第376話 反撃?

 二隻の船に目を向けると、甲板の上を走り回る兵士たちのほかに、怒鳴り散らしている偉そうな男が見えた。


「あれは?」


「首相のベニードだと思われます」


 お爺さんが教えてくれた。サイモンさんという名前らしい。


「ベニードって僕が会う予定の人物なのにどうして、船で逃げてるの?」


 とりあえず、三人に現在の状況を、詳しく聞くことにした。


 ◆


「なるほど、おじい様たちの状況は想像になるけど、ベニードが館の方から来たのだったら、おじい様たちから逃げてきたのだろうね。異形をぶつけたけど、おじい様の雷の魔術にビビったんじゃないかな?」


「逃げてきたところで、わたくしたちを見つけたということですね」


「そうなるね。首相が帝国の関係者だったというのは、おじい様の予想通りだけど、まさか逃げ出すとは思ってなかったよ。そうか、異形を失敗作と言っていたことからすると、僕たちにぶつけた二体は、おじい様たちにぶつけたのより弱いのかもしれないな」


「あれで、弱いのでございますか?」


「僕が以前見たやつは、ナイフを刺すまでは、わりと普通だったから。ナイフを突き刺す前段階に問題があったのかもね」


 ブラウの性格が元々アレなのか、何かの薬物の影響なのかは分からないが、最後まで無口ではなかった。おじい様の方に何体でたのか分からないが、無限に作られると対処できない貴族たちは大きな被害を受けることになりそうだ。


 気分的には船ごと魚の餌にしてやりたいが、その前に情報を仕入れられないか試してみよう。情報が本当か噓かはおじい様たちに任せればいいはずだからね。


「よし、それじゃあ。行ってくるよ!」


「私も参ります」


「悪いけど、糸の上を行くからアスィミはお留守番していて。それに、かなり血を吐いたみたいだから、まだ無理をしちゃ駄目だよ。その人たちを守っていてもらえるかな?」


「一緒に行きますので、お願いします」


 アスィミにしては粘るな……。

 

「敵に見つからないで近づくため、上空から行くけど大丈夫?」


 アスィミは高い所が苦手だけど、どうだろう? やはり、かