とっておきのケーキを


 ここまで色々なことがあった。結婚式場を見て思う。結婚はゴールじゃなくて、スタートなのよと言ったのは母だった。お前の手作り菓子がもう食えないのか、と父は泣いた。まだ泣くのは少し早いよと私は笑ったけれど、そんな私が泣きそうで。先輩と喧嘩したのも別れたのもその結果なのかと思う。


 がたん。

 扉が開いて、先輩が立っていた。


「遅かった、か……」

「遅かったですね、もう終わりました」


 がっくりと項垂れる先輩に私は笑んで──抱き締めた。


「お仕事、忙しいのに無理して」


 とっておきのケーキで美味しい時間を共有する、そんな式にしたかったから。


「幸せにしますね」

「それ俺の台詞だから」


 先輩が私を全力で抱き締めた。

 

 

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