異形

ハイブリッジ万生

まだ妖怪が普通に信じられていた時代

今は昔


名もなき村落のとある藁葺わらぶき屋根の下で一人の女と見窄らしい格好ではあるがいかにも侍崩れの様な出で立ちの男が会話をしていた。


「ところで……あれはなんぞ?」


「あれは、わらしでございます」


「わらしとな?どこぞのわらしぞ?」


「それは……わたくしのです」


「はは、まさかそのような戯れ言を」


「……」


女は何とも形容しがたい悲哀の籠った眼で男を見返した。


「……まさか、まことか?」


女はこくりと頷いた。


「いやはやなんとも……悪しざまに申した事をゆるせ」


「いえ……よいのです、あのような異形の姿をみれば、他人様がそう申されるのも仕方ない事。ですが、わたくしにはかわいい我が子です」


「そうであったか……それがしも命を救われた身としてあまり言いたくはないのだが……妖怪ではないのだな?」


「もちろんでございます」


「しかし、あの嘴はまるで鳥の様ではないか?烏天狗ではあるまいな?」


「天狗などではございませんあれは山にすむと聞きまする」


「たしかに、わしが助けられたのは河であった泳ぎも達者であった。しかし、その姿をみてさもありなんと思うた……あの水掻きは?」


「水掻きはうまれついた時にありもうした」


「さようか、あれも生まれつきか……失礼ながら夫は誰なのだ?」


「夫は……わかりません」


「なぜじゃ?」


女は何かいいよどんでいるように囲炉裏の砂を火かき棒でかき混ぜた。





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