第377話 三英星

 そういえば、以前要塞でも悪魔と呼ばれたけど、イグルス帝国では名前を呼ぶ度に一般的に使う言葉なんだろうか? 国内で悪魔という単語を聞いたことないんだよね。


「さて、帝国兵の皆さん。有益な情報を提供してくれる人は、重りを軽減してあげるので手を挙げてね!」


 誰も手を挙げないな。


『エディよ、重りを付けたままでは、手を挙げられないのではないか?』


「それもそうだね」


 兵士の左手の重りを消していくが、やはり誰も手を挙げる気配はない。


 面倒だけど、今後のためにもアレの実験しておくか。


 まず身なり的に下っ端そうな兵士を海に落とすと、二十人ぐらいが残った。


 お互いの顔が見えるように円形に座らせて重りプラス蔓で動けないように固定し、ベニードだけ少し離して兵士たちが見えるように固定する。


「何をする!?」


 ベニードが叫ぶが、気にしないで空間収納庫からウルスを出す。


「……」


 寝てるじゃん! 高級タオルを布団代わりにして、完全に寝ていたのだ。よく見るとタオルを折りたたみ、枕まで作ってるし!


「ウルス?」


「……!? はっ! エドワードはん!」


 また、言葉遣いが乱れてるな。突然起き上がり、喋り出したぬいぐるみに、兵士たちは驚いている。


「最近静かだと思ってたら寝ていたんだね?」


「……少しだけ休憩しとったんどす」


「……まあ、いいか。ウルスに少しお願いがあるんだ。帝国兵が変なことしないか見張っていてもらえるかな?」


「色々スルーされた! 見張るといっても、この人たち動けそうもないですよ? 私の眠りを邪魔してまで呼び出す必要ありました?」


「休憩はどこいったの?」


「……見張りは私に任せておいてください!」


 誤魔化した!? まあいいけどね。とりあえず、ステータスの確認しよう。何か使えそうな毒ってあったかな?


【毒】下痢、腹痛、めまい、頭痛、全身痛、嘔吐、発熱、口渇、乾燥、色素斑、錯乱、睡眠、幻覚、麻痺、昏睡、脱毛、発光、出血毒、痙攣、不整脈、頻脈、持続勃起症、内臓細胞破壊、酸毒、カプサイシン


 半分くらいは甲板が汚れそうで使えないな。見た目が分かりやすい発光を試してみよう。


 一人の兵士を円の中央に移動させると毒糸を使うのだが、何かの能力に見えるように、手をかざしつつ毒糸で流し込むと兵士は淡く白い光を放つ。


「何をした!?」


 ベニードが叫び、兵士たちは騒いでいるが、とりあえず無視しよう。


 人体では初めてなのだが、魚の時と同じように光っている。見た感じ身体には良くなさそうだけど、光る以外の影響はない。


 毒の量を増やしてみるが、光が増すことや苦しがることもないようだ。魚と同じなら、数時間待てば光は収まるだろう。


 次に乾燥の毒を流し込む。


 魚で実験した時と同じように、水分が音を立てながら蒸発して、生きたミイラが出来上がる。手足の重りは抜け落ち、固定してあった蔓からも抜け落ち甲板に倒れた。


 魚は水中でそのまま泳いでいたが、人間は動けなくなるようだ。体中の水分がなくなれば当然か……。


 これって、もしかして……。


 ミイラとなった男に、もう一度重しをつけて海に落とす。残った兵士を見回し、やや小太りの男を蔓で中央にだす。


「やめてくれ!」


 小太りの男もミイラにされると思ったのか必死で抵抗するが、重りと蔓で全く動けない。


 今度は乾燥の毒を少しだけ流してみると、小太りの男は少しだけ痩せた……。


 マジか!? これは女性に見つかったら駄目なやつだ。あまり表立って使わないようにしよう。


 少し痩せた小太りの男に、今度は脱毛の毒を流す。


 男の髪の毛は海風で飛ばされ、ツルツルの頭に……眉毛まで無くなったのでちょっと怖いな。


 今度は空間収納庫から液体の入った瓶を取り出す。これは、脱毛の毒を浄化したものだ。


 これも取り扱い注意なのだが、誰も見ていない今がチャンスとツルツルの頭にかけてみる。


 ……生えない? 男の頭をよく見てみると、少しだけ生えていた。もう一度かけても変化がないので、一気に生えるわけではないようで、この辺りは美白液と同じでクールタイムが必要なのだろうな。


