるし、古代文明にだってそんな便利アイテムは存在しないのだから。


「鎮まれぇい! このテムザン。実はユマ姫に一度殺されかけておる」


 ギョッとした兵の視線が、一斉に俺に集中する。


 まさかと言う空気だが……ソッチは本当。


 しかし、俺は檻の中でふるふると首を振るだけ。

 そんな姿を見たロアンヌの騎士達は、ギリリと奥歯を噛み締めた。難癖をつけられたお姫さまを心底心配している感じ。


 しかし、テムザンは空気を読まずに叫び続ける。


「陣地にやって来て、檻に閉じ込めた夜、当日じゃ! 皆がユマ姫から目を離したのは湯浴みのときの僅か四半刻。あり得ぬハズの凶行じゃが、夢では無い。現に諜報員が無惨な姿になり果てていた」


 ザワザワと混乱する兵士の声が聞こえる。荒唐無稽に聞こえても、なにせ相手は歴戦の大将軍様。信じる者も少なくない。

 それでも俺の人気も大した物で、何を馬鹿なと鼻で笑う声の方が若干だが多そうに聞こえた。

 ここ数日の頑張りもムダじゃなかった。

 暗殺を恐れるあまり、兵達に俺を監視させ続けたテムザンの策が、見事に裏目に出ている証拠。


 白けた空気を感じただろうに、それでもテムザンは唾を飛ばして叫ぶ。


「確かに、我が陣内でそんな事は不可能! だが、その不可能も。姿が変えられるなら可能となる! 檻も幕も全ては無意味。それを証明する為に、今日はツボに閉じ込めたクロミーネ殿の変わり果てた姿をご覧に入れよう」


 そう言って、テムザンはすり鉢の底、俺が居る檻の前まで箱を運ばせた。

 近くで見ると、思ったよりも小さい。芋とかを入れる大きめな木箱。

 それが…………開いた。


「この小さなツボの中に、クロミーネが入っておる! 挨拶せい!」


 中にあったのは……小さな黒い球体。コレは? まさか小型の…… 


霧の悪魔ギュルドス!!」

『私はクロミーネ、皆さんにユマ姫の正体についてお話ししますわ』


 俺の叫びに反応したみたいに、小さくて黒い球体からは、黒峰の声がした。


 そして……真っ白な霧が噴き出す。


 やられた! コレはタダの録音! スピーカーが鳴っているだけ!


『私はクロミーネ、皆さんにユマ姫の正体についてお話ししますわ』


 だから、馬鹿みたいに同じセリフを繰り返す!


 ちゃちな、あまりにちゃちな仕掛け!


 しかしテムザンは録音もスピーカーも理解が出来ない!


 こんな小さな球体から声がすれば、中に黒峰が居るのだと信じてしまった。

 不定形のバケモノをツボに捕まえただと? クソ馬鹿ジジイが!

 後はそうだな、バケモノが逃げたら大変だと言って、フタを開けさせなければ良いだけだ。


 その証拠に、同じ言葉を繰り返す球体の異変に、サッとテムザンの顔色が変わる。

 今更に、騙されたのだと気が付いたのだ! ボケジジイが!


「何じゃコレは?」


 噴き出す霧の中。呆然と呟くテムザンに応える声は無い。

 代わりとばかりに聞こえて来たのは、メキメキと騎士団が『変形』する音だった。


 さっきは変身するバケモノなど居ないと言ったが、居た!


 但し、美しい姫に化けるバケモノではなく、バケモノに変わる元人間だ。


「オオォォォ!!!」


 全身鎧だったモノの下から肥大化した筋肉が姿を現し、体高までもが二割増しのサイズになった。

 凶化に近い、歪んだ生物兵器。


 俺はコレを見た事がある。

 橋での一騎打ち、その先鋒だ! 巨漢の兵士かと思ったが、普通の男を改造しただけだった。

 その証拠に、一流の騎士を元に作った怪物は、橋で見たソレよりも更に一回り大きい!


