第2話
その言葉を聞いた途端に、さくやは急に不安になってきた。
なにせ島中の草木が完全に枯れているのだ。
その異様な光景。
なにかあるのではないか。
いやなにもないと考える方がおかしいのだ。
さくやの心配をよそに、友樹はもうクルーザーのへりから島にとりついた。
そして登り始めた。
最初はロッククライミングに近い体制だったが、すぐに手が前に伸ばせるくらいになった。
その時、友樹はひどく苦しそうな顔をした。
と同時に、なにかに気づいたかのように、島の先を見た。
下にいるさくやの位置からは、友樹の視線の先は見えなかった。
すると色が一瞬で変わった。
服の色はそのままだが、友樹の服から出ている顔、髪の毛、手の先が少し薄い灰色になったのだ。
――えっ?
さくやは友樹を見ていたが、友樹はそのまま動かない。
さくやは慌てて島に張り付き、友樹のそばまで来た。
そして友樹を見た。
それはどう見ても生身の人間ではなく、石像のようだった。
さくやは友樹に触ってみた。
触った感触も石そのものだ。
人間を触った感触ではない。
その時、さくやは強烈な苦しさを覚えた。
まるで全身を、内から業火で焼かれているかのようだ。
桐谷は待っていた。
妹の帰りを。
恋人の友樹と二人で、小型クルーザーで遊びに出たのだ。
桐谷は友樹を気に入っていた。
少し無神経で無鉄砲なところもあるのだが、基本的にはいい奴だと思っていた。
慎重なところがある妹のさくやとは、意外にお似合いなのかもしれないとも。
――もしかしたら、そのうち義理の弟ができるかもしれないな。
桐谷は時計を見た。
一泊のクルーザー旅行の後に、三人で食事をする約束になっていたのだ。
友樹はともかく、さくやは時間には正確だ。
そのため高級レストランを予約してあるのだ。
約束の時間がきた。
いつもは十分以上前に現れる妹が、来ない。
それでも待つ。
十分。二十分。
携帯にかけても「おかけになった番号は電波の届かないところに…」の音声があるばかり。
一時間待っても二時間待っても、妹は来なかった。
――もしかしたら。
桐谷は警察に連絡した。
その日はもちろんのこと、次の日になっても妹は帰ってこなかった。
恋人の友樹も。
海の上で事故があったと思われ、警察も一応探してはいるようだが、広い海の上だ。
どこをどう探せばよいのかもわからないようで、まるであてにはならない。
その点については桐谷も同じだった。
心配するばかりで、無駄に時間だけが過ぎていく。
そしてしばらく後、警察から連絡があった。
二人が乗っていたクルーザーが見つかったと言うのだ。
桐谷の住んでいるところからは離れていたが、桐谷はすぐにクルーザーが漂着したと言う浜にむかった。
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