月の人

「言いにくいか?」


男が女に詰め寄る。


「言いにくいと申しますよりよく覚えてなく」


「覚えてない?」


「はい、ある大地主の方に酷い仕打ちをうけてまして」


「なに?仕打ちとは?」


「それは恐ろしくて口にもだせませぬ」


「さようか……ではその大地主が夫という訳ではないのだな?」


「もちろん、その大地主はやられもうした」


「やられた?だれに?」


「学がありまぬゆえはっきりとは言えませぬが……月の人かと」


「月の人?」


「大きな月から降りてきもうしたお方です」


「月から……それはまた……」


「はい……しかれどお陰で助かりもうした」


「ふむ、その月の人が大地主を成敗したのじゃな?」


女はコクリと頷いた。


「恐ろしかったじゃろう?大地主は死んだのか?」


「いえ、死にはしません。腑抜けになっただけで」


「腑抜け?」


「はい……月の光を浴びた者どもは大地主も家来も一様になにやら腑抜けになりもうして……うわ言の様に『あなうつくしやうつくしや』とまるで魂を抜かれた様子で虚空を見つめて繰り返すばかり」


「それは面妖な……」


「わたくしだけ正気を保って居ったもののそれが珍しかったのか月の人に連れていかれもした。そのあとなにやらあったのですがそこからあまり覚えておらず」


「ほう……」


「その後程なくあの子が産まれもうした」

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