第379話 これから
クレストの言葉にどう答えてよいか分からず、おじい様を見る。
「クレストよ。それは、マーリシャス共和国を終わらせるということか?」
「アルバン様、その通りでございます。ヴァーヘイレム王国がマーリシャス王国を滅ぼした当時は、治めるだけの余力がなかったと考えております。しかし、今は当時とは違い、十分に治めることが可能ではないかと。私としては、そのままエドワード様の領地にしていただくのが最善の策と考えております」
以前、おじい様が言っていた内容と同じような事を言っているな。
「確かに今回の件は、襲ってきた者を撃退しただけとはいえ、結果的にマーリシャス共和国を滅ぼしたことになるが……」
「マーリシャス共和国を王国の領土にしてしまえば、イグルス帝国に専念できてちょうど良いのではないでしょうか? もちろんマーリシャス共和国全域をエドワード様が治めるというと、王国内で文句もでるでしょうから、このルイーズの町を中心とした土地をエドワード様の物にされるのが良いかと」
「基本的に貴族が攻め落とした領地はその貴族の物になるとはいえ、さすがにマーリシャス共和国全領土はな。確かに一部なら問題なさそうだが、クレストはそれで良いのか? 祖国を失うのだぞ?」
「ファーレンの港で、それまで海神と呼ばれていた魔物を目にするまでは、いつか自分が……という思いもありましたが、あの魔物を見てからはエドワード様にお仕えしたいと思うようになりました」
「僕に?」
「そうです! 魔物だったとはいえ、アレは間違いなく海神と呼ばれるに相応しい姿でした。アレを討伐されたエドワード様に仕えたいと思うのは当然の流れでしょう」
当然の流れらしい。
「クレスト様がまだ小さい頃、先代様が海神の犠牲になりまして、クレスト様はこう見えて苦労しておられます。家臣に加えていただければ、必ずやエドワード様のお役に立てると存じます」
「サイモンやウェイブ家の人はそれでいいの?」
「わたくしもアレを目にしておりますので、クレスト様のお気持ちは理解できます」
「サイモンはアレを見たとき、泣いてたよね?」
「先代様の無念を晴らせたと思えば当然でございます」
船を貰って帰るつもりだけだったはずが、大きな話になってきたな。
「おじい様、仮に僕の領地にしたとしても、ヴァルハーレン領から遠すぎませんか?」
「そうだな。その辺りは移動手段も含めて考える必要があるが……」
おじい様はおばあ様をちらりと見ると。
「例えば、エディは定期的に行き来するとして、この町が軌道に乗るまでは、儂や騎士団の一部を駐留させるというのも手段の一つだ」
「アルバン……あなた、駐留すればエディが来た時、遊べるなんて思っていないでしょうね?」
おばあ様、折角考えてくれたおじい様に失礼かと。
「クロエは長期間ローダウェイクを離れるのは嫌だろう? つまり、儂以外に適任は居らぬのだ。エディが来た時ぐらい楽しんで何が悪い!?」
おじい様、最後が本音だったのですか……まあ、凄く嬉しいんですけど!
「そうね……帝国への進軍が始まる時にアルバンとあたし、二人ともローダウェイクに不在というのはまずいわ。ハリーが動いた時、ローダウェイクにソフィアだけという状態も避けたいし。エディが早く行き来できるようになればいいのだけど、何か良い案はないのかしら?」
「そうですね……騎士団を半分に分けるということなので、馬車を引かずに僕とカザハナだけなら、高速で移動できると思いますが」
「確かにエディだけなら早そうだけど……」
良い案だと思ったけど、おばあ様は何かひっかかるようだ。
「エドワード様、一人というのが良くありません。最低一人、私かジョセフィーナさんが一緒じゃないとダメです」
「よく言った! 侍女は必ずお付けください! アスィミ!?」
みんなは思わず、アスィミの方を見るが、当然ですといった顔をしている……チョコは食べてないはずなんだけど。
「……侍女にするかはともかく、護衛一人は譲れないラインね。カザハナなら、エディともう一人ぐらいは大丈夫でしょ?」
「そうですね。問題ないですけど、アスィミはカザハナに乗れないでしょ?」
「そこは頑張ります!」
本来は正解なんだろうけど、やる気に溢れたアスィミ……いつまで続くのだろうか。
「まあ、どちらにしても、この場で結論がつく話ではない。国王に報告してハリーの判断も必要だな。おそらく、ヴァルハーレン領とするのではなく、フィレール侯爵領とするのが落とし所だろうな」
「フィレール侯爵領にですか?」
「そうだ、さすがにいつまでも侯爵に領地がないままだと、この先帝国に攻め入った時、他の貴族に領地を与えにくい。ある意味、ちょうど良いタイミングともいえよう」
「なるほど、まだ領地を持たない貴族に与えるわけですね」
「ただで与えるわけではないぞ? なんの手柄もない貴族にくれてやる土地などないからな。イグルス帝国の土地については手柄に応じてということになるはずだ」
「では、マーリシャス共和国についてはどうなりますか?」
「難しいところだな。本来ならエディの物になるべきところだが、少し広すぎる。他の公爵がなんと言うかだな。同じ派閥でマーリシャス共和国に隣接している、ヴァッセル公爵、ヴェングラー伯爵、ライナー男爵に少し分配するのも手段の一つかもしれぬ」
「クレストの言う通り、ルイーズ付近だけでいいんですけど」
「できるだけ貰っておいた方がいいぞ? エディはこの先、まだまだ功績を立てるだろうから、いざという時、家臣に与えられる領地は持っておいたほうがいいだろう」
「家臣にですか?」
「うむ、エディの騎士団に入りたい者はたくさんいるからな。現在調整中だが、ベルベルトの次男、マルシュが来たがっているそうだ」
「本当ですか!?」
「そうだ。今はハリーが調整している最中だな」
「マルシュ君は次男でしたけど、カラーヤ侯爵としては問題ないのですか?」
「娘も無事嫁いだし、準備が整えばルイドに侯爵を譲るそうだ。エディが引き取ってくれれば、安心できると言っていたぞ?」
マルシュ君が騎士団に入ってくれるのは心強いな。
「ところで、クレストといったな? もし、マーリシャス共和国の領地をエディではなく、全て王国で管理すると言われた場合どうする?」
「もちろん、エドワード様に付いて行きます!」
「なるほど、そこまで覚悟できているのなら問題なさそうだな」
「それでは!?」
「まあ、最終的に決めるのはエディだ。どうする?」
「僕がですか?」
「うむ、これからは、フィレール侯爵として判断する機会も増えてくるはずだ。練習にちょうどいいだろう」
「分かりました……」
クレストが仲間になりたそうに、こちらを見ている!
「……それじゃあ、クレスト。僕についてきてくれるかい?」
「もちろんでございます! ありがたき幸せ!」
クレストが仲間に加わった!
まあ、亜人差別の酷いマーリシャス共和国でアスィミを助けたぐらいだし、大丈夫だろう。おばあ様もおじい様の後ろで頷いているから正解なはずだ。
――――――――――
糸を紡ぐ転生者 セラータ以降のマップを作成いたしました。
1巻最後の地点になります。
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