逃亡オーマ カイ

仲 懐苛 (nakanaka)

第1話 プロローグ

遂に人類再利用法律が施行された。


引きこもり、精神疾患者、犯罪者、社会脱落者を、親族の同意を得て、強制的にオートマン化させる。前頭葉にAI搭載電気刺激装置を埋め込まれた人間は意思がなくなり、プログラムされた行動を黙々と繰り返す事になる。少子化と労働人口の減少から、政府は遂に、社会脱落者の労働搾取の強制施行に乗り出した。自動人間と化した意思を奪われた社会脱落者達は、自動人間『オーマ』と呼ばれるようになった。


カイは中学生の時に、些細な事から虐められ非登校となって自室に引き籠る生活を強いられていた。いじめの主犯格は同級生のグロウで、彼は市長の息子だった。カイの友人たちは皆、グロウの言いなりだった。校舎裏で、殴られ、ヘドロをかけられたカイを、幼馴染のリンでさえ冷たく無視した。いじめに気が付いた優しい両親は、学校や市長と話し合うと言い、和解するまで学校に行かなくていいとカイへ告げてきた。


カイは何も悪くない。きっとグロウや彼の両親が和解に応じるはずだ。また元通りの生活に戻る事ができる。そうカイは信じていた。だが、カイが、引き籠ってから1ヵ月後、自室に数人の男性が押し入って来てカイは気絶させられた。


カイは、狭く真っ白な空間で目を覚ました。どうやらカプセルの中にいるらしい。カイの脳裏にオーマとなってからの記憶が走馬灯のように蘇る。

感情が動かされない白黒動画を見ているように、オーマとして過ごしてきた日々を思い出す。社会脱落者のオーマは、人間達から雑に扱われる。社会から追い出され、家族からも見捨てられた厄介者のオーマ。ゴミのように蹴られ、石礫を投げられながらも、埋め込まれたAIは黙々とオーマの体を動かし続ける。人間達のサンドバックのように扱われ、人間達の為に働かされ続ける。元々はオーマも同じ人間だったはずなのに、、、、




カイは思わず自らの口を両手で塞ぎ、声にならない叫び声を上げた。

過酷な労働環境、どんどん倒れてなくなる周囲のオーマ達、オーマを管理する人間は、笑いながらオーマを足蹴りにして憂さ晴らしをする。カイは運よく生き延びてオーマとなってから10年が経過していた。そう10年。ほとんどのオーマは5年で寿命を迎え、使い捨てられる。


逃げなければ、、、


誰にも見つからずに、ここから逃げなければならない。

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