第13話 白銀の神滅器、奪われる魔導書#02

「……ごちそうさまでした」


「お粗末様です」


 夕食のラーメンを食べ終えるといのりはワクワクとした様子で切り出した。


「では夕飯も済みましたので、早速稽古を始めましょう!」


「ワクワクしてるねぇ……。そんなに戦うの好きだったっけ?」


「いえ、必要があれば戦うぐらいです。けど今は護るべきものが増えました」


「島の人たちね」


「はい。私はこの島を護る巫女になりました。それなりの責任と言うヤツです」


「ん、まぁそうでしょうね」


 島の巫女と言うのは他国で言う領主であり、巫女は任された島を外敵などから守護する役目を担っている。いのりはその巫女の一人であった。


「特訓ももちろんしてます。けどやっぱり、先生と稽古出来るなら、それが一番身になるんです」


「はぁ……まぁ、約束は約束。外に出ようか?」


「はい!」


 ツムギは覚悟を決め外の演習場へ向かう。その後をいい返事をしていのりが付いて行く。

 演習場へ出るとツムギといのりは向き合い、ツムギは魔導書ラノベから白銀しろがねの長槍を取り出し魔導書は栞を挟みコートのポケットへセットする。いのりは腕のブレスレットに触れてアイテムボックスと呟く。そしてそこから取り出したのは1m程の白銀の槍であった。


「起きて雪姫!」


 いのりが銘を呼ぶと槍は身の丈程の白銀の長槍になる。


「稽古だし、まず一つ」


「はい」


「アイテムボックスの起動に手を触れて、って言うのは初心者。いずれはくうから自然と出せる様にね?」


「先生のラプラスボックスみたいにですか?」


「Yes。指輪やブレスレット型のアイテムボックスの利点は、虚空からの自由な出し入れ」


 ツムギは槍を地面に突き立てて、虚空から別の魔導書を出し入れし実演して見せる。

 それを見るといのりは分かりましたと返事をした。


「ん。まぁそれは、今後の特訓の一つにするとして……始めるかい」


 ツムギは槍を手に取り、低く構える。


「そうですね。時間は有限ですし、始めましょう」


 いのりは両手で雪姫を持ち構える。

 いのりが構えたのを見るとツムギは地面を蹴り近づくと突きを放つ。いのりは突きを弾き上げ、反撃に柄の端で突っ込んで来たツムギの顎を狙い打ち込む。

 いのりの反撃を受けツムギは槍の柄でガードするもよろめく。


「ッ……」


「っ!」


 いのりは隙を逃さず連続突きを放つ。

 対するツムギもいのりの突きに合わせて対応する。


「やっ!」


 いのりの突きをツムギは捌ききり斬り込んだ。


「っく!」


 いのりは斬り裂きを柄で受け弾いた。 弾かれた勢いを利用しツムギはいのりとの間合いを取る。


「……行くよ!」


 間合いを取り小さく呟いたかと思えば、地を蹴り一瞬で間合いを詰めいのりの腹に向けて突きを放つ。


「ッ!?」


 突きを受ける直前、いのりはとっさに後方へステップを取った。それによりツムギの突きをまともに食らうことを避けられた。それでもかなりのダメージを負ったようだった。


「……ぁ……はぁ……」


「……ふぅ。このくらいにしておくかい?」


「……そうですね。あと、一手だけお付き合いお願いします!」


「K。一手だけね」

(能力を使って来そうだ)

「そうなら、私も使って応戦するだけね」


 ツムギが独り言で作戦を練っていると、いのりは雪姫を構えて祝詞を唱え始める。


「希望の光、悪神百鬼、敵を討ち滅ぼす、刃と成り給え!」


 雪姫は淡い輝きを放ち始めた。それを見たツムギも白銀の長槍の起動句を唱える。


狼神おおかみよ!破魔の光を成し、我が敵を討たせ給え!」


 ツムギの持つ槍が眩い輝きを放ち始める。両者は共ににらみ合う。勝負を決めるためどちらも間合いを詰める、と思われた瞬間にその声は響いた。


「良い神域遺物持ってるな!」


 ツムギといのりは声の聞こえた方を見る。


「飛んでる?……人、ですよね?先生」


 月の光を背にした人物は宙に浮いていた。正確に言うならば背の翼をはためかせ宙に浮いていた。


(翼を持っている人物と声の人物は別だな。翼の人物が声の人物を掴んで飛んでるって感じだ)

「そーだね。二人組みたい。……いのりが見付けていた、不審者たちじゃないかな?」


「……二人組ですか?そうですね、今見えている人は違いますね。もう一人はどこに?」


 警戒しつつ周囲を確認するいのり。それでも二人目は見当たらずツムギにどこにいるのか訊ねた。


「目の前に。飛んでるヤツ、背後に翼を持った人いる」


「抱えて飛んでいるって事ですか!?前に見た時少女には、翼なんて無かったですよ!」


(翼しか見えてないから、それ以上は現状分からん)

「分かれてくれたら、分析出来そう何だけど……」


「と言っても、飛んでますもんね」


 見上げた先に空飛ぶ謎の乱入者たち。このままでは埒が明かないと判断したツムギは話をする事にした。


「何者かな!そこの二人組!」


「何者と言われて名乗るヤツがいると思うか?」


「……私はケイオス。この人はテイカー」


「おい!何で答えてるんだ!」


「……」


「チッ!……まだ少し意識があるのか?」


(……意識?何か裏がありそうだ)


 テイカーとケイオスはどこか噛み合ってなかった。それにテイカーの小声をツムギは聞き逃さなかった。それを踏まえてツムギは会話を続けた。


「仲間割れかい?」


「仲間?笑わせるな、こいつは道具だよ。おい、下に降りろ」


「……」


 そう言うと降下してツムギといのりの間に降り立つテイカーたち。地に着くと同時にケイオスの翼は消えてなくなる。


「さあケイオス、やってしまえ」


「……Yes」


 テイカーの言葉を合図にケイオスの左肘から左手が金色に輝き、形を刃物へと変わった。


「変化、した?」

(ように見えるだけだ。正確には手刀。けど)

「けど何?」

(高密度の魔力で形成されている。変化して見えたヤツ全部!)


「先生!!」


 分析に夢中になり前をしっかり見ていなかったツムギ。いのりに呼ばれ危険に気付く。


「ッ!」


 ギャリンと言う音が響いた。ケイオスの手刀がツムギに振り抜かれる寸前で、ツムギは槍で手刀を受け流した。しかしケイオスの手刀は一本ではなかった。続けざまに右腕での手刀が振るわれる。ツムギはケイオスの二刀での猛攻を槍で受け流す防戦を強いられる。


「雪姫!」


 いのりがケイオスの視覚外から攻撃を放つ。ケイオスは難なく反応し手刀で迎撃しようとする。しかし少し触れた瞬間迎撃をやめ跳び去る様に回避を選んだ。


「助かったよ、いのり!」


「どうもです。しかし先生」


「そうね。雪姫の能力、ケイオスにはバレたかも」


「どうしましょう」


「……テイカーにはバレたくない。ケイオスを抑えれる?」


「ケイオスのですか?たぶんいけます!」


「K!なら私が、命令しているテイカーを捕らえる」


「了解です!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る