「ユマ姫! 早く!」


 マークスに手を引かれてハッとした。

 呆然としていた俺に引き替え、騎士団は瞬時に抜刀し、変わり果てた直属騎士に向き直っている。

 そして、マークス達は剣をバール代わりに鉄格子をねじ曲げて、俺が出られる程にこじ開けていた。

 勿論、牢を開けるのも忘れない。


「出て下さい! 早く!」

「は、ハイッ」


 伸ばされた手を取り、引っ張り出される。


 うぅ、我ながら情けない。マークスに助けられるとは。

 檻の中、すり鉢の底に居た俺は、霧を思い切り吸い込んでしまっている。魔法が使えない俺は、もはや普通の女の子。


 凶化して、多少はマシになったがソレでも魔力を奪う霧は辛い。蒼い顔でフラつく俺は、マークスに抱き寄せられた。


 見つめる先、ロアンヌの騎士達が次々とバケモノに轢き殺されている。

 膂力りょりょくが違う! アレは人間と言うよりも魔獣だ。


 俺は、マークスの腕の中、殺されるロアンヌの騎士を見て、胸が押しつぶされる様な気持ちになった。


 それが、なんとも情けない。


 残らず殺したいとか威勢が良い事言っておきながら、内心じゃすっかりほだされて居たのかよ。

 余りにも身勝手で、意志が弱い。

 戦わずに逃げてと叫びたくなる。でも、俺が言うべき言葉はソレではない。


 俺が鳴らすべきは、皆殺しの号笛だ。

 今更後に引くなど許されない。


 ギリッっと奥歯を噛み締めて、命を削って魔法を練る。

 霧の影響はあるが、昔セレナがやったのと一緒。

 今の俺は元々の魔力が高いから、霧に魔力が減じても、ちょっとした魔法なら使える。


 セレナと違って、人間を切り飛ばすような派手なのは無理だけど、今の俺にだけ使える魔法がある。


 驚いたのは、抱きしめるマークスも、俺を守るべく周囲を囲うロアンヌの騎士達も。

 まるで俺の魔力を阻害しなかった事。

 コイツらは、正真正銘、俺に殺されても構わないと思っているのだ。


 そうして、ようやく練り上げた魔法が完成する。


 だけどソレは、ひどく簡単な魔法。

 拡声の魔法だ。


 声を大きくする、ただソレだけの魔法。


 だけど、そうやって、帝国軍の全員に聞かせた声は、

 どんな魔法よりも、魔法となった。


 叫んだのはたったのひと言。



「みんな! お願い! 私を、守って!」



 震える声で、心の底から助けを求めた。

 俺の声は、集まった帝国軍の隅々まで響いた。


 だってさ、俺の為に戦っているのに、逃げろだなんて余りに野暮だ。


 だからせめて、お姫様らしく「助けて」と言いたかった。

 そして、俺は本心から助けて欲しいと願っていた。


 俺にしては何の嘘も無い、ただ助けてと願うだけのひと言が、その場の空気を一変させる。


「オオォォッッ!」


 一斉に雄叫びが上がった。

 ロアンヌの騎士だけで無く、呆然としていた兵士達が一転、直属騎士だったバケモノに突っ込んで行く。

 一方で、虎の子だった騎士団の変貌に、正気を保てなかったジジイが居た。


「殺すな! 操られておるだけじゃ! 押さえ込め!」


 霧の悪魔ギュルドスで動かなくなった拡声の魔道具を片手に、テムザンが怒鳴っている。

 にも関わらず、兵士達は誰もが抜刀して、殺す気でバケモノへと斬り掛かっていた。


「やめろ、殺すな! ワシの、ワシの騎士じゃ」


 ぐったりとするテムザン将軍を、もう誰も見ていない。


「グオォォォォ!」


 しかし、それでもバケモノと化した直属騎士は強かった。

 三人で囲んでも、平気で押し返す膂力がある。

 三人で駄目なら四人、四人で駄目なら五人で掛かる。


 直属騎士達はたったの五十人。

 万にも届く帝国軍全員で当たれば、対処は難しくないと思われた。


 ……その瞬間。


 ――ドオオオオオォォォォン!


