神域遺物の蒐集者

東條 九音

籠の中の姉妹

第1話 色付く世界、越えられない苦しみ#01

「おーい、そこの旅人さん!うちの串焼き、買ってかないかい?1本銀貨1枚で、ちょうど焼きたてがあるよ!」


 昼を少し過ぎた頃、露店の店主が旅人ツムギへ声をかける。

 ここは聖王国アークガルドの主要都市の一つ、芸術都市オルレア。この街は古来から芸術と共に発展していった街で、街並みが一つの芸術作品とも言われている。


「K!じゃあ二本貰おうかな?」


 ツムギは懐から銀貨を2枚取り出し、店主に手渡す。


「まいどあり!にしてもお前さん、何を目的にこの街に来たか知らないけれど、タイミングわるかったな」


「ん、おいしい…で?タイミング悪いって、何かあったの?」


 店主から串焼きの入った袋を受け取り、その場で取り出し食べ始める。ツムギは串焼きを食べながら、店主が言うタイミングが悪い、理由について聴いてみることにした。


「お前さん、領主さま宅についてどのくらい知ってる?」


(領主の名は確かリク・オルレア、妻がメイ・オルレア、娘が2人…確かクロエとサクラだったか)

「え~っと、領主さまは繊細な人だよね。何て言うか他の人と被るような事嫌うし。あとはそう、神域遺物レリックをコレクションしてる」


 神域遺物とは、遥か昔に造られたとされるアイテムの総称。

 主に神器ラプラス魔導書ラノベ古代魔導具レガシーの区分わけがされており、中でも神器は発見数が少なく、そのうえ神器のなかには神滅器スレイヤーと呼ばれる特殊な物が存在すると言われる。


「繊細かは疑問だが…まぁ神域遺物コレクターとしても有名だな。噂では神器も所有されているとか」


「神域遺物は美術品としても人気だからねぇ。人気を言うならクロエさまとサクラさま、姉妹の作品。どちらの作品も現代アートの中では、知らぬ人がいないぐらい有名でしょ」

(まぁ姉のクロエの作品は、観た人を魅了する。なんと言うか、透明感を感じさせ、心に訴えかけるものがある。一方サクラの作品もまた素晴らしい。シンプルで、繊細に美しい)


「そうだなぁ。特にクロエさまの作品には、誰もが心奪われる。それにクロエさまは、王室に絵画を献上しているんだぞ」


 店主が言うように、オルレアの姉妹は幼い頃から絵を描いており、その絵は世界的に評価を受けている。

 作品は姉妹で比べられる事も多く、世間での認識は『天才の姉と劣化版の妹』と言うものだった。


(……どちらも遜色ない、一流の作品を作るはずだが、どうやら姉クロエの実力が圧倒的なようだ)

「サクラさまの作品は?」


「あ~まぁうん、サクラさまの作品も悪くはないが…やっぱりクロエさまの作品が圧倒的だからなぁ」


「……ふーん。ところでタイミングが悪いのと、領主さまのお家の事、何が関係あるの?」


「ある。クロエさまがここ一ヶ月ほど、新しい作品を描いていないらしい。月に三,四作品新作を描きあげる、クロエさまが一つもだ」


「スランプの可能性は?それか大作を描いているとか」


 クロエは既に食べ終えた串焼きの棒をくるくると振りながら答える。


「どちらも無いな。根拠は下絵だ」


「下絵?」


「そう、下絵だ。クロエさまはほぼ毎日、新規のラフ絵や下絵を販売しているんだ。それがぱったり止まってしまっている」


「それならやっぱり、スランプなんじゃ?」


「販売が止まった頃から、領主さま宅に外部からの出入りが増えている。ま、門前払いされているがな。で、そいつらは何者だと思う?」


(…おそらく資産家や商人、ブローカーの類いだろう。クロエの身に何か起こったと考え、これからクロエ作の作品の価値が更に上がると踏んで、領主宅に眠るであろう未発表販売の作品を買いに来たのだろう)

「K、だいたい予想ついた。つまるところ、その出入りしていた奴ら、そいつらが宿屋に長期滞在しているから、泊まるれる所が無い。そう言う意味でタイミングが悪いって事かな?」


 くるくると振っていた棒を店主に向けてピッシッと指して、ツムギは自身の回答となる予想を述べる。


「正解。オレが思うにアレは商人や貴族の使い。情報通なヤツらが領主さま宅での異変を察して、訪ねて来ているようだ。ソイツらは門前払いされているが、今だ諦めず宿屋で泊まり込んで待っているわけよ」


「1ヶ月近く泊まって…諦めず。宿屋を探すのが大変、って事ね。まぁ参考になったわ、ありがと」


 店主に礼を言いツムギは、串焼きの露店を早足で後にする。

















「よーやく、着いたわ……」


 その足でツムギが向かったのは宿屋ではなく、領主リク・オルレアの家であった。

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