変人しかいない

 あの後、俺は木村の手の平をペロペロと舐め続けたらしい。


 らしい、と言うのは記憶が曖昧だからだ。

 更に言うと舐めるのを止めた後も、多幸感に包まれた俺はひたすらにボーッとしていたらしい。

 『参照権』に記録はあるのだが、まるで実感が無い。味覚と言うのはかくも人を壊すのかと戦慄したね。


 で、今回の出撃の収支を見てみよう。

 失ったの方から言うと、まずは近衛兵の兵士達。

 選りすぐりのエリートである彼らはボルドー王子が肝いりで育てていた盟友でもある。

 家督を継げない貴族の次男坊三男坊とかで構成されているので、死体をあのままと言う訳にも行かない。

 健康値が多いメンバーで死体を回収したワケだが、その状態が問題となった。


 ……食べちゃったからね。


 まぁ、彼らが正気を失っていた事はゼクトールさんがその身をもって知っている訳で、損傷の激しさに関しては、いたぶる事で正気に戻そうとしたと公的には説明させて貰った。

 だが、それだけでは説明出来ない傷も多々あり、シャリアちゃんが空腹で倒れそうな俺を見かねて死体を食べさせた事を、ゼクトールさんにだけは正直に報告した。

 人間を食べるなんて、この世界だって禁忌も禁忌なんだがゼクトールさんは受け入れてくれた。

 むしろ、まんまと洗脳された戦友に憤りを隠せない様子で「神聖不可侵たるユマ姫に、邪なよこしまな感情を抱くから足元を掬われるのだ」と遺品を前に悔し涙を流していた。


 ……なるほど、神聖不可侵か。ちょっと愛が重たいぞ?

 その割にセクハラしてくるのは何なんでしょうね?


 なぜゼクトールさんだけ洗脳されなかったのか不思議だったのだが、近衛兵の他のメンバーには「あわよくば俺がユマ姫と……」と言う欲があり、そこを付け込まれたと、ゼクトールさんは言っていた。


 なるほど、そう言う意味では確かにゼクトールさんは妻子もある身。

 ……いやいや、死んだメンバーも妻子は居たりするんだが?

 どう言う事かとゼクトールさんに尋ねれば、妻子など関係無く虜にする程の魅力が俺にはあるのだと力説されてしまった。ユマ姫は無自覚過ぎると。


 じゃあゼクトールさんが洗脳されなかった理由は何かと問うと「私ではユマ姫と釣り合わないですから」と言う謎の感情だったので、もう恐い。


 何て言うか、おっさんがアイドルを応援する感じなんかな?

 グッズや私物は欲しいし、握手とかもして欲しいけど、お付き合いしたい訳じゃないし、出来ると期待してない。

 そんな感じらしい。


 他に被害と言えば、俺達が遺跡に入っている間も魔獣の襲撃があったらしく、軍には少なくない被害が出ていた。

 とは言えそれらは魔獣退治の訓練だとでも思えば、ある程度仕方無いモノだろう。


 他には……ああ、ゼクトールさんの怪我はあっさり回復魔法で治ったので、被害の内に入らない。

 そうそう、俺の魔力値は徐々に回復している。回復魔法ぐらい使える程度には。

 ただし、今の俺は肉体的に非常に不安定。健康値も一桁から二桁後半まで、測るタイミングで数字がメチャメチャに荒ぶる始末。


 精神的にも不安定で、攻撃的になったり、無気力にボーッとしたり、全く落ち着かない。

 恐らくは一度死んで凶化した事が原因だ。この不安定さと『偶然』が組み合わさると酷い事になりそうで、しばらく大人しくするしかないだろう。



 そしていよいよ今回の成果なのだが……失ったモノを補って余りある。


 まずは俺の片目、片腕、味覚の復活だ。正直メチャクチャ不便だったので素直に嬉しい。

 そして、なんと言っても生きた遺跡を手に入れられたのも大きい。

 しかも、その遺跡を十全に使いこなす知識もある。体が安定するまではこの遺跡を拠点にした方が良さそうだ。


 更に更に、相手へ与えた被害と言う意味ではどうだ?

