第3話 亜季から男女交際について教わる

 京都の旅館に着いてすぐに夕食、それが済んでから三人で大浴場に行った。亜季はぽっちゃりとした体型で、胸もお尻もふくよかでうらやましかった。千晴は背が小さくて子どもっぽいが、胸だけは人並みに発達していた。わたしはというと、胸もお尻も小さくてとても自慢できるものではなかった。

「亜季も千晴も、おっぱい大きいね。うらやましいな」と言いながら、

「二人とも、もう生えてるんだね。わたし、まだなんだよね」と目を下半身に向けながらぼやくと、

「人によって差があるから、焦る事ないよ。私は、つい最近だよ」と亜季が答えた。

「うちは、小六から胸が膨らんできて恥ずかしかったな」と千晴が言うので、

「おっぱい、誰かに触られた事ある?」と唐突に質問を投げ掛けていた。


中学生活最大の学校行事である修学旅行に、夏奈たちは二泊三日で京都・奈良に来ていた。研修は男子と女子の三人ずつで行動し、夏奈はクラスで仲の良い平塚ひらつか亜季あき大森おおもり千晴ちはると同じ班だった。20分という短い入浴時間に、女子たちはお互いの裸を見比べては評価し合っていた。


 部屋に戻って点呼が済むと、同室の女子三人がどこかに出掛けて行った。

「あの子たち、どこに行ったの?」と夏奈が訊くと、

「男子の部屋に行くって、さっき話してたよ」と千晴が答えた。私は厄介だと思いながら、

「もう点呼も済んで消灯だよ。先生に見つかったら、私たちも連帯責任だよ」となじっていた。

「男子の部屋で、何するんだろうね。昼間は班行動で一緒なのに、夜に行く必要があるの?」と夏奈がつぶやくと、私と千晴はあきれたように顔を見合わせた。それから布団に寝そべり、

「夏奈は、隣のクラスの桜庭君と付き合ってるの?」と私は何の脈絡もなく訊いてみた。

「団地が一緒だから、仲が良いだけだけど、付き合うって、どういうこと?」と夏奈には訊き返された。

夏奈は桜庭和馬とてっきり付き合っているものだと思っていたが、どうやら違っていた。しかも、話の様子から、異性との関係には疎いようだ。一方、千晴は子供っぽさを前面に出している割に、そういう知識に長けているように見えた。

「付き合うっていうのはさ、友だち関係ではなくて男女の関係ってことだよ」と千晴が口を挟んで来た。

「ますます分かんないよ。具体的に教えてよ!二人は経験があるの?」という夏奈は真剣だった。

「仕様がないな。男女がお互いに好きになるでしょ。そしたら告白して交際するの。それで、手をつないで歩いたり、キスして抱き合ったり、体を触り合ってエッチしたりするの!それが男女交際ってこと」と私は知識をひけらかし、夏奈に教え諭した。


宿泊部屋は他の班の女子三人が一緒だったが、その子たちが部屋を抜け出して男子の所に出掛けていた。残された夏奈たちはその子たちを批難しながらも、内心は落ち着かなかった。さらに亜季の男女交際についての話に、夏奈は和馬との事を思い出していた。


 わたしの胸を和馬が触ったのは、亜季の話からすると順序が間違っている。付き合って手をつないで、キスしてからが本来の行為で、いきなり胸を触るのはおかしいと思った。

「何それ?そういう順番なの?最初から体を触るのは、だめなの?」

「駄目じゃないけど、それは好きだからというより、ただ触りたいだけじゃないのかな」と言われ、ちょっとショックだった。和馬はわたしが好きなのではなく、ただ女の子の体に興味があっただけなのだと。

「亜季は付き合った経験があるの?千晴はないよね」と同意を求めると、千晴は小さくうなずいていた。亜季は何の反応も示さず、経験があるのかもと思った。

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