第2話 色付く世界、越えられない苦しみ#02

「いいか、確認が取れるまで妙な行動をするなよ」


「……」


 現在ツムギは領主宅の門前で門番に捕まっていた。それもその筈でツムギは、いきなり門番に向かって『領主に呼ばれた。入ってもいいよね?』と声をかけそのまま屋敷に入ろうとしたのだ。二人いた門番は突然の事に一瞬固まるが、直ぐに我に返りツムギの肩に手を掛け、歩みを止めさせた。そしてのうちに一人が、領主さまに確認を取りに向かった所であった。


「全く…最近お前みたいなやつが多くて困るわ」


「…私みたい?もっもしかして領主に会わせろ、って言う訪問者?」


「そうだ。領主さまと商談をしたい、約束はしてないが会わせて欲しい、ってな」


「……へぇ」


「そう言う点で言えばお前が初めてだな。領主さまに呼ばれたから訪問した、何て言ったやつは」


 そんな事を話しているうちに、確認に向かっていた門番が領主リク・オルレアと一緒に戻ってきた。


「ご苦労様。そこのお騒がせ人はわたしが直接預かるから、君たちは通常業務に戻ってくれ」



「呼ばれたから来たのに、お騒がせって」



「ボソッと言ったつもりかもしれんが、聞こえとるぞツムギ。ついてこい。取り敢えず中で話をする」


「りょーかい」


 ツムギは大人しくリクについて屋敷に入る。案内されたのはおそらく、人払いがされたであろう応接間であった。


「普通飲み物は私たちが席に着いて、話してる途中に使用人が持ってくるんじゃないの?何でもうテーブルに置いてあるのさ」


「お前のためだろ。門番との会話を聞くに、いまだに人見知りなんだろう?話す相手によって口調が変わるところ、昔から変わってないからな」


「余計なお世話だよ。まったく……」


 そう言いつつ席に着き、用意されていたお茶を飲むツムギ。リクはどこかホッとした様子で話を続ける。


「元気にしてたみたいだし、安心したよ」


「前に来たのはいつだったけ?」


「上の娘が9歳の頃だったから…八年前だな」


「ほー、そんなになるのね。八年か…そりゃ老けるわな、お前さん」


「逆にお前は八年前から変わってないな」


 この二人の関係は昔馴染みの友人。ツムギは神域遺物レリック蒐集者コレクター。一方リクも神域遺物を含む芸術品コレクター。コレクターと言う点で意気投合し、ツムギはオルレア家で一年ほど客将と過ごしていた事があった。それが8年前の事である。


「そう?まぁ自分じゃあ分からないね。で、本題は?私を呼ぶなんて、よほどの事でしょ?」


「はぁ…普段は人見知りで臆病者なくせに、知り合いや割り切っている時には大胆で強気。あぁ、魔導書ラノベが関わった時もそうだったか?」


(そんなんだから友達も出来ないし、、って言われるんだろう)

「……あんまり言わないで、ホントに。しょうがないでしょ、気持ち的に仮面を着けて話す、って意識しないと自分がわからなくなるんだ」


「ん?それってアレか?出ていく時に言っていた、自分とラプラスの境界線が曖昧になるってやつか?」


「……失言。自分の問題は自分で解決する。だから気にしなくてもいい。それと、本題。あなたが言いにくいのなら、私から言うよ?」


「ほぉ…言い当てられるものなら当ててみろ」


(頼む立場のくせに、何故に上からなんだ。……と言うかこいつは繊細じゃなくて負けず嫌いだろ。の感性はやはりどこかズレているよ)

「皆に理解されたい訳じゃないから問題ない」



「ツムギ?」


「……。あぁ、うん。おそらく娘さん二人の身に何か起こって、解決する手立てが分からないんだろう?違うかい?」


 ツムギはリクには聴こえぬ小声で何かを言った後、自身が呼び出された理由についての憶測を言った。


「…ほぼ正解だ。知っていたのか」


「知らないよ。けど、噂と環境それらからの憶測で、あり得そうな可能性を述べてみた」


 ほぼ言い当てられ驚きを隠せないリクをよそに、ツムギは話を続ける。


「でもクロエだけかい?サクラにも何かあったんじゃないの?」


「サクラか?あの娘は特に変わりないと思うが」


(やはり親であるリクも、サクラよりクロエと言う感じか)

「…そう」


「あぁそう言えば、クロエが描けなくなった頃から、サクラの言動がクロエっぽくなったな」


「ん。それで原因は、コレクションしている神域遺物にあると考えたキミは私を呼んだ、と」


「その通りだ。いまだ謎の多い神域遺物。何かしらのレリックが作用しているんじゃ無いかと思ってな。じゃないと、クロエが描けなくなると言う事はあり得ない」


「そう。まぁこれ以上は直接見て、本人たちから話を聴くのが一番。今から会える?」


「部屋に居るように言ってあるが……おそらく二人とも、アトリエ部屋に居るだろう」


「K。なら行ってくる。キミはここで待ってて」


 そう言うとツムギは立ち上がり部屋を出ていく。応接間から出て向かうのは姉妹の部屋。

















「にしても八年ぶりか~。私のこと、憶えてるかな?」

(憶えてなかったら、待ってて何て言ったのに、頭下げにUターンだな)

「……ちょっとやめてよ。なんかフラグっぽいじゃん」

(それも会えば分かるさ。と、そこの部屋だ)


 姉妹のアトリエ部屋の前に到着し、ツムギは扉をノックし声を掛けた。


「ツムギです。入ってもいいかな?」



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