 敵の特殊部隊を壊滅させ、敵軍のキーマンと覚しき怪しい男、ノエルの打倒が叶った。

 もっと言えばシャリアちゃんの働きで、クロミーネにも手傷を負わせることが出来たとか? こりゃあ相手の被害は甚大だろう。

 田中と出会えたのも収穫と言えば収穫だが、アイツはノーカンで良いだろう。ウザイからプラマイゼロまである。


 総括すると悪くない。いや、大戦果と言えるのでは?


 ……思えば、俺の『偶然』は今回は控えめ……とは言えないな。焼け死んでるし。

 それでも、なんだかんだピンチの度に都合良く打開策を発見出来たのは幸運としか言い様がない。『偶然』は俺に味方しないハズが、どうしてか?


 これには俺に心酔する集団が、数千と言う単位でそばに居た事が影響してそうである。


 そう考えれば、一見無駄に見えた大軍勢を組織しての進軍も、全くの無駄では無かったと言えるのでは無いだろうか?


 以上、総括終わり!!!!


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「いや、無駄も無駄。大赤字でしょーよ」


 そうやって冷たい事を言うのは誰だ! ヨルミちゃんである。

 あ、女王ヨルミ様って言った方が良いですか?


 体調不良でゆっくりと魔導車の中で寝込んでいた俺は、気が付けば王都に帰還していた。俗に言うところの気絶ワープである。


 そんなありさまなので、王都に帰ってからも俺は療養に数日を要した。


 そしてようやく女王であるヨルミちゃんに成果を報告。体が治ったことには素直に喜んで貰えたが、軍の被害を報告すると顔を蒼くした、と言う訳だ。


 ここはガラスを多用した天窓からの大胆な採光で知られるサロンの一室。お洒落な白いテーブルセットに腰掛けて、女の子二人でお茶をしながらおしゃべり……


 ……と言うには少しばかり深刻なお話となってしまった。


「えっと、ヨルミ様」

「ヨルミちゃんでイイヨー、それよりさー、兵の損耗が激しすぎるよ。戦争でも無いのに傷病者多過ぎ、もう魔力が濃い場所に進軍するのは止めてね」


 そんなー。


 とかおちゃらけてる場合じゃ無いな。うーん、エルフと交易をしたいのだが、このザマじゃどうにもならない。

 道路の整備とかもしたいのだから、兵士の徴用禁止令は厳しい、なんとか説得しなければ。


「ですが、今回の出兵で兵士達にも魔獣を退治したと言う自信がついたでしょう? カディナールの不祥事で揺らいだ王国の威信も回復したのでは?」


 大牙猪ザルギルゴールの巨大な死体をわざわざ王都まで運んだのも、威信回復が狙いだ。俺は出てないけど、凱旋パレードは盛り上がったハズ……コレぐらい宣伝費と割り切って欲しい。

 だが、ヨルミちゃんはジト目でコチラに圧をかけてくる。


「なーにが威信回復ダヨー、兵士達の武勇伝はユマ姫の魔法で巨大な魔獣を屠った話題で持ちきりダヨー? 騎士とか役に立たない位に言われてるんだケド? むしろ威信が危篤で息してないんだケド?」

「…………」


 一理、ある。


 大牙猪ザルギルゴールは固いからね。兵士が槍をヤーと突き出しても刺さらない、もちろん突進なんて止められない。景気よくポーンと打ち上げられるだけ。

 仕方無いから、道中の大半は俺が倒していた。コレでは兵士の自信に繋がる筈も無い。

 騎士団は重装備を固めて突進を止めたりもしてくれたんだけど、これ幸いと俺がトドメを刺してしまったから、被害の割に全く目立っていないんだよ。


 ん? でも帰りはどうだったんだ? 俺は寝込んでて何もしてないぞ?

