⭐ 星凛子 2 🍎

 日寅ヒトラーとその父親に全裸を見られるわ、日寅ヒトラーと結婚しろなどと言われるわ……まったく、踏んだり蹴ったりだ。


「で、どういうことなの、ママ?」


 日寅ヒトラー親子を居間に残し、私の部屋で秘密会議。


「言ったまんまよ。私たち、結婚するの。だからアンタたちも結婚しなさい」


「???」


 どこから聞くべきか……。

 私は、このぶっ飛んだ母に頭が上がらない。弟たちを残して死んだ今世の父に代わり、必死に働いて私の学費まで出してくれているこの母には。

 前世といい今世といい、私に勝てるのは母だけなのである。


「あの人は私の常連で、大手自動車販社の社長さん。年はまぁそこそこだけど、イケオジ風だし優しいし、何より金持ちよ」


「うーん」


「『同族社長はカリスマが命。つまるところ顔が命』ってのがあの人のモットーで」


 それはまぁ分かる。

 私も前世では、盛りに盛ったダンディーな自画スターリン像を国中に掲示させたものである。身長が163cmしかなかったから、いつも上げ底してた。

 指導者というのは、ナメられたらお仕舞いなのだ。

 声の良さと演説力だけで総統に上り詰めた、どこかのちょび髭は例外だ。


「幸い寅男とらお君はイケメンに生まれたけど、支配体制を盤石にするためには、その息子もイケメンでなければならない」


「うん」


「だから絶世の美女たる私の娘とあの人の息子を結婚させてくれ、と」


「ぅおーい」


「私はこう答えたの。『私のことも養ってくれるなら、考えてア・ゲ・ル』」


「ぶっ飛んでる……」


「いい、凛子? この話、何が何でもつかみにいきなさい!」


 母が私の肩をつかむ。

 い、痛い……近い。


「でも私、あんな嫌味な野郎とは結婚したく……いたたたたっ」


「何が、何でも、死守しなさい‼」


「え、ちょっ」


「アンタ、大学行きたくないの?」


「うっ」


「弟たちを進学させたくないの?」


「ううっ」


 天を仰ぐ。するとちょうど、額に水が降ってきた。


「雨漏りのない家で暮らしたくないの⁉」


「うううッ‼」

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