第381話 新たな神?
アスィミが落ち着くのを待っていると、クレストが小走りで近づいてきた。
「エドワード様、少々面倒なことになったかもしれません」
「面倒?」
「おそらく、最後尾にいる女性たちは、プルボン家とヴァロア家の血縁者だと思います」
「そうなの?」
「私も初めて見る者たちですが、服装や髪色などの特徴を考えると間違いないと思われます」
なるほど。確かに、包んだ布の隙間から見える服装は良い生地を使っていて、髪色もブラウンではなく、青っぽい色だ。
「彼女たちは貴族の血縁だから、帝国も能力が欲しかったのでしょうね」
おばあ様が話に入って来た。能力の高い子供を産ませるためか……かなり歳上の人もいるけど、能力のためならなんでもありのようだ。
「後で始末しておきますか?」
「えっ!?」
「そうね……せっかく助けたけど、しょうがないかしら」
「ちょっと、待ってください。どうしてですか?」
「生かしておいても、災いの種にしかならないからだな」
おじい様まで……僕だけがおかしいのか?
「エドワード様。プルボン家はともかく、ヴァロア家は今回の事件もそうですが、ヴァーヘイレム王国に対して仇なす存在になりましょう」
「クレスト。そなたには手間になるが、彼女たちの話を聞いて判断してくれるか?」
「畏まりました。アルバン様の言う通りにいたしますが、よろしいでしょうか?」
「そうしてもらえると嬉しいよ。おじい様もありがとうございます!」
「今回はエディの優しさに免じてチャンスを与えるだけだぞ?」
「分かっています」
「エドワード様、この船の彼女たちが閉じ込められていた場所がかなり汚れているため、収納されるのは別の船にしたほうがよろしいかと」
「そうなんだね。分かったよ」
「それでは、エドワード様たちは先に屋敷の方にお戻りください。準備をしてから私も参ります」
「頼んだよ」
◆
屋敷に戻って来た僕たちは、馬車に結び付けていたヘルメスの糸を解き、部屋まで延長したあと、防音の魔道具を発動させて、受話器をつける。
受話器は接続した数だけ同時に通話できるので、僕、おじい様、おばあ様、アキラ、アザリエの五人で話をすることになった。騎士団の半分はクレストの手伝いをして、残りのメンバーで部屋の中と外の警備。ジョセフィーナとアスィミも部屋の中だ。
受話器を繋げ、声を出すと、ベルが鳴った瞬間にすぐ繋がった。
『こちら、ローダウェイクです!』
「僕だけど?」
『エドワード様ですね? 直ぐにハリー様を呼んで参ります!』
兵士が走って行く音が聞こえる。僕たちがマーリシャス共和国に滞在している間は、兵士が交代で通信室にいるのだ。交代と言っても、通信施設はトップシークレットなので厳選された人以外は入れない。
父様が兵士から着信のない時間を潰すのが大変だと相談されたらしく、室内でトレーニングできるように、リュングとロヴンに頼んでトレーニング器具を作ってもらったのだ。
実際にトレーニング器具を使ってみた父様が凄く気に入ったため、兵士全員が使えるトレーニングルームも作られたのはしょうがないだろう。
『エディ。少し到着が遅かったのかな?』
『それよりも無事だったの? 何かされてないかしら?』
母様も一緒に来たようだな。これまでの経緯を簡単に説明する……おじい様がだけど。
『エディ、怪我は大丈夫なの?』
「母様、アスィミが守ってくれたので大丈夫です」
『アスィミが頑張ってくれたのね! ちょっと代わってもらえるかしら?』
「アスィミ。母様が話したいそうです」
アスィミは少し戸惑った表情を見せるが、新たに繋いだ受話器を受け取ると。
「ソフィア様……」
『エディを守ってくれてありがとう。でも、怪我はしてない?』
「……大丈夫です」
大丈夫と言ったアスィミの目から涙が溢れるが、複雑な表情をしていて感情は分からない。
『痛い所はないの? あったら、エディに言って治してもらうのよ?』
「もう、治していただいたので……」
『それならいいけど、無茶しちゃ駄目よ? 味方はたくさんいるのだから、頼れるところは頼るのよ?』
「……大丈夫です。ソフィア様……その……」
『分かってるわ。これからもエディを頼んだわよ?』
「お任せください!」
アスィミは力強く言うと受話器を僕に渡す。母様がアスィミの何を分かったのかサッパリ分からない。
『話を変えてごめんなさい』
『いいよ、必要なことなんでしょ?』
『ハリー、ありがとう』
電話でイチャつかないでほしいというか、二人とも一緒にいるのだから、終わってからでもできるでしょうが。
『それで、父様。問題が山積みなようなので、簡単なものから一つずつ片付けていきましょう』
「……そうだな」
今のがなかったかのように、話を戻した! 父様、見習いたいです!