 それを聞いてみれば、呆れた顔をされてしまった。


「タナカさんでしょーよ。バスバス魔獣を切り裂いたって話題を攫ってますー、劇もますます大人気だって」


 拗ねた様子でヨルミちゃんがぐでーっと机に手を伸ばす。

 うーん困った。アイツが目立てば目立つほど、破天荒で無茶苦茶やらかした時の反動がデカくなる。

 田中がそのへんで拾い食いとかして、市民の顰蹙を買う姿をまざまざと想像してしまう。アイツならそれぐらいやりかねないよ?(偏見)

 とかく、いきなり上がった名声など脆いモノ。そう言う意味では下がった威信だって同じコト。何かの拍子に上がっても不思議ではない。


 俺はヨルミちゃんへと穏やかに微笑みかける。


「ですが、王国の威信など地道な活動で回復するしかないでしょう?」

「ムニャー! 眠たい事言ってる間に財政が傾くニャー」


 メチャクチャだろ、この人。

 だけど、貴族達の寄進が少なくなっているのも事実で。

 なにかしようにも先立つものが必要なのは絶対だ。


「今、心配なのはニャ? 実は王国はキィムラ商会からかなりお金を借りてるにゃ」

「……そうなのですね」


 アイツ、ヤバいぐらい金持ってるみたいだしな。


「でね、キィムラ男爵、あ、こんど陞爵しょうしゃくするから子爵かな? からの援助が減ると激痛にゃのよ。でもね、タナカさんが現れて、その……」

「……?」


 ヨルミちゃんは珍しく言い淀む。

 ……いや? 何を心配してるんだ? 俺はコテンと首を傾げる。


「にゃーにを不思議そうな顔してるかなー! アンタがタナカさんとくっついちゃったら融資が止まっちゃうじゃないの!」

「にゃに?」

「にゃに? じゃないにぃ!」


 俺が? 拾い食いするような奴と?(偏見→確信)

 いやーナイナイ。そんで、それとキィムラの融資に何の関係が?


「むぅ、本気で言ってるぅ? キィムラさんはアンタに惚れ込んでお金を出してるんでしょーよ」

「そうですか? 王国の中枢に食い込む事で、今まで以上に利益を得ている様に思いますが?」

「それはそれ! でも、好いた女が他の男とイチャイチャしてるのに、同じように融資は出来ないでしょーよ」


 うーん誤解。


「それにね……今、結婚とかになると王国としても贈り物のひとつやふたつしないとだけど、予算がね……だからね」


 ヨルミちゃんが言うには、俺には田中か木村かハッキリさせずにフラフラと悪い女として立ち回って欲しいらしい。

 うーん。


「お断りします」

「ふにゃーーだめぇ?」


 ダメと言うか、前提が間違っている。

 と、ソコにシノニムさんから御注進が。どうやらその木村が来ているらしい。


「通して下さい」

「ふにゃ? 説得してくれる?」


 縋るような目で見てくるが、説得も何も融資を引き上げるとは言ってないんでしょ?


 しばらくして木村が登場した訳だが……


「……と言う訳で、融資の急な引き上げは容赦して頂きたいと言う事ですが」

「にゃ! ストレートに言い過ぎ!」

「……その前に確認したいのですが」

「なんですか?」


 木村が俺に? 何だ?


「ユマ姫はタナカ氏と結婚の意思があるのですか? 当商会としても盛大にお祝いをしたいと思いまして」

「……ブヘッ」


 思わず「テメェ頭オカシイのか!」って言いかけたじゃねーか!

 で、木村の顔を見れば、クッソ! メチャクチャにニヤニヤしてる! ヨルミちゃんがいなければぶん殴ってるよ?


「ふにゃー? キィムラ様はユマ姫が好きだったんじゃないんです?」

「勿論、愛しておりますが、御身の幸せこそが私の幸せですから」

「ふーん、愛だねー………………実はホモだったり?」

「違います!」


 良いぞ! ヨルミちゃん! 木村は即座に否定するが、実際怪しいよな。あれだけお金があったら俺なら奴隷を並べて毎晩お楽しみだよ。

 俺も追撃して良いか?


