第2話 和馬を異性として意識し始める
あの日以来、和馬とは顔を合わせていなかった。女の子同士でふざけて胸を触り合う事はあっても、男の子に触られるのは初めてだ。今まで和馬を男の子として意識した事がなかったが、和馬はわたしを女の子として見ていたという事になる。確かに中二になったわたしたちは、体も成長して男女の違いもはっきりしてきた。和馬が、自分にないものに興味を持つのも当然のように思う。自分自身も、男の子に関心がないと言ったら嘘になる。ただ、和馬に対してそういう意識がこれまではなかったのも事実だ。
夏休みは部活にも行かず、だらだらと過ごす内に半分以上が過ぎた。和馬と宿題を一緒にやろうと思いつき、団地の2階上の家を訪ねた。
「和くん、いるんでしょ。一緒に勉強しよ!」と玄関の外から声を掛けると、しばらくしてドアが開いた。久し振りに見る和馬は、どこか大人びて見えた。
夏休みも終盤に入り、夏奈は和馬の事を考えていた。遊びにも来ないし、外で会う事もないし、あれ以来どうしているのかが気になっていた。というのは表向きで、夏奈が異性としての和馬に関心を示し始めていたといった方が良いかもしれない。まだ子どもだと思っていた和馬に、男子は女子に対して何を考えているのか、女子の体に興味があるのか、ひいては自分をどう思っているのかを訊きたかった。
やり残した宿題を口実に夏奈が会いに行くと、和馬は決まり悪そうにしていた。
あの日、夏奈の胸に触った時、ぼくの男性器は大きくなっていた。それが異性に対しての欲求だと知ってはいたが、具体的な事は知らなかった。オナニーを覚えたのは小6の頃で、大きくなった男性器を鎮める方法は知っていた。しかし、眠っているとはいえども夏奈の前でやる訳にはいかず、家に急いで帰って自分を慰めた。その晩は夏奈のおっぱいの感触と、おぼろげな裸体を想像しながら何度となく射精したが、後ろめたさが付きまとっていた。
夏奈と顔を合わせるのはきまりが悪く、家に閉じこもっていたが、向こうから訪ねて来るとは思いもしなかった。宿題はすでに終わっていて、夏奈がそれを移しているだけで、一緒にやる意味はなかった。
「和くんはすごいな!勉強はちゃんとやるし、成績も良いんだよね」とおだてられて嬉しかった。
「ところで、和くんはわたしのことを、どう思ってるの?」と何の脈絡もなく訊いてきた。どう答えて良いのか分からず、「どうって?」と口を濁した。ただ、心の中では『好きだ』と唱えていた。
勉強に飽きてきた夏奈は本来の目的を果たすべく、和馬の様子をうかがっていた。和馬は夏奈の顔を正面から見る事ができず、そわそわとして落ち着かなかった。夏奈を異性として意識している事も、好意を抱いている事も確かだが、それをどう伝えて良いものか分からなかった。『好きだ』と告げたとして、夏奈に拒絶されるのが怖かったし、これまでの関係に亀裂が生じるのを避けたかった。
和馬の煮え切らない態度にイライラしたわたしは、
「だから、好きか嫌いかってこと。わたしを女の子として、意識してるんでしょ!」と問い詰めると、「そ、それは…」と一向に覚束なかった。
「じゃあさ、一般論として訊くけど、男子って、エッチなことを見たり考えたりすると興奮するんでしょ?和くんもそうなの?興奮するとどうなるの?」と立て続けに質問を浴びせると、
「うん、あそこがうずうずして大きくなって苦しい」と急にあからさまに答える和馬に驚いた。「あそこ」「大きく」という言葉が気になって、その先の質問はためらわれた。
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