第3話マイナスの勇者
この世界には勇者がいる。
と、言うことは勿論悪者もいる。
今日もどこかで声が聞こえる。
街のはずれにある、家にはマリーゴールドと名乗る勇者が住んでいる。
度々ニュースなどで、目にすることがあるこの勇者は今、トーストを食べている。
「ねぇねぇ、あとでいちごジャム買ってきてくれない?」
朝食を作っているのは、愛する妻のプラント。
「もちろん。他に何かいる物はない?」
「ううん。大丈夫だよ」
僕達は結婚して約10年が経つ。
秘密などまず無いだろう。
そう……この1つ以外は……
数ヶ月前に一度体調を悪くした時があった。
熱は半日程で引いたが、朝起きると信じられないものが見えていた。
「ヨメイ……?」
思考がしばらく停止した。
5分程経ったとき、もう一度目を開けて確かめた。
変わらず、余命の文字の横には87と表示されている。
恐らく87日が俺の余命なのだろう。
いまいち俺は驚かなかった。と、言うのも少なからず俺は勇者として悪者と戦っている。
幾度と死線を超えてきた。
骨も何本も折り、意識が飛んだ時もあった。
だが今回ばかりは、神様が休めと叫んでいるのだろう。
それでも俺は止まらない。だって俺はマリーゴールドなのだから。
朝食を食べ、ジャムを買いに行く。
あれからは86日が経った今、表示には2.00となっている。
2時間で俺は死んでしまう。正直恐怖心が、無いと言えば嘘だろう。
でも、戦っている時の方が何倍も怖い。
いつものパン屋さんに並ぶ。
今日は普段より人が多い。
結局店の中に入るまでに、1時間と40分かかった。
店の外で大きな音がする。
並んでいる人の列をすり抜け、外に出る。
「この世界は俺のものなんだ!お前等はゴミだ!」
かなり大きな体の男が、暴れていた。
次の瞬間。
男は噴水の横に植えてある花を蹴ったのだ。
気が付いたとき時には、俺は男の腕を掴んでいた。
「お前は俺を怒らした!」
「お前は……マリーゴールド!」
「お前には罪を償ってもらうぞ!」
「クソっ!こうなったら!」
男は花の近くにいた、女の子を人質にとった。
「おい!マリーゴールド!コイツの命を助けたかったら、お前が代わりに死ね!」
攻撃を加えるタイミングは無い。俺の命のタイムリミットは1分。
「良いだろう。俺が代わりに死んでやる!」
「交渉成立だ!」
男は女の子を投げる。
足に力を込める。
だが違和感が体を支配した。
表示が0になっているのだ。
俺は膝をつき倒れそうになる。
次の瞬間、俺を光が覆う。
先程男が蹴っていた花が偶然にも俺の頭に乗っていたのだ。
再び足に力を込める。今度は大丈夫だった。
風のようなスピードで男の懐に入ると、勢いよく倒した。
俺はフラフラとして、仰向けに倒れる。
今にも泣き出しそうな顔で女の子が寄ってくる。
「マリーゴールド……大丈夫なの……」
「大丈夫さ……俺は……永遠のマリーゴールドだからね」
女の子の涙が当たる。
眩い光がマリーゴールドを連れ去っていく。
光がおさまって見ると、そこには一輪のマリーゴールドが咲いていた。
YOU THINK ヒロコウ @takahiro1018
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