 その後、様々な毒を試した結果、錯乱と幻覚の毒に自白剤と似たような効果があり、今回の侵攻はイグルス帝国の三英星の一人が関わっているようだ。


 名前をディミトリー・ミスクリアといい、三英星になって間もない人物らしいが、身なりがいいとはいえ、三英星に直接会ったこともないような兵士では詳しいことは分からなかった。


 そして、残っているのは、血の気の引いたベニードだけだ。

 

「ベニードはミスなんとかに会ったことあるの?」


「三英星ミスクリア様だ!」


 何それ!? イグルス帝国では毎回三英星って付けるの!? それともミスクリアだけが呼ばせているのだろうか? まあ、どっちでもいいけど。


 普通に会話してもしょうがないので、幻覚の毒を多めに流し込む。錯乱より幻覚の方が、まともに会話できる可能性が高いように感じたからで、毒の量が少ないと、僕の大きさと近い人物に見えたりするみたいだ。


「ベニード、首尾はどうだ?」


「三英星ミスクリア様! どうしてこのような所に!?」


 どうやら、僕がミスクリアに見えるようだ。直前にミスクリアの事を話したからかな? 幻覚は相手に疑念が生まれると、すぐ別のものに置き換わる特性もあるようで、当然ミスクリアを知らないので、すぐにバレそうだ。それにしても、ベニードは直属の部下だったのか、できるだけ情報が欲しいな。


「任務は失敗したようだな?」


「申し訳ございません! ヴァルハーレン一族相手では、強化兵も役に立ちませんでした!」


 強化兵? 異形は強化兵という名前なのか。


「私の能力が劣るとでも?」


「そ、そのようことはございません! 三英星ミスクリア様の能力『チョウゴウ』は完璧でした。完全に私の作戦ミスでございます! 次はしっかりやりますので、もう一度チャンスを!」


 ベニードがガタガタ震えだしたことから、かなり恐れられているのが分かる。それよりも『チョウゴウ』の能力……『調合』か! 魔物の特性を掛け合わせる能力? 普通にある能力なのか分からないけど、普通に考えると薬などを調合する能力だと思うが、『糸』の能力のように解釈を変えることによって、能力の幅を広げたのだろうか?


「エドワード、黙っていたら話が進まないよ?」


「なんだ、この奇妙な魔物は! ……私はいったい何を? ――がっ!」


 ベニードの幻覚が解けると同時に、苦しみだした。薬の副作用が激しいようだな。それにしても……。


「ウルス……幻覚が解けちゃったじゃん!」


「私のせい?」


「どう見てもそうじゃない? さっきの実験見てたでしょ?」


「……」


「さては、寝てたな?」


「エドワードが外に出さないので、すぐに眠る癖がついたんです!」


「えっ、そうなの? それならごめんね」


「分かればいいんです!」


 少し疑わしいけど、忘れていた僕も悪いのでしょうがないかな。


「それよりエドワード。こいつ死んでるみたい」


「えっ!?」


 ベニードを見ると、すでに息をしてなかった。


「毒の量が多すぎると駄目みたいだね。もう少し情報を聞きたかったけど、仕方ないか」

 

 三英星の情報を入手できただけでも、良い成果だったと思うことにしたのだった。


 ――――――――――

 無事出版できました!

 本日早めの更新になります。近況ノートにお知らせを書きました。

 https://kakuyomu.jp/users/ru-an/news/16818093083897763426

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