第3話 血統書?いやいや元雑種!

 女性の登用に奔走する我が社


 その煽りをモロに喰らったのが本社の飼い犬の雄共である。


 我が社は丸の内に本社を構え、日本経済の中枢を担っていると自負する大企業。


 本社ビルの構えも大きく、社員数も10000人を超え、資本金も100億を超える旧財閥の承継会社。


 高度経済成長期にアメリカの財閥を意識し、組織の巨大化を目指し、相撲取りの如く、太りに太ったが…


 これまた時代の潮流


 バブル経済崩壊後、組織の縮小を余儀なくされ、外資系のハゲタカとの競争も激化し、株価没落を逃れようとダイエットに精を出し始めた。


 左遷、出向、そしてリストラ


 特にロックフェラービル並みの本社は超肥満体…


 平成の中頃から用済みの飼い犬共が地方に放出され始めた。


 加えて、女性の登用が本格化し始め、里親探しの標的は雄に絞られた。


 それも元々地方出身者の成り上がりの雑種共が格好の餌食となった。


 この成り上がりの雑種共は、若い時分、大都会東京丸の内に大志を抱き、野心を持って上京した元田舎者達。


 辛抱強く、我慢強く、本社のブラック過重労働に耐え忍んで来た。


 いつかは役員席に腰掛けるため…


 団塊の世代をお手本とし、時代錯誤の精神論で昼も夜も働き続けた者達だ。


 そのお手本の団塊の世代はバブルの恩恵を受け、とても美味しい会社生活の晩年を迎え、増設された役員席に雑種の分際で恰も血統書付きのように居座り続けた。


 あぁ無情…


 団塊次世代の雑種には、その席は用意されることなく、仮に空いても女キャリア・エリートに奪われ、その行き先、地方へと展開して行くのであった。


 元田舎者が田舎に帰る。


 故郷に錦を飾れば良いが、行き先は縁もゆかりも無い地方都市の支店長席。


 待っているのは孤独のみ。


 東京生活で一生を終えると思い込み、田舎者は都心にマンションを購入し、そこに家族を残したままの単身赴任。


 加えて、現場の仕事などしたことがない…


 本社では、上司が喜びそうな企画書ばかり起案し、夜は政治家、官庁のお偉方との接待の鞄持ちに明け暮れていた。


 忖度、ゴマスリ人事でのし上がって行ったは良いが、


 その誇れる世渡り術は、決して他人に言えない代物…

 

 更にだ!


 長い東京生活で自身が『都会人』と勘違いしてやがる!


 恰も血統書付きの飼い犬、キャリア・エリートになったつもりで野に下って来やがるので手に負えない。


 口癖は『本社では…』


 夏となり秋になり冬が来ても、『本社では…』


 郷に入れば郷に従う、古人の教訓・諺は、この類の人間は知らないらしい。


 渋々と野に下った元雑種共は、お殿様気分でふんぞり返る。


 人材育成、社員とのコミュニケーション


 そんなもん頭の隅にもない。


 未だに本社の役員席に未練タラタラの元雑種は、あわよくば、本社に!と一条の光を求め、ニーズの全くないプロジェクトを敢行する。


 アピール、アピール!


 地方の片隅で尻尾を振る。


 こんな輩が舞い降りた地方の現場は堪ったもんじやない!


 来る奴、来る奴で言うことが異なる。


 『本社では…』は同じでも、アピールが異なって来る…


 それも無駄なニーズの無いプロジェクト…


 元雑種の支店長の本社返り咲きのためだけの仕事だ…


 嫌な顔一つ見せるものならば、


『君達は甘えてるよ。僕が本社に居た頃は…、云々』


 やかましいわい!


 ここは本社ではない!


 ここは地方の一現場だ!


 東京から捨てられた時点でもう諦めろよ!


 お前は捨て犬なんだよ!


 地方の里親に拾われた元雑種の捨て犬なんだよ!


 もともとお前はエリートでもキャリアでもない、成り上がりの雑種なんだよ!


「ノーと言えない日本人」の典型として、飼い慣らされたペット・ドックなんだよ!


 昼飯時、近くの喫茶店で若手社員が話していた。


「今度の支店長、東京、東京、丸の内、丸の内、本社、本社とうるさいよな!」


「ホンマ、うるさい!」


「でも、訛ってるよな…」


「あっ、お前も気付いたか!


 この前の訓示の時、確実に訛っていたよなあ!」


「東京被れの田舎者かい!」


 やってられるか!


 こんな会社!


 俺は愛想尽かして、おさらばしました!

 

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