第380話 収納

 湾の遊覧が終わりルイーズの港に帰って来ると、見慣れた顔が待っていた。


「エドワード様、ご無事で何よりでした!」


 ノーラが声をかけてくる。


「ワイルドウィンドのみんなにも心配かけたね。そういえば、おじい様たちと一緒じゃなかったんだね?」


「そういえば、エドワード様はご存じなかったですね」



 ワイルドウィンドや、おじい様から説明してもらい、大体の状況を把握する。



「それで、みんなの知り合いや、ランディックの家族は無事だったの?」


「心配して下さってありがとうございます。ランディックの家族はモヌールの町なので、おそらく無事です。この町でお世話になった人も、町の外れに住んでいたので無事でした」


 ノーラが代表して答えた。ランディックは頷くだけなんだな。


「エドワード様、その男の家族はモヌールにいるのですか?」

 

「そういえば、クレストの拠点はモヌールだったね。四人はワイルドウィンドという冒険者で、彼の故郷がモヌールなんだってさ」


「そうでしたか、私の名はクレスト・ウェイブ。ウェイブ家の当主になりますが、モヌールでは素性を隠していたので、コライユ商会のクレストと言った方が分かりやすいでしょうね」


「「「「コライユ商会!」」」」


 ワイルドウィンドが驚いているということは、有名なのかな?


「四人は知っているの?」


「知っているどころか、マーリシャス共和国で一、二を争う商会です!」


 そんなに大きい商会だったんだ。


「クレストはそんな大きな商会を持っているのに大丈夫なの?」


「問題ございません。むしろ、できることなら、モイライ商会に吸収していただければ、従業員も喜ぶでしょう」


 まあ、その辺りも含めて、今後相談していくしかないだろうな。


「それにしても、謎だったウェイブ家の当主がコライユ商会の会頭だったとは……」


「私たちには後ろ盾になる商会がいなかったから、自分たちで商売を始めたにすぎないよ」


 それでも、大きな商会にするのは大変だと思う。


「それで、無事だった人は、どのくらいいたのか分かったのかしら?」


「クロエ様。話がそれて申し訳ございません。全てを確認できたわけではございませんが、中央でなければかなりの生存者がいるものと思われます」


「そう。アルバン、どうするの?」


「中央を除けばか……クレストの商会は無事だったのか?」


「いえ、メインの商会はあの辺りになります」


 クレストが指さした場所は瓦礫と化している。


「メインということは、他の店舗は無事だったのだな?」


「店舗自体は大丈夫なのですが、長期間ルイーズに入れなかったため、中はかなり荒れておりました」


「モヌールの方は無事なんだな?」


「その通りでございます」


「なるほどな……」


 おじい様は考え込むが、何がなるほどなのかサッパリ分からない。


「クレストよ。モヌールから人を連れてきて、復興を手伝わせることは可能か?」


「可能でございますが、今回、ルイーズの港が閉鎖されていたため、陸路を使って潜入いたしました。船で帰れれば迅速に対応できるため、エドワード様の船をお借りできないでしょうか?」


「エディの船?」


 おじい様は港に停泊している船を見て首を傾げる。


「現在、停泊している船はほとんどが、イグルス帝国の船です。つまり、イグルス帝国勢を撃退したエドワード様の物ということです」


「そういうことか。エディ、どうするのだ?」


 どうすると言われても、こんなにいらないし、使い道がないな。


「クレストは僕の部下になるんでしょ? だったら船を使う権利があると思わないかい?」


「それでは!?」


「ローダウェイクにいる、鍛冶師に見せたいので二隻だけ持って帰るから、それ以外はクレストの指示で復興に役立ててもらえるかな?」


「二隻以外の全てを!? お任せください!」


「復興に向けては、とりあえず、クレスト主体にするとして、問題は誰が残るかだな。色々と報告せねばならぬし……」


「アルバン。もう少しで祝福の儀でしょ? いくつかの貴族は王都に集まるのじゃないかしら?」


「もうそんな時期か。それはちょうど良いが、公爵を集める必要があるな。ハットフィールド公爵は通り道だから問題ないとして……クレスト、もうひと仕事頼めるか?」


「何なりとお申し付けください!」


 すっかり家臣になっているというか、この短時間で馴染みすぎてない?