 突然の爆発。それも、砂で固めたすり鉢が崩れる程の大爆発。


 コレは? 去年見た迫撃砲もどき!


 いや、威力はもっと高い! 完成してたのか!


「グオオオオォォォオオオ!」


 そして、次々着弾する迫撃砲はバケモノもろとも兵士達を吹き飛ばした。

 全くの無差別爆撃。しかし、無差別なら俺の『偶然』は確実に俺を狙うのだ。


 俺を守って取り囲む、ロアンヌの騎士をも巻き込んで!


「ここから、逃げて!」

「!? はいッ!」


 ――ドオオォォォォン!!!


 爆音、そして衝撃波、少し遅れて砂粒が雨の様にパラパラと降り注いだ。


 俺を守っていた騎士はマークスを入れて四人。

 そのうち、俺が叫ぶと同時に駆け出したマークスだけが生き残った。もちろん、マークスに抱きしめられた俺も無事だった。


 さっきまで居た場所を見れば、無惨な挽き肉が三つ転がっていた。


 俺は歯を食いしばり、その死体を目に焼き付ける。

 だけど、マークスはそれを遮った。


「ありがとう、姫のお陰でこのマークス。一命を取り留めました」

「そんな!」

「我々は騎士です。こんなモノは何でもありません」


 違う! 本当は俺が殺したも同然なんだ。

 いや、この状況を魔女に作らせた原因が俺だと言って良いだろう。


 兵士は逃げ惑い混乱を生み、バケモノは恐れを抱かずに暴れ回る。

 おまけに爆弾を適当に放って混乱を加速させれば完成だ。


 コレは『偶然』で俺を殺す為の、俺専用のキルゾーン!

 俺は怒りと悔しさに、思い切り奥歯を食いしばる。


「気に病む必要はありません。これが我々の仕事です」

「ですが!」


 俺は敵国の姫だろうがッ! そんな騎士の誉れがあるかよ。


「こんなもの、火が熾せない程度の事ですよ。あの時のお礼で十分です。ああ、どうやら私の仕事のようです。姫はお逃げ下さい」

「なっ?」


 俺はマークスに投げ捨てられた。


 同時に、覆い被さる巨大な影。

 正気を失った直属騎士バケモノが『偶然』にコチラに突っ込んで来たのだ。


「早く! お逃げ下さい!」


 叫ぶマークスを背に、俺は走った。

 一瞬だけ振り返ると、マークスは襲いかかるバケモノを必死に押し止めていた。


 奥歯を噛み締め、すり鉢状の砂地を必死に駆け上がる。


 逃げないと! 早く! 皆を巻き込んで殺してしまう!


 しかし、か弱い女の子でしか無くなった俺には、ただの急な斜面が辛い。少し駆けただけですぐに息が上がってしまう。


 単純に運動不足だ。

 なんとか鍛えていたつもりだったが、囚われの身で運動するのは案外難しい。


 と、そんな俺の目の前に、バケモノ以上に大きい影が差す。


「サファイア!?」


 それは、あの、不気味なまでに賢い馬だった。


「助けてくれるの?」


 これぞ、渡りに船。

 俺は嬉々として近寄ったのだが……


 首筋にチリリと痛み。


 ――クシャッ!


 飛び退いた瞬間、俺が居た場所を蹄が思い切り踏みしめていた。


 間一髪!

 お前! 俺を殺そうと!?

 この期に及んで!!!


 見上げるほどに大きな白馬と睨み合う。

 コイツ、俺が弱ってると見て、勝負に出やがった!