『ライナー男爵の件はテネーブル伯爵が動いているのであれば、今後サポートしていくことにして、現状、僕は知らないことにしておきますね』
「それでよいだろう」
『次からが色々と問題で、簡単に纏めると、マーリシャス共和国を落としたから、領土をどうしようかってことだね?』
簡単に纏めすぎなような……。
「そういうことだが、ハリーはどう考える?」
『そうですね……父様が考えるように、フィレール侯爵領としては大きすぎるので、隣接する貴族に貸しを作るのがよいと思います。ただ、国王派だけでなく、中立派のエリオッツ侯爵にも分け与えるのはどうでしょうか?』
「ハットフィールド公爵なら分かるが、エリオッツ侯爵に分けても無駄ではないか?」
『無駄に終わる可能性もありますが、ルイーズから早く移動しようと思うと最終的には新街道が必要になってきます。王都ヘイレムから、ヴァールハイト。そこからエリオッツ侯爵領のアルティスタを通過して、ルイーズまで街道を整備すればかなり時間の短縮ができるはずです』
父様の言う通り、ハットフィールド公爵領を通るルートより、かなり高速で移動できそうだ。
「なるほど、その街道を整備すれば、かなりの時間短縮が可能だ。マーリシャス共和国の領地をフィレール侯爵領とした時の問題であった、移動時間にも繋がってくるな」
『褒美として、ローダウェイクから王領へ向けての街道の再整備の権利も貰いましょう。イーリス街道なので道は広いですが、王領側の道はヴァルハーレン領に比べて路面の状態がとても悪いです。エディの作ったロードローラーを使うだけでも走りやすくなるでしょう』
「確かに、王領のイーリス街道はガタガタしているな。エディのアレで整備した道は格段に違う。その方向で進めることにしよう」
どうやら方針が決まったようだな。
『あとは王都に集まることだけど。先日トニトルス公爵が来てね。ちょうど祝福の儀の話題がでて、トニトルス公爵も人材確保と、ある程度準備が整ったので、王家で勉強中の花嫁を迎えに行くと言っていたから王都に来るよ』
「そうか、それなら、ハリーが来れば会議は始められそうだが……」
そういったおじい様はおばあ様を見る。ローダウェイクが手薄になるのを心配しているのだろう。
『母様はどう判断しますか?』
「そうね、城の守りは騎士団長のフォルティスに任せれば安心だけど……念のためソフィアはロティを連れてハリーと一緒に来なさい」
『ロティまで?』
「城は奪い返せばいいけど、命はどうにもならない。あたしはそれを母様が暗殺された時に分かっていたはずなのに、エディの時に同じ過ちをしてしまったわ。もう二度と間違えたくないのよ」
『フィアはどうかな?』
『もちろん、お義母様の言う通りにしますわ。エディにも会いたいし。会議の結果次第でまたマーリシャス共和国へ向かうのでしょう? そんなの寂しいわ』
「母様……」
マーリシャス共和国だけではなく、ライナー男爵領のこともあるから、そうなる可能性もあるのか。
「そうなる可能性って高いのですか?」
「『間違いないだろうな』」
そうなるらしい。
「父様、一つお願いがあるのですが?」
『なんだい?』
「王都へ来る際にレギンさん、リュングとロヴンの三人も連れてきてもらえないでしょうか? もちろん、行先が元マーリシャス共和国になるので、三人の意見を尊重してになりますけど」
『なるほど、確かに三人がいると復興が捗るね。聞いてみるよ』
「ありがとうございます」
『それでは、王都へ向かう準備をするから、王都で会おうね』
「分かりました」
通信を切ろうとしたところで、父様が話す。
『エディ、もう一つ大切な話があるんだった』
「大切な話ですか?」
『婚約者のノワール嬢とエリー嬢が心配して、何回か訪ねてきているから、王都でお礼をするんだよ? 心配しているのは二人だけじゃなくて、ロゼ嬢やフラム嬢も同じだろう。ロゼ嬢は船で伝令が行くのなら付いて来るだろうし、フラム嬢は予知してくる可能性が高いから、四人のフォローも忘れちゃ駄目だよ?』
「……分かりました」
最後に、ハリー神から、ありがたい訓示を賜ったのだった。
――――――――――
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