第9話 仮想の箱庭、二人の転移者#04

 夜が明けると同時にツムギたちは迷宮に挑んでいた。


「それにしても昨日は笑ったよ」


「それな。もう一つの条件がまさか、食事をしたいだもの」


 昨夜ツムギが付けたもう一つの条件。それは食糧を恵んで下さい、と言うものだった。それを聞いたタクヤとグリーンは笑いながら応えたのであった。


「…いいでしょ、別に」


「いや、まぁ確かに。食事は大切だ」


 ツムギは不機嫌そうに答える。一方タクヤは笑いながらツムギに同意を示し言葉を続けた。


「ボクたちみたいに、転移してきた人じゃなきゃ、食事をしなくても大丈夫って発想はないか」


「VRMMO?って言ったかしら。この神域遺物と似ていると言う話みたいだけど、どう言った物なの?」


 ツムギはタクヤたちが似ていると言った物について訊ねてみる。

 それはタクヤやグリーンたちの世界に存在したゲームの一種であった。


「う~ん、近いものが無いから、説明はちょっと難しいだよなぁ……グリーンは出来る?」


「そうだなあ……仮想の空間に世界があって、専用のデバイスでインする、かな」


「そうそう、で五感を使って遊ぶ、体感するって感じのゲームなんだよ。要するに娯楽のアイテムだね」


「五感があるのに食事を取る必要が無い、と。食事が無くても生きていけるなんて便利ね」


「あくまでそのゲーム中だけ。と言っても必要なゲームもあるからその辺はマチマチかな」


「色々種類もあるの!?」


「あるよ。なぁグリーン?」


「そうだね。ゲームだからこそ、色々あっていろんな醍醐味が存在していたかな」


「……奥が深いのねVRMMOって」


 ツムギはタクヤたちの話しに感心し、神域遺物について一つの仮説を話し始める。


「もしかしたらこの神域遺物は、そのVRMMOが元の存在かもしれない」


「へぇ~そんなのまであるか?」


「えぇ、稀にあるわ。あなたの場合はソードマスターの称号を得ていたでしょ?つまり、転移転生した人物は何か一つ得てから、こちらの世界に来るみたい」


「なるほど…そう言えばグリーンはその魔銃だったけ?便利だよな弾を込める必要が無いって」


「弾は無いけどMPが必要だけどな。まあ、タクヤの称号だけよりはマシだよ」


「だよなあ。称号あっても、肝心の剣が無かったら意味を意味ないし」


「……その魔銃、見せてもらえる?」


「かまわないよ」


 そう言ってグリーンはホルスターから銃を取り出し、ツムギへと手渡した。受け取ったツムギは魔銃を軽く見回して満足し返却した。


「もう良いのか?」


「えぇ、十分。それよりコボルトが来てる。しっかり仕事してね」


 ツムギが指差す方に二体のコボルトが待ち構えていた。


「任せろ!」


 言うと同時にタクヤは間合いを詰め斬りかかる。


「セヤァ!」


 瞬く間にタクヤはコボルトを倒しきる。どうやら第一層目のモンスターは敵ではない様であった。


「このフロアのモンスターは敵じゃないみたいね」


「一層は肩慣らしみたいなもんさ」


「塔だから上へ行くのよね?」


「あ~それは」


 ツムギの問いにタクヤは何故か言い淀み、グリーンの方を見た。

 ツムギはそれを見てグリーンへ改めて確認をとると、ツムギの想定と違った答えが返ってきたのだった。


「違うの?」


「上は別のグループが探索しているよ。オレたちは地下へ潜る」


「……え、地下?」


「そう、地下へ行くの」


 タクヤたちの案内で一層から地下一層目へと向かう。

 グリーンの話によると、三層のフロアボスを倒した後に地下への階段が出現したらしい。本命は上なので地下へは少人数、つまりタクヤたちのチームのみが探索する事になったそうだ。


「……それって、貧乏くじを引いたんじゃ」


 地下への階段を下りながらツムギはボソッと呟くが聴こえたのだろう。タクヤはそんな事ないとばかりに地下の利点を話す。


「そうでもないさ。地下の経験値を独占出来るし、ドロップ品も独占出来る」


「……ここで得た物、持ち出せると思ってる?」


「え?出来ないの」


「天の声が言っていたのは、現実で起こった事はこちらでも適用される。それはつまり、こちらで死んでも死なないとしても、現実で死んでしまったらこちらでも死ぬ、って事でしょ?あなたたちが閉じ込められてどれくらい経ったのか知らないけれど、時間を掛ければかけるほど、永遠の死が近付くわよ」


「それって持ち出せない理由になって無いんじゃ……」


「はぁ……いい?この世界は仮想なの。幻想と言ってもいいわ。そこからどうやって持ち出すのよ?もしかしてあなたたちの世界のVRMMOは持ち出せたのかしら?」


 ツムギはタクヤたちの言っていたVRMMOを引き合いに出し説明する。そこまで言ってタクヤはようやく気付いたようだった。


「言われてみれば……持ち出せないわ。ゲームの中の事だし。現実に持っていた武器類を使えたから、てっきり……」


「マジかよタクヤ。気付いて無かったなんて、抜けてるなぁ」


 グリーンは笑いながらタクヤを弄る。

 そんな笑い話の様で真剣な話をしているうちにツムギたちは地下一層へとたどり着いた。


「……なんだか空気が冷たくない?」


「まあ地下だし。モンスターもカエルやらレイスだしな。特にレイスは急に現れるから注意する事」


 ツムギが身震いしながら訊ねるとグリーンが敵の構成を手短に説明する。


「なるほど。他には?」


「そうだなあ……カエルは一匹出たら囲まれてる事がある」


「……のようね」


 ツムギの視線の先にはカエルの大群が道を占拠していた。


「うーし、んじゃ倒してくるわ!」


 そう言うとタクヤがカエルを斬り込みに突っ込んで行った。さほど強くはないのかそれともタクヤが強いのか、ともあれタクヤの斬撃でどんどんと倒してその後をツムギたちは付いて行く。


「結構倒しているのに、減る様子がないわね」


「数が脅威なだけで、油断しなければ余裕だから。でも数が多いせいで、探索が進まないんだよ」


「はぁ~そうなのね」


 ツムギはどこか他人事の様にグリーンの言葉に相づちを打った。そこにグリーンはそう言えばと続ける。


「ユニークモンスターがいて、そいつは引きずり込む。要は分断しに来るから気を付けて」


 グリーンが警戒するように声をかけるがツムギの返事は無かった。グリーンは慌てて辺りを見回すが前方でカエルを蹴散らすタクヤしか人影は無かった。


「おーい、タクヤ!」


「ッと!何かあったのか」


「ツムギが居ない!引き込まれたみたいだ」


 グリーンの言葉を聞きカエルを相手しつつ周りを確認するタクヤ。確かにツムギが見当たらない事を認識するとタクヤはグリーンに方針の相談を始める。


「どうする!?」


「次の分かれ道で、二手に分かれて探そう」


「オッケー!じゃあちょっとばかりスピード上げてくか!!」


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