「ファンティーヌに行って、ヴァッセル公爵に書状を届けてくれ」


「畏まりました! ただ、帝国の船ではまずいので、モヌールで船を乗り換えても?」


「もちろんだ。そこで、援軍の指示もしておけば、スムーズに行くだろう」


 なるほど、船ならヴァッセル公爵に早く伝えられる。さすがおじい様だ。


「おじい様、バーンシュタイン公爵はどうするのですか?」


「バーンシュタイン公爵家など、王都から遠い領地の者は、だいたい祝福の儀には顔を出すのだ。人材確保のためだな」


「知らなかったです」


「とは言え、来ない可能性もあるので、ヴァッセル公爵から伝令を出してもらうよう、書状に書いておくつもりだ」


「あとは、父様とトニトルス公爵でしょうか?」


「それなのだが、エディのアレはどうなった? 気絶で駄目になったか?」


 アレ? 気絶で駄目にって何の事だっけ?


「あっ! カザハナの馬車に繋いであるので大丈夫です!」


 マーリシャス共和国に来るにあたって、いざという時、連絡できるようにヘルメスの糸を出しながら来たのだ。


 ヘルメスの糸を検証した結果、馬車の中にいても糸を出すことができるため、最近遠くに出かけるときは必ず出すようにしている。


「さすがエディだ。それなら問題ないだろう。ここで話していてもしょうがない。一度屋敷に戻ろうか。クレストも来るがいい」


「畏まりました。サイモン。出発の準備を頼めるか?」


「お任せください」


「おじい様、少しだけ待ってください。船を二隻回収していきます。クレスト。さっきの二隻にもう人は乗ってない?」


「全員、下船しております」


「よかった」


 まず、ベニードの乗っていた新型の船を空間収納庫に収納する。


 ――!


 クレストたちが、驚いている……どうやら、シュトゥルムヴェヒターを収納するところは見ていなかったみたいだ。まあ、仲間になるのだからいいだろう。


 続いて、もう一隻を収納しようとするが入らなかった。シュトゥルムヴェヒターは入ってないから、容量はまだ余裕なはずなんだけど。


「船の中に、人か生き物がいるかもしれないってことかな?」


「私たちに、お任せください!」


 小さな声で考えをつぶやいただけなのに、クレストが部下を連れて走っていった……。


「我々も加わりましょうか?」


 アキラが聞いてくる。


「船の事はクレストたちの方が詳しいし、任せておこう」


「畏まりました」


「エディ、体を包める大きめの布を用意しなさい」


「おばあ様?」


「エディ、覚えておきなさい。帝国のやり口はいつも同じ、女、子供を攫って無理やり労働力や戦力にしているのよ」


「そんな……」


 大き目の布を何枚か準備していると、クレストが走ってきた。


「エドワード様、騎士団で女性の方を数人お借りしたいです」


「分かった。アザリエ、頼んだよ」


「畏まりました。親衛隊とハグし隊はついてきて」


「アザリエ、おばあ様がこれを持って行くようにと」


「助かります」


 アザリエたちは布を受け取ると、クレストの後について船へ向かう。


 この状況を理解していないのは僕だけか。


 しばらくすると、体を布で覆った女性たちをアザリエたちが優しく支えて出てきた。女性たちの髪はボサボサでかなり憔悴しているように見える。


「アスィミ!?」


 突然アスィミが僕を抱きしめたのだ。


 アスィミの体は小刻みに震えていて、何かに怯えているようにも感じる。捕まっていた女性たちを見てみるが、さっぱり分からない。


「申し訳ございません。少しだけこのままでお願いします……」

 

「落ち着くまで大丈夫だよ」


 アスィミがここまで怯えるなんて、何に怯えているのか気になるところだ。

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