第378話 遊覧船

 とりあえず、ベニードを片付けて岸の方を見た。


「おじい様とおばあ様、それに騎士団のみんなも見える!」


『追いついたようだな』


 手を振ると振り返してくれる。


「そういえば、この船どうやって岸まで運ぼうか?」


「船は糸で固定されているので、岸から助けを連れて来たらどうです?」


「それが一番良さそうだね」


 アーススライムの糸を岸まで放って橋を作る。このギリギリ目視レベルの距離でも、橋が架けられるんだな。架ける橋もかなり上達して、以前は太めの糸で構成していたが、今は細めの糸で構成されているので、歩くのがかなり楽になっている。


「エディーーッ!」


「おじい様!」


 橋を架けた途端、おじい様が走ってきた!


「大丈夫か!? 怪我などはしておらぬか?」


「アスィミのおかげで大丈夫です」


「そういえば、アスィミの様子がいつもと違ったな。何があった?」


「おじい様もそう思いますか? 起きたらあの状態だったので、僕も戸惑っています」


「そうか、その辺りは帰ってからソフィアに相談するしかないだろうな」


「それが一番ですね」


「エドワード様、ご無事で何よりです」


「アキラ、心配かけたね。そっちは大丈夫だった?」


「エドワード様の道具のおかげで、我々でも十分対応可能でした」


 もしもの時のために考えておいた、異形対策をこんなに早く使うことになるとは思っていなかったけど、用意しておいて本当に良かった。


「エディ、アレはとても良いわ。ヴァルハーレン領に帰ったら、あたしたちにも作ってちょうだい」


「おばあ様もですか?」


「異形が大量に出てきて混戦になった場合、あたしたちもアレを使った方が楽に倒せそうよ」


「分かりました。用意します」


 必要なさそうかと思ったが、確かに混戦になると、おばあ様とおじい様はフルパワーを出せないというか、うちの一族みんなそうだった。


「帝国兵は全て片付けたようだな」


「はい、出来るだけ情報は聞き出したので、後で報告します。ところで、あれとこの船の二隻を岸に戻したいのですが、船を動かすことはできますか?」


「儂はできんな」


「あたしも、船の動かし方は知らないわね」


 アキラを含めた騎士団のみんなも知らないようだ。まあ、当然といえば当然なんだけど。


「エドワード様、私たちにお任せください!」


「クレストは動かせるの?」


「もちろんでございます。海での移動は常に危険が伴いますので、船員が海に落ちた場合を想定して、私や兵士も訓練しております」


 確かに嵐で船員が海に投げ出されていたら遭難していた可能性もあった。もしかしたら、レーゲンさんも船を動かせるのかもしれないな。今度ロゼに聞いてみよう。


「だったら、クレストお願いできるかな?」


「畏まりました! お前たち、船を岸まで移動させるぞ!」


 ――はっ!


 クレストが指示を出すと兵士たちが動きだす。細かな指示はサイモンが出すようだ。今のうちに固定している糸とアーススライムの糸を回収しておこう。


 しばらくすると、船が動きだす。


「――! これはっ!?」


「おじい様?」


「この状況は可愛い孫との船旅じゃないか?」


 少し無理があるような……。


「よろしければ、湾内を一周いたしましょうか?」


「……よろしく頼む」


 クレストが指示を出しに行くと、もう一隻はそのまま岸に向かい、この船だけ湾内を回る。ルイーズの港もファンティーヌと同じで湾内にあるのだが、全ての湾内を回るとそこそこ時間がかかるので、ルイーズ周辺を回るようだ。


「離れてみるとよく分かりますが、ルイーズの町の被害は相当ですね」


「どうやら、元貴族のヴァロア家の者を異形に変え、中立派であるプルボン家を襲わせたようだな」


「アンリがですか!? ――! 口を挟んで申し訳ございません!」


「おじい様、彼はマーリシャス共和国、元貴族のクレスト・ウェイブです」


「なるほど、ベニードの奴がアンリと言っていたから、あの異形はアンリ・ヴァロアで間違いなさそうだな。悪いが異形故に消し去ったぞ?」


「それはしょうがないのですが、ウェイブ家だけになってしまったようですね……」


 対立していたとはいえ、複雑な心境のようだ。


「確か表向き首相は国民が決めることになっているが、実際のところは元貴族の指名により決定するのだったか?」


「ご存じでしたか! 当初、国民だけで決めさせようとしたところ、争いが起きたため、仲裁に元貴族の三家が間に入り、指名したのが始まりだと聞いています」


「ならば、次の首相はそなたが決めるしかないだろうな」


「やはり、そうなりますよね。しかし、私には指名する人物がいないのです」


「人物がいないというのは?」


「元々は三家が選んだ商人だったのですが、考えの違う三家です。なかなか三家全員が推す商人が一致せずに決まらないことから、それぞれが推す商人を、三年で交代するようになったそうです」


「まあ、そうなるだろうな」


 なるほど、持ち回りで決めていたのか。


「プルボン家、ヴァロア家、ウェイブ家の順だったのですが、ある時、ヴァロア家が推していた商人が暗殺され、三家の対立がより深まり、プルボン家が首相を独占するようになったらしいです」


「暗殺はプルボン家の指示か?」


「真相は分かりませんが、ウェイブ家ではそう伝えられています。プルボン家が独占するようになれば、当然我々につく商人はいなくなります」


「なるほど、推す商人がいないというのは、そういうことか。支援してくれる商人なしで、ウェイブ家はどうやって生活していたのだ?」


「もちろん、自らが商人になって稼いでいました。ヴァロア家も同じですね」


「それで、ヴァロア家は帝国に取り込まれたのか」


「そういうことになりますね。我々はヴァーヘイレム王国と取引していたので助かったのでしょう。エドワード様に一つお願いがあるのです!」


「僕に?」


「はい! この地を……いえ、マーリシャス共和国をエドワード様の領地にしていただけないでしょうか?」


「えっ!?」


 クレストはとんでもないことを言い出したのだった。

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