第8話 仮想の箱庭、二人の転移者#03

「さっきは助かったわ。えっと……」


「おう!御劔みつるぎ拓也たくやだ。よろしく」


 ツムギは御劔拓也と共に安全地帯と呼ばれる場所に向かいつつ、簡単に自己紹介をしていた。


「ミツルギ、タクヤ?」


「あっ、そうか逆だ!タクヤ・ミツルギの方が通じるよな。いや~いまだに慣れなくてね」


「いえ大丈夫、わかるわ。私の知り合いにも、そう言う感じの名前の子がいる…「まじで!?他にもいるのか!」…から。……いるわよ。で、あなたの名はタクヤよね。私はツムギよ」


「おう、よろしくツムギ!」


 タクヤは手を差し出し握手を求めるがツムギはそれを遠慮する。初対面相手の距離感が分からずどうにも挙動不審な態度でしかなかったツムギだが、タクヤは気にも留める事は無かった。


「お!そろそろ安全地帯だ。続きはそこでしようか」


 安全地帯に着くと改めてお互いの経緯を話した。その話しによるとタクヤはレベル上げのために夜間モンスターを探していた。そこにちょうどモンスターに囲まれたツムギと出会ったそうだ。ちなみにツムギは、町とは逆方向へ進んでいたらしい。


「Really!?そんな……」


「町は無いけど迷宮があるんだ。そこの安全地帯で、俺の仲間が待ってるから合流するんだ」


「…へぇ、迷宮」


 ツムギの視界に大きな塔が入る。どうやら安全地帯は迷宮の入口付近らしく、焚き火の煙が上がっているのが見えた。


「あれ?グリーンが居ないな」


「薪拾いにでも行ってるじゃないの?」


「それもそうか」


「それで話を戻すけど、迷宮に潜るのはそこにこの世界の核、神域遺物レリックがあるから?」


「それは」


「明らかにそれっぽい物が、町の郊外に在るのだからそうじゃないか、って攻略組の人たちで話しているんだ」


 緑髪で細枝を抱えた人物がツムギとタクヤの会話に割って入る。


「焚き火を放置して行くなよ、グリーン」


「それが消えないようにするために、枝を拾いに行ったんだよ。……でこの人は?」


 グリーンと呼ばれた人物は持ってきた枝を焚き火にくべながらタクヤに訊ねる。


「この子はツムギ。モンスターに襲われている所を助けた」


「……ツムギです」


「ツムギ……もしかして蒐集者コレクターのツムギだったりして」


「…そんな呼び方する人もいるわね」


「え、何その二つ名みたいなの!?」


「みたいじゃなくて二つ名。と言うか通り名か。数多くのレリックを集め、レリックに詳しい事からそう呼ばれているみたい」


「へぇ~、じゃあここから脱出する方法とかは」


 タクヤが期待の眼差しでツムギの方を見るがツムギは首を横にふる。


「……残念だけど初見の神域遺物よ。天の声の言うことを信じて、核を探すのが近道ね」


「そっか…まぁ初見なら仕方ないか」


「…にしてもコレクター本人が予想以上に小柄だった件」


「……それよりも、あなた名前は?」


「ん?あぁ、オレはグリーン=グリッタ。魔法銃と短剣を使う魔銃士で、今はタクヤとパーティーを組んでいる」


「ボクも改めて自己紹介すると、タクヤ・ミツルギ。ソードマスターやってます!」


「…ソード、マスター。察するにタクヤは剣類全てに適性がある。そんな感じの称号かスキル持ちなのね」


「その通り。この世界に来た時に得た称号なんだ」


 タクヤの発言に引っ掛かりを覚えたツムギはその事について訊ねた。


「この世界に来たって言うと、それは神域遺物に閉じ込められた時?」


「違うよ。ちょっとややこしいかも知れないけど、魔法とかレリックが存在してない世界から来たんだ」


「あぁ、なるほど。転移者ってヤツね」


「そうそれ。帰宅していた筈が、気付くとこの世界に迷い込んでいたんだ。そう言えば確か、キミの知り合いにも居るんだよね」


 タクヤはツムギに知り合いの事を訊ねるが、ツムギは少し意味深な言い回しで答える。


「いるしいた、と言うべきね。あなたの様な名の読み方も、その子に教えて貰ったわ。そう言えばグリーンはどうなの?」


 急に話を振られたグリーンは少し考えて答えた。


「……オレも転移者。そのよしみでパーティーを組んでいるんだ」


「そうそう、グリーンから声を掛けられてね。お前もしかして地球から来た?って聞かれてね。そこから意気投合して……ってツムギも一緒にどう?」


「一緒にって、そのパーティーにって事?なぜ私なの。足手まといになるわよ。私、弱いから」


 ツムギはこれ以上この二人に関わりたく無かったのか、矢継ぎ早に答えた。しかしタクヤはツムギの戦闘を直に見ていたため説得にかかる。


「そんな事ないだろ。少なくともグラスウルフに囲まれても、生き延びていた。と言うことは強いだろ?」


「大半あなたが倒したわ」


「そうかもしれない。けどレリックって詳しいって言うのは強みだ。詳しい人がいるならボクたちも攻略を進めやすい。それに少なくとも自衛は出来るだろ?」


「それは…出来るけど……」


 若干タクヤに言い負け、揺らぎ掛けるツムギ。意外にもタクヤの意見に賛成だったらしいグリーンが、タクヤの援護に入る。


「オレたちは二人だがトッププレイヤーで攻略組。組めばこのゲームのクリアと神域遺物が確保出来るかもよ」


「……」


 グリーンの神域遺物確保の言葉に更に揺らぐツムギ。


「はぁ、分かったわ。ただし、分析に集中したいからキチンと護ってもらうわ。それにもう一つ」


 結局ツムギは、悩むものの欲には勝てず渋々と言った様子で、タクヤたちの提案に条件を付けてのむことにしたのだった。


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