 と、急にサファイアは踵を返して、お尻を見せる。

 逃げるのか? 違うッ!


 俺は慌ててその場にしゃがむ。直後、恐るべき獣の脚力が頭上を切り裂いたのが、ボッっと弾ぜる空気の音でハッキリ解った。


 立っていたら、死んでいた。この馬、どうやっても俺を殺す気か!


 しかし、弾けたのは空気だけでは無かったのだ。


 ――グチャ!


 振り返ると、黒ずくめの男が死んでいた。テムザンが雇っていた暗部の人間に違いなかった。背後からどさくさに俺を殺そうとしたのだろう。


 そうなると、さっきの後ろ蹴りも意味が変わってくる。


 ……実は、ひょっとして、この馬サファイア。俺を守ってくれた?


 期待を込めて見つめると、サファイアは小首を傾げて可愛らしく、媚びた瞳でコチラを見ていた。


 ……わざとらしい! コイツ、変に賢い!


 怖いんだが? 本当に馬かコレ?


 でも、まぁ、死ぬならお前も道連れだ!

 コレぐらい調子が良い方が、巻き込むのに丁度良いだろう。


 俺が不格好に馬上によじ登ると、手綱を握る前にサファイアは駆け出した。暗闇の中、爆発の砂塵を避け、飛び掛かるバケモノをヒラリと躱す。


 サファイアはあっという間にすり鉢を脱出した。


「えっ?」


 すり鉢を脱出した俺が見たモノは、大量の篝火だった。


「何?? なんで?」


 呆然と呟く。コレは一体?

 虚空に消えるハズの呟きは、しかし、暗闇の中からの返答を受ける。


「そりゃ、真夜中に敵が集会を開くんだ。夜襲でもあるのかと警戒もするだろ?」

『田中!』


 驚く程に、近くに居た。

 黒ずくめだから気付かなかった。今日は鎧も着ている。


「助けて! 早く!」


 俺は今もバケモノと戦うロアンヌの騎士を指差し、頼んだ。


 利用するだけのハズの在庫処分に、何を入れ込んでいるのかと笑われるかも知れない。でも、助けたい。


 そんな俺を見て、やっぱり田中は笑った。


「へぇ、良いじゃねぇか」

「何を?」

「悪ぶってるよりマシだってんだよ。殺したい奴が殺せば良いんだ。俺みたいにな」


 そう言い捨てて、田中はすり鉢状の砂地を駆け下りていく。行く手を遮るバケモノが『分割』されたのが、弱々しい篝火の明かりでもハッキリと見えた。


「俺も!」


 回復魔法は早めの処置が大事なんだ。そう思って馬を走らせようとした俺は、背後から抱えられて、馬から引きずり下ろされた。


「なっ!?」


 ……暗部の殺し屋? しかし、その体は柔らかい。


「駄目よ、行っては駄目。ソレはアナタの仕事じゃ無い」


 シャリアちゃんだった。俺は口元を押さえられ、声が出せない。


「アナタの仕事は、ここで皆の戦いを見守る事よ」


 でも! ああっ、マークスの背骨が変な方向に曲がっている。

 今ならまだ間に合うかも! なのに!


「駄目よ、死んでる」


 目の前で、人が死ぬ。

 コレが戦争の現実だと、目の前で見せつけられた。



 結局、俺は、夜が明けるまで、戦場を見守るしか出来なかった。


 最後には到着した王国軍が取り囲み、すり鉢の淵から打ち下ろす格好でマスケット銃を斉射する。


 帝国軍は混乱し、ロクに反撃も出来ないままに敗北を喫する事となった。


 結局の所、俺は疫病神としての本領を遺憾なく発揮したと言う訳だ。


 朝焼けの中、俺は血まみれのマークスを抱きしめ鎮魂歌を歌う。


 涙を流す兵士をよそに、俺はクロミーネへの殺意を新たにしていた。

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