第3話 色付く世界、越えられない苦しみ#03

「……どうぞ」


 部屋から返事が返ってきた事を確認し、ツムギは本を取り出し目的の頁を開くと小声で何かを呟いた後に、本をしまって室内に入る。


「えっーと、久しぶり、かな?私の事、憶えているかな?」


「とうさまの友達、本とお話していた人?」

「お父様のご友人、コレクターさんですよね?」


「あ、あはは……いろいろとツッコミたいけれどまぁ、憶えているなら何より」


 クロエ・オルレアとサクラ・オルレアの二人共に憶えていた事に安堵するツムギ。そしていくつか確認を取り始める。


「そちらの淡白な回答をするのがクロエ、しっかり回答するのがサクラだよね?」


「そうね」

「はい、そうです」


「髪がホワイトブロンドがクロエ、イエローブロンドがサクラ?」


「そうね」

「そうです」


「K、改めまして私はツムギ。キミたちの両親の友人で、まぁ神域遺物レリックの専門家かな?神域遺物絡みで問題が起きた、と言う事で呼ばれてきた」


「……メガネ」


「そのメガネも神域遺物ですか?」


 ツムギが姉妹に改めて自己紹介をすると、クロエはツムギのかけているメガネを指摘した。その指摘を捕捉するように、サクラは訊ねた。


「Yes、だからまぁそうだね。キミたちが両親にも隠している事、私に話してみないかい?」


「隠している事なんて、」「サクラ。ツムギは、分かってるわ」


「姉さん…!」


「大丈夫よ。この人はちゃんと、わたしたちをみてくれる。サクラを認めた二人目の人。憶えてない?」


 クロエはサクラの目をまっすぐ見て意見する。一方でサクラは気が立っているのか、クロエほどツムギへ信頼を寄せてはいなかった。


「…おーけー、まだ警戒してるみたいだけど、問題を解決するための話をしようか?特にク…いやサクラ、キミは気を張り積め過ぎた。その様子だと、まともに休めてないでしょ?」


 ツムギが指摘した通り、気を張り詰めているせいか、サクラに疲弊しているようにみられる。


「気を抜ける訳がないです。姉さんは皆さんに、期待されているんです。だから」


「サクラ、気にし過ぎ」


「ですが姉さん!私の描く絵が認められないせいで、姉さまが描けなくなっていると」


「関係ない。サクラはサクラ、わたしはわたし。それに、とうさまたちは見る目がない」


「そんなはずありません!姉さんは」


「そこまで、そこまで。姉妹共にお互いが大好きなのはわかった。なら早いところ解決するべきだ」


 ツムギが二人の会話の間に割って入る。


「一応確認するけどその姿、メイクや変装の類いじゃなくて、入れ替わっている、って言う事で良いのかな?」


 クロエとサクラの身に起こった現象は、それは精神の入れ替わり。もっと分かりやすく言うなら、クロエとサクラ、二人の外見が入れ替わってしまったのだ。

 リクが話した姉妹の変化。それは二人の外見が入れ替わり、クロエだと思っていた中身はサクラ。クロエっぽい行動をとるクラの中身はクロエなのだから、当然の変化と言える。

 だがリクは二人が入れ替わってしまった事には気付かず、単純に『コレクションの神域遺物が原因で不調になったのでは?』と考え、専門家のツムギを呼んだのだった。


「リクからは二人とも原因は分からないと聞いている。けど本当は、心当たりあるんじゃないかな?」


「…ないわ」


「…………」


「サクラ?」


「……さい、姉さん。私の「なんで?」せい……えっ、姉さん?」


「サクラはなんで、わたしに謝るの?」


 ツムギが問い掛けると、クロエは少し思案し知らないと答える。一方サクラは無言で俯いた。どうやらサクラには心当たりがあったらしい。


「…私が願ってしまったんです。姉さんの様になりたい、と」

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