第7話 仮想の箱庭、二人の転移者#02
「うげ、暗くなってきた」
見つけた道を宛てなく歩き進めていたツムギだが、特に変わった事もなく日が暮れてきていた。
「これ以上の移動は危険かな……かと言って、コレと言った収穫もなく……ん?」
野宿をするかこのまま進むか、ツムギは選択に迷っていると、視線の先に何が現れた。
「ブルー、ボア?」
ツムギはその動物の頭上に表情された文字を読む。動物の頭上にカーソルとその動物の名前が出ている状況に、ツムギは困惑を隠せずにいる。
しかしブルーボアにはツムギの困惑など関係ない。ブルーボアは鳴き声をあげるとツムギに向かって突進を始める。
「あら、戦う感じかな?」
ツムギはブルーボアの突進をヒラリと避け、魔導書から漆黒の剣を取り出す。
避けられたブルーボアは再び鳴き声と共にツムギへ突進を行う。ツムギはブルーボアの突進の軌道に剣を添える様にしてカウンターを繰り出す。
「……っ」
しかしその斬った感触にツムギは少し戸惑う。それは斬ったはずなのに手応えが一切無く、ブルーボアの体をすり抜けるた感覚であった。さらにブルーボアはぷぎぃと言う鳴き声をあげると、ガラスが砕けるように散っていった。
「すり、抜けた?……えっ何コレ」
いまだ状況をのみ込めていないツムギの目の前に、謎の表示が出現し更に困惑するツムギ。
その表示には『戦闘終了 28エンとドロップ品:ブルーボアの肉 を入手』と書かれていた。
「28、エン……とドロップ品?ってそうだ、食糧!」
ツムギは慌てて食糧品を取り出そうとするが、取り出すことが出来なかった。
「すっかり忘れてたわ……元々食糧の補充にラインに来てたのに。……ん?」
所持していた食糧が取り出せないなら、先ほど入手した物を取り出そうとして気付く。入手したと表示は出ていたが、自身で戦利品をしまっていないと。
ツムギの使用しているアイテムボックスは、初めてしまう時には基本自身で触れている必要がある。
まだしまっていないなら、ドロップ品はその場に存在しないと変であった。ツムギはその場にない戦利品と入手したと言う表示からアイテムボックスにあると思い探るが、ドロップ品は見つからなかった。
「……Really?……ってまぁ後か、それどころじゃなくなってきたみたいだし」
ツムギは漆黒の剣を魔導書にしまい、新たに細剣を取り出し構えをとる。ぐだぐだしている間に、ツムギの周囲を他の獣が包囲してしまったようだった。
「草原の狼、かな」
今度の獣はグラスウルフと言う表示が出ており、三匹がツムギを囲む様にして唸り声をあげていた。グラスウルフたちはツムギの逃げ道を塞ぐように、徐々に近付いて来ていた。
それを見たツムギは一点突破を狙う。このまま対峙すると数と連携に殺られると判断し、確実に一体を仕留め可能ならばそのまま離脱を狙ったのだ。
「ヤァァッ!」
正面のグラスウルフに細剣で突進による突きを繰り出す。その一撃はグラスウルフの眉間の中央を捕らえ、そのまま胴を突き抜けた。
「かる!?」
ブルーボアと同様に軽すぎる手応えに、思わず声を上げるが意識は残り二体のグラスウルフへ向いていた。
武器の性能のおかげか油断さえしなければ、グラスウルフ程度なら一撃で倒せる。それが分かれば十分とその場を駆け抜けようとするが、足を思わず止めた。
「……え、うっそ」
前方に更に二体、グラスウルフが待ち構えていた。どうやら草原に潜んで待ち構えて居たようだ。
「あ~もう!?分かったわ!全員相手してあげるわ!」
逃げたいがそもそも逃げたところで安全な場所に心当たりが無い。半ば自棄になりながらツムギは得物を構え直す。
と同時にツムギの横をグラスウルフが飛んで行き、前方のグラスウルフへぶつかった。
「…ん?」
ぶつかり合った二体はピクリとも動かない。どうやら二体は何処から投擲された剣によって一撃死した様であった。その突然の出来事に場の空気が固まる。
「そこの囲まれてた人!勝手にだけど助太刀させてもらったよ」
剣が飛んできた後方を確認すると、そこに居たのは全身白で統一された出で立ちをした青年だった。
「その狼たちは立ち回りさえ気を付ければそこまで強くない!逃げるとしつこく追ってくるから、ここで倒しきる事をオススメするよ!」
「……はぁ、次から次と起こりすぎ」
白の青年は片手剣を虚空から取り出すと、後方の残り一体をあっという間に斬り伏せる。
ため息をつきつつも前方の残り一体に突きを放ち、切りおろしで止めを刺した。
「けれどようやくコレで、情報を得れるわ」
謎の場所に来てようやく、人との出会いを遂げるツムギであった。
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