「木村様、同性愛は不毛ですよ」

「誓って、違いますから!」

「にゃー女っ気が無くて怪しいよん、興味ないんじゃないの?」


 怪しむヨルミちゃん、だがそれに言いつくろう木村の一言で場が凍り付いた。


「いえ、今も王国を代表する美女二人に囲まれ、光栄に思っている位ですから」


 マズイ! なんでもない様に吐いたキザなセリフ。通常問題になるモノでは無いが、今、容姿の事をヨルミちゃんに言うのは地雷なのだ。


「…………」


 あー機嫌を損ねちゃったよ……、露骨に顔を顰めてカリカリとテーブルを引っ掻いている。


「キィムラ様、余り容姿の事を女性に言うモノでは……」

「どうしてでしょう? 美しいモノを美しいと言うのは罪なのでしょうか?」

「美しくないモノを美しいって言うのは罪なにょよ!」


 あ、ヨルミちゃんがキレた。一方で木村は困惑顔だ。何事もそつなくこなすのに珍しい。


『ちょ、ちょっちょ? なんでヨルミちゃん怒ってるの?』


 慌てて俺に近づくと、なんと空気を読まず日本語で質問してきやがった。


『いや、俺と容姿を比べられるのを心底嫌がってるんだよ。俺と違ってソコまで可愛く無いじゃん?』


 チラリとヨルミちゃんを見やる。

 可愛く無いと言うか華が無い、非常に地味な顔なのである。

 よほど権力者に向かない押し出しの弱い容貌であった。


 普段は飄々としたつかみ所の無い彼女も、ここ数ヶ月、散々に俺と容姿を比較されて参ってしまっているらしいのだ。


 実際に、二人で並ぶと人気の差は歴然。エルフへの恐れが憧れにすり替わり、人間なんて、王族なんて、と言う声までがチラホラと。


「……うぅ、ホントは解ってるにゃー。王国の威信が落ちっぱなしなのはワタシが可愛く無いのが原因なのにゃ!」


 あっ! とうとう拳を握り締め、悔しげに泣き始めてしまった! 普段つかみ所の無い女の子がガチ無きしてると、なんというかコッチも悲しい気分になる。


「ヨルミ様、王に必要なのは容姿ではありません。ビルダール王国の主として、ヨルミ様は立派に仕事をしています」

「でも、でもぉーわたしだって頑張ってるけど、ぶさいくだと頑張りが認められにゃいのにゃー」

「解ってます、私は解ってますからー」

「ユマちゃーん」


 二人でガシッと抱きしめ合う。そんな光景を楽しげに見つめるのが木村だ。


『あら^~』


 アラーじゃねーよ! イスラム教徒か? 改宗しろ!

 俺が苛立ちに顔を顰めると、木村はチョイチョイと肩をつつく。


『あ、あのさ、聞きにくいんだけどさ、マジでヨルミ様が可愛く無いと思ってる?』


 ん?


『俺はてっきりお前を目立たせるために敢えて地味なメイクをしてると思ってたんだけど……』

『いやいや、最近はどうやってヨルミちゃんに花を持たせるかで頭を悩ませてるんだけど?』

『マジかよ、ちょっと俺に任せてよ』

『……良いけど?』

「あーもう、知らない言葉でわたしの悪口言ってるー」


 言ってない言ってない! さしものヨルミちゃんもスッカリ拗ねてしまっている。

 ってか、幼い口調だけど本当は頭は良いし、歳もそれなりに行ってるんだよね。幾つだっけ? 全然年上だったと思うが……


 そんなヨルミちゃんの手をとって木村が囁く。


「いえ、ヨルミさまは掛け値無し、王国でユマ姫と並び立つ美人だと話していた所です」


 おお? 言うじゃ無いの。マジ?


「また、お前までそう言う見え透いたお世辞を言う」


 ヨルミちゃん、融資がどうこう心配していたのにお前呼ばわりである。大丈夫か、この子?

 ぶりっ子の語尾もまるで安定しないし。


「宜しければ、私に化粧をお任せ頂きたい」


 自信満々にそう言うので、木村が化粧品を用意してヨルミちゃんのメイクをする事になったのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 そうして、大鏡の前にヨルミちゃんお化粧大作戦が始まったのだった。

