🌞 日野寅男 2 🐯

「わっはっは! いや~、まさかお前たちがすでに付き合っているとは知らなかったな」


 親父がおかしなことを言う。


「何言ってんだよ親父? 俺がこんなイカレた女と付き合うわけ――いたたたっ」


 隣に座る星凛スターリンが思いっきり太ももをつねってきた!


「何だよ⁉」


「こっち来なさい!」





   🌞   🐯





「はぁ⁉ 俺とお前が付き合ってることにしろ⁉ 何で俺がお前の芝居に付き合わなきゃならないんだよ⁉」


「だって、ママを悲しませたくないもの」


「お前、本気で俺と結婚するつもりか?」


「ンなわけないでしょタマなし野郎」


「あばたオヤジが偉そうに! だいたい片タマなしってのは英国ブリカス宣伝戦プロパガンダでウソっぱちだ!」


「ほとぼりが冷めるまででいいの。ママがアンタのお父さんと結婚して、得意の寝技でアンタのお父さんを篭絡ろうらくしたら、私たちは別れたって大丈夫よ」


「ひでぇ話だなオイ。それにその話、俺には1ミリたりともメリットがないんだが」


「あら。こんな美少女と付き合えて嬉しくないの?」


「自分で言ってて気持ち悪くねぇのか、悪逆非道の大量殺人犯」


「アンタにだけは言われたくないわね」


「人数ならお前の方がずっと上だ」


「毛沢東には負けるけれど。はぁ~……こういう手は好きではないのだけれど」


 言って取り出した星凛スターリンのスマホに写っていたのは、


「お、俺がお前の首を絞めてるところ⁉」


 あのとき、登呂とろ先生には角度的に気付かれなかったが、この画像には俺が首を絞めているところがしっかり映っている。


「コレをクラスのみんなが見たら、どうなるでしょうねぇ?」


「でも何で⁉」


「この街に何台の野良監視カメラがあるか、知っているかしら?」


「あっ……でも見ず知らずのJKに家の監視カメラデータを渡すヤツがいるのか⁉」


「地域住民は、常に隣人に対するマウント材料を探しているの」


 星凛スターリンが底冷えするような笑みを浮かべる。


「奥さん、隣家のゴシップ要りませんか? 代わりに少しだけ監視カメラを見せてください」


「でもそんな簡単にゴシップなんて手に――」


 星凛スターリンがTwitterを表示してみせる。


「アンタの拝金主義的浸透攻撃に私の手勢は大分奪われてしまったけれど。それでも、私の思想に共感してくれる中核派が残っているのよ。泣く子も黙る鬼女隊がね!」


 こうして俺は、星凛スターリンの仮面カレシになった。

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