新しい魔法を探す

 この世界はおかしい。


 俺は繭みたいなベッドの中で悶々としていた。


 迂余曲折あって俺は最近、魔法を覚えた。ようやく異世界転生らしくなってきたところである。


 まず俺は、魔導回路を組み合わせて、ファイアーボールの魔法を作った。格好いい呪文もセットでだ。


 しかし、先生にドヤ顔で披露した矢先、それは赫珠の魔法とバッサリやられてしまう。


 ソレだけなら別に驚く事ではない。車輪の再発明を無知な子供がやらかしただけ。


 しかし、その車輪の名前が『タイヤ』だったら話は違ってくる。


 この場合、赫珠と言う単語も呪文も、俺は自分で思いついた。思いついたつもりだった。


 なのに、その呪文も含めて既存のモノだったのだ。


 『新しく思いついたつもりがどこかで耳にしたモノだった』なんてのは良くある話。


 だけど、俺には『参照権』がある。

 俺は一度も赫珠なんて単語を耳にしていない。なのにその意味も名前も、当たり前に理解して使っていた。


 逆に、真空波の魔法は正真正銘、完全に俺のオリジナル。偉い魔法の先生も存在を知らなかった。


 だが、呪文は思いつかなかった。真空を意味する単語も解らない。


 コレは、なんだ?


 違いと言えば、使えるか、使えないか、だ。

 赫珠だって威力はまるで無かったが、火を付けるぐらいの役にはたつ。


 一方で、真空波はまるで使い道のない謎魔法だ。


 使い道がない。だから呪文が『登録』されて居ない。そう考えるとしっくりくる。


 これじゃ、まるでゲームみたいだ。


 ゲームではレベルが上がると勝手に魔法を覚える。


 けれど全く無用な魔法は覚えない。真空波! って言いながらただ気圧が低いカタマリを造るだけの魔法なんて存在しない。


 効果も、名前も、あらかじめ決められている。この世界の魔法もそうなのだ。


 健康値と魔力値ってのが登場した時に、ゲームみたい! って思ったけれど、コレは輪を掛けてゲームっぽい。


 使える使えないの判断をしているのは誰だ?

 まさか神か?


「うみゅぅ」


 考えだしたら寝れなくなってしまった。


 盛大に寝返りを打つ。もう見飽きた根っこの天井を見上げ、思索を続ける。


 確かに、神は居る。

 俺は直接、会話もした。


 だからこそ違和感がある。あいつはゲーム的なシステムを運用するような奴だったか? MMOの運営みたいな仕事をするか?


 そんなに面倒見が良いタイプとは思わなかった。どうにも違和感がある。


 なんにせよサンプルが少ない。実験を重ねるしかないだろう。


 もし俺が役に立つ魔法を作ったら、呪文を思いつくのだろうか? まずソレを確かめようとした。


 どうせ寝れそうにない。転がるように繭のベッドから起き上がる。


我望む、光よラ・ガンスール・ディン


 あの光を作る魔導回路を思い浮かべる。

 すると、自然と呪文が口を衝いた。


 手の平に暖かな光が浮かぶ。


 まぁ、コレは既に呪文を知っている。そして『参照権』と紐付けてしまった。


 だから、とっさに口ずさんだとして、そうおかしくはない。


 じゃあ、この光を赫珠みたいに球状に固めて放り投げる魔法はどうだろう?


 今までの魔導回路の応用だ。さして難しくない。回路は簡単に思いつく。


 すると、どうだ?


我、望む、この手より放たれたる光珠よラ・ガンスール・ルサナース・ディン・ル


 知らない呪文を、口ずさむ!


 やはり、この世界には何らかのシステムがある? ゲーム的な世界なのか?


 手から飛び出してぽよんと壁にぶつかって地に落ちた光珠を呆然と見つめる。


 ……いや、まだ早い。


 光は、ディン。光球はディン・ル。赫珠はガズィ・ルだった。


 類推出来る範囲である。

 カズィは、古代語だから日常会話には決して出てこないが、ルが珠状と言うのは日常会話にもタマに出てくる。


 珠だけに。


 ……現実逃避はよそう。


 次に、俺はこの光球を複数飛ばせないかと考えた。きっと見映えが派手で面白い。燃えたりしないから、制御を誤っても危険がない。


 で、出来た。


我、望む、この手より放たれたる光珠達よラ・ガンスール・サナース・ディンザ・ル


 最後が、ディン・ルからディンザ・ル。に変わった。


 ザが複数形なのだろうか?

 聞いたことが無い。なにせ呪文はエルフにとっても知らない言葉。古代語なのだ。


 現代語なら、ラナ・ル・ダルとなるハズ。まだ現代語もおぼつかないけどさ。


 この呪文、あっているのだろうか?

 出来れば誰かに聞いてみたい。


「どうしました!?」


 ちょうど良い。

 寝たはずの幼女の部屋がめちゃんこ明るくなって、何事! と飛んで来たピラリスさんに聞いてみよう。


 メッチャ睨んで来てるけど、気にしない! いや、やっぱ気になる。


「あの?」

「いい加減寝て下さい、お体に障ります」


 普通に、怒られた!

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