小さな王
ツヨシ
第1話
今日、夫が釣りに出かけた。
たまに行く。
昔買った中古の小型漁船で。
朝早く出かけて遅くに帰って来る。
まれに泊りもある。
そんな時は結構遠くまで行っているようだ。
独身の頃は休みのたびに釣りに行っていたようだが、結婚してからは随分と数が減ったようだ。
何故なら私は釣りが好きではなく、おまけに船酔いが酷いのだ。
だから夫一人で行く。
休み度に妻を放置して出かけたら、それこそ離婚問題だ。
それは夫にはできない相談だ。
そんなことを考えていると、夜も更けてきた。
そろそろ夫が帰って来るころだ。
しかし夫は帰ってこなかった。
今回は泊りだと思った。
海の上では携帯も繋がらないし。
私はそのまま床についた。
次の日の夜になっても夫は帰ってこなかった。
さすがにおかしい。
警察に連絡を入れ、次の日から捜索が始まった。
しかしどこをどう探せばよいのか、警察にはわからなかった。
私も夫がどこに釣りに行っているのか、知らなかったからだ。
それでも海上保安庁あたりが一応捜索はしてくれたようだ。
だが夫は見つからなかった。
しばらく後、夫の船が浜に流れ着いた。
船はどこも損傷しておらず、不審なところはない。
ただ夫がいなかった。
一体どこに行ってしまったのか。
何もわからない。
彼氏の友樹と一緒に海に出た。
小型のクルーザーで。もともとは父のものだったが、今はさくやと兄の名義になっていた。
父から譲り受けたのだ。
友樹はクルーザーの免許は持っていないが、さくやも兄も持っている。
「さくや、今日は少し遠出したいな」
友樹がそう言うので、いつもよりも沖に出た。
GPSがあるから、少しくらい岸を離れても問題はない。
かなり岸から離れたと思った時、目の前に島が見えた。
友樹が言った。
「なんだあれは」
まさになんだあれと言っていい島だった。
横から見るとドーム球場の屋根のような形をしている。
目測だが島の大きさは二百メートルくらいだろうか。
そして島全体に草木が生えていたようなのだが、それが見る限りすべて枯れているのだ。
島の形といい、草木がすべて枯れていることといい、とにかく奇妙と言うか不気味な光景だった。
「ちょっと行ってみよう」
友樹が言う。
さくやも少し好奇心がわいてきた。
船着き場はもちろん、砂浜すらないようだが、島のすぐ近くにクルーザーを停めれば、島に上陸はできそうだ。
ドーム状の斜面は水際では少し急な傾斜だが、すぐにゆるやかな角度となっている。
さくやは友樹に言われるがままに島のそばにクルーザーを寄せた。
そして枯れた木の根元に、とも綱を結び付けた。
「ちょっと上陸してみよう」
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