 木村、俺、ヨルミちゃんは勿論、フィーゴ少年、シノニムさんにネルネ、後はヨルミちゃんの侍女が4人。

 結構な大所帯である。


「顔なんて、骨格とパーツ配置のバランスが九割なんですよ」


 軽やかに口を回しながら、化粧をペタペタとヨルミちゃんの顔に施していく木村。


「ヨルミ様は骨格のラインも流麗で、鼻筋も通っていますし、目の配置も素晴らしい」


 木村がそういって褒めると、ヨルミちゃんは益々機嫌を悪くした。


「褒め方雑じゃにゃーい? 目と鼻が揃ってるから美人ってぐらいに聞こえるんだけどー?」

「いえ、配置と大きさのバランスが素晴らしいのです」

「でもぉー」


 不満たらたら、ヨルミちゃんは隣に映った俺を見る。

 比べると華やかさの差が一目瞭然。

 俺は特に美容を頑張ってる訳でも無いので、なんというか……申し訳無いね。


「ユマ様の顔は華やかであらせられるので、手を入れる部分は少ないのですが……」


 言いながら取り出したのは付け睫毛? そんなモノあるのか! 多分手作りだろうな。


「コレで睫毛を増やし、メイクでアイラインを強調、アイシャドーも使い、ファンデーションで顔色を調整。あー肌のキメが細かいので化粧のノリが良いですねー」


 手慣れた様子で化粧を施していく。そう言えばコイツ、化粧品も作っていたな。


「確かにヨルミ様の顔に派手な部分はありませんが、その分、お化粧次第で好きな様に印象を変えられるのです。まるで真っ白なキャンバスの様にどんな女性にも変身できるのです。それが出来るのも顔のパーツが整っていて、肌のキメが細かく、主張するパーツが無いからこそ」


 メッチャ早口で言ってます。

 だが、そうじゃなくても誰も木村の口上を止められなかっただろう。それぐらいヨルミちゃんの容姿が衝撃的に変わっていくのだ。


「それだけに、幾らでも美しく仕上げる事が可能なのです」

「これが……わたし?」


 鏡に映ったヨルミちゃんは最早別人。


 いや、コレ凄いな。全く原型を保ってないのだが?

 そう言えば前世でもよく見た化粧でのビフォアーアフター。アレで劇的に美人になる人の顔とヨルミちゃんって似てるかも知れない。

 目が小さくて印象が薄いんだけど、パーツのバランスが整っている。


「これなら! コレならユマ姫と一緒に登壇しても見劣りしないにゃー」


 ヨルミちゃんが自信を取り戻して一件落着……なのだが、木村がとんでもない事を言い始めた。


「勿論です、それどころかユマ姫様の様に、舞台で歌や演劇を披露しても良いのでは?」

「え゛?」


 そんな話、聞いてないんだけど? それひょっとして俺も付き合わされるんじゃない?


 だが人気が欲しいヨルミちゃんは食いついた。


「おー! それで、キィムラ子爵は毎回わたしにメイクしてくれるかにゃ?」

「勿論、我が商会での公演となればバックアップさせて頂きます」

「それ以外だと、ダメ? 公式行事とか」

「それは……私も忙しい身でして、それに今回の化粧品も最高級品なのでお値段が……」

「にゃ? どんぐらい?」


 そう言われて木村が提示した金額は……いやー恐ろしいね。貴族向けの化粧品ってヤバい値段ですわ。

 それを見たヨルミちゃんなんて魂抜けかけてるし、マジでお金無いんだな。カディナール王子のやらかした後の火消しにお金を使いすぎたね。

 それにヨルミちゃんには支持者も少なくて最高権力者とは名ばかりで収入が少ないらしいから……

 放心していたヨルミちゃんだけど、美人になったのは間違い無い。ヨルミちゃんの侍女なんて途中ですり替えたのかと心配しているぐらいである。

 真顔で「魔法ですか?」と問われてしまった。

 なんにせよコレで問題解決かな? 王族の人気も盛り返す事だろう。


 うんうんと頷いているとヨルミちゃんから抗議が上がった。


「にゃー寧ろ予算の問題は悪化してるにゃー」


 チッ気付かれたか!


「こうなったら木村サンの提案に乗っかるヨ! ユマ姫と一緒に、二人で歌でも歌ってお金を稼ぐ!」

「え? 私もですか?」


 やっぱりかよ! 俺はもう人気取りは十分。もう恥ずかしいので勘弁して欲しいのだが?

 動揺する俺に、木村がそっと囁いた。


『世界初の百合アイドル営業でお願いします』


 コイツメチャクチャ言いよる。


『ど、同性愛は不毛ですよ』

『不毛で結構。ツルツル幼女の百合アイドル。良いと思います』


 コイツ拗らせまくってるじゃねーか!

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