ルート4
「新井くん!」
昼休み、池田さんがニコニコとした笑顔で話しかけてきた。
「こないだ新井くんが教えてくれた曲の人、お家帰ってから聴いてみたらすっごく良かった!色々聴いちゃった〜!」
こないだというのは、きっとカラオケ行った時の話だろう。その時に池田さんにおすすめの曲やアーティストを聞かれて答えたのだ。
「なに聴いたの?」
「えっとね〜、まずおすすめされた曲と、デビュー曲!デビュー前の曲もいくつか聴いたよ〜!」
池田さんと話し始めると、刺すような痛い視線を感じる。
視線を感じる先をチラリと見ると、叶井さんがこちらをじっと見つめていた。
しかし好きなアーティストの話だ。止めようにも止められない。
「デビュー前の曲も聴いたんだ?池田さんはどの曲が好きだった?」
「うーん…どれもいい曲だったから悩むなぁ…。そうだなぁ…でも一番はデビュー前に出てた〈蝉時雨〉って曲かなぁ。」
「池田さんわかってるなぁ!あれいい曲だよね!」
「ほんと!?あのアップテンポなのに切ない感じがたまらないよね〜!」
「そうなんだよ!」
そうして話が盛り上がっていると、佐々木が話に加わってきた。
「なになに?何の話?」
「新井くんが好きなアーティストの話!こないだ教えてもらったんだ〜!」
池田さんが愛想良くニコニコと答える。
「新井が好きっていえば、あのアーティストだろ?ほんと好きだよなぁ!ちなみに俺は、デビュー曲が好きなんだよね。」
佐々木がそう言うと、池田さんは大きく頷いて答える。
「デビュー曲もいいよね〜!めちゃめちゃかっこいい!」
「デビュー曲ってだけあってバシッと決まった感じしてるよなぁ。」
俺も同じく頷いて答える。
その後も話は盛り上がり、昼休みが終わる時間まで3人で話していた。
放課後、帰ろうと下駄箱を見るとメモが入っていた。
『体育館裏まで来てください』
差出人の名前はない。小さくて可愛らしい字だった。
体育館裏といえば、告白の定番の場所だ。
俺は誰からだろうとドキドキしながら体育館裏に向かった。
体育館裏に着くと、一人の女子生徒がいた。
「隆司くん…」
「…叶井さん?」
それは叶井さんだった。
「なんで…他の女の子と話すの…?」
問い詰めるように静かに叶井さんは言う。
「隆司くんは私のでしょう…?」
続け様にそう言う叶井さんに俺は僅かに疑問を抱く。
〈私の〉とはどういう意味だろう。
俺はその疑問をそのまま彼女にぶつけた。
「〈私の〉って、どういう意味…?」
「〈私の〉は、〈私の〉だよ。隆司くんは、私のだよ。」
至極当然のように言う。
〈私の〉と言うということは、そういうことだろうかと思考が巡る。
いや、でもまさかと思いながら叶井さんに確認する。
「付き合ってるっていうこと?」
「そうだよ。」
当たり前のように返答されて驚く暇もない。
「え?ちょっと待って…いつから?」
混乱しながらようやく絞り出した。
「ずっと前から。だって私たち、好き同士でしょ?」
ずっと前からっていつからだとさらに困惑する。
確かに、いつの間にか下の名前で呼ばれるようになったなと今になって思う。
「確かに、叶井さんのことは好きだけど…」
混乱しながらもごもごと口ごもる。
確かに叶井さんのことは好きだ。付き合えたら嬉しい。
だけど、叶井さんの異常な執着に友人達からやめておけと口酸っぱく言われているのも事実だった。
「ごめん!」
俺はそう言うと、その場を走り去った。
付き合ってることを否定することもできず、混乱した頭では逃げることしか洗濯できなかった。
「あっ!待って新井くん…!」
叶井さんが呼びかける声を背中で聞きながら、俺は一目散に家への帰路についた。
それから、数日経つけど、叶井さんが声を掛けてくることはなかった。
俺の〈ごめん!〉を彼女がどう受けとったのかは分からないけど、他の女子と喋っていても何も言ってこない。
ただ、刺すような視線を感じるだけだった。
今日も僕は遠目に彼女を見つめる。
美しい横顔に癒されながら。
ヤンデレ女子に首ったけ あいむ @Im_danslelent
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