第11話 仮想の箱庭、二人の転移者#06

「探したんだよ、ツムギ」


 通路から現れたグリーンは心配していたとツムギに言うが、ツムギは魔導書ラノベを手に立ち上がりグリーンに向き合う。


「……いいから、そう言うの。あなたでしょ?ゲームマスターは」


 ツムギはグリーンに核心的な事を訊ねた。それを聞いたグリーンはくすくすと笑うとツムギに問い掛けるのだった。


「やっぱりバレてた?参考までにどこでどうやって気付いたのか、聞いても?」


「否定はしないスタイルなのね。まぁいいわ。そうねぇ……まずは転移者と言った時。本当は転生者なんでしょ?」


「あの時どう言うか、一瞬の迷っただけなんだがなあ」


「アースソウルって言う集団が、転生者の集まりと噂で聞いたことがある。だからこそ、かまをかけただけ」


「警戒心が強いって事か……。あぁ~だから二つ名付きで、要注意人物って言われているのか」


「……でしょうね。次にゲームマスターがいるタイプの神域遺物レリックであると、触れたらと言うより、BOSSを倒す条件の方が多い。偶発的発生ではなく人為的なのは分かっていた。なら今回BOSSに当たるのは?」


「なるほど、ゲームマスター本人か」


「Yes。……っとまぁ後は、目的があって閉じ込めているのだから、接触してくる人物が怪しいと思っていた。だから候補は二人。で、より怪しかったのはキミ」


 ツムギの言う結論にグリーンは拍手をして応えた。


「なるほど……。じゃあ、戦うかい?」


「はぁ、まぁ戦うしかないものね」


 ツムギは別の魔導書を開くとそこから、拳大の宝玉が埋め込まれたつるぎを取り出し地面に突き刺し立てる。そして魔導書には栞を挟みコートのポケットへセットした。一方グリーンは右手に魔法銃を左手に短剣を持ち構えた。

 部屋が静寂に包まれる。どちらも得物を構えにらみ合う。どちらが出したのか、ジャリ、と物音がした瞬間、グリーンが攻撃に出た。

 グリーンは魔法弾を放ち、姿勢を低く駆け出し接近する。

 剣を逆手に持ち魔法弾を宝玉部分で受け止めるツムギ。そのまま剣を盾にした形で接近するグリーンに応じる。


「ハァァ!!」「はぁっ!」


 短剣と剣の鍔迫り合いが行われ、グリーンがさらに力を込める。若干押されるものの耐えるツムギ。自身が若干有利と悟ったグリーンは、組み合っている隙間から魔法弾を撃ち込む。

 放たれた魔法弾はツムギへ命中するがダメージを受けた様子がなかった。


「はぁ!?」


 グリーンは想定外の結果を目の当たりにし一瞬、力を緩めてしまう。その隙を逃さずツムギは動いた。


「響き揺らげよ!」


 左手を剣に添え唱えるとそれに応じるように宝玉が煌めき振動を発した。その振動はツムギを害する事なく、グリーンの方向にのみ衝撃を伝えた。


「グ ッ」


 衝撃をもろに受け後方へと飛ばされるも受け身をとりダメージを最小限にし立ち上がるグリーン。


「ックソ。どうなってんだよ!何で魔法弾が効かない!?」


 グリーンが思わず悪態ずくとツムギは少しだけ応える。


「敵に種明かしする趣味は無いのだけど……そうね。私は魔法を転換し、魔力として利用している、かな」


「はぁ!?って事はあれか。今のは魔法弾を利用されたってか!?」


「くふふ。さてどうでしょう?」


「チッ。なら力業だ!」


 グリーンは左右の武器を入れ換え構え直すし走り出す。ツムギは剣を持ち直し下段に構える。


「セリャャ!!」「ふっ!」


 グリーンが掛け声と共に右手の短剣をツムギの首狙って振り抜かれる。ツムギは剣を切り上げ、短剣を捉え弾き返す。しかしグリーンには想定内の動きであった。左手の魔銃を鈍器としわき腹を殴り掛かる。


「っく……」


 避ける事が出来なかったツムギはもろに殴打を受け苦悶の表情を浮かべる。グリーンは追撃を行おうと肉薄するが、ツムギは器用に跳び上がり距離をとる。


「はぁ、はぁ……」


「次で決めてやるよ、ツムギ!」


「……同感よ」


 お互い次の一撃で決めると宣言をする。

 次の瞬間、グリーンは短剣を構える技名を叫び、ツムギは宝玉へ魔力を注ぎ込むと剣は呼応する様に振動し始める。


「パワースラッシュ・クロス!!」


「やあぁぁっ!!!」


 グリーンが両腕をクロスさせツムギへと迫り、射程に捉えると右手の短剣を振り抜く。ツムギは短剣に合わせて剣を振る。両者の刃が交差する瞬間、グリーンは勝ち誇る。


「こっちは二連撃だ!」


 続けざまに左手の魔銃を棍棒の様に扱い振り抜くグリーン。


「私はこの剣を信じてる!」


 短剣と剣がぶつかり合う。またも拮抗するかと思われたが、ツムギの剣が短剣を切り裂き、二撃目もろともグリーンを斬り裂き振り抜く。


「オレの、負けか」


 一言呟くとグリーンは光の粒となって消滅する。ツムギはポケットから魔導書を取り出し開くとそこへ剣をしまった。


『ゲームマスターから、お知らせする。ゲームは、たった今、クリアされた。よって、順次ログアウト処理が行われる。視界が暗転し、次に目が覚めた時、そこは元の世界だ』


 天の声が同じ内容のアナウンスを繰り返し伝える。


「はぁ~ちかれた」


 ツムギは疲労からか、地べたに寝っ転がり目を閉じた。

















 どのくらい時が経ったのだろうか。体が何やら揺られている事に気付く。そぉっと、ゆっくりと目を開くとそこは動物の背の上の様であった。


「あっれー、まだ仮想の中かな?」

(お、ようやく戻ってきたな。現状を伝えるぞ。今はラインの町を出て日ノ本ひのもとの島へ、使いの式神の背に乗って移動している)

「あ、ホントだ」


 よく見ると見知った人物がよく連絡に使う式神であることに気付き納得するツムギ。


(簡潔に便りの内容を伝えるぞ?お願いが一つと厄介な事件の解決、まぁ知恵を貸して欲しい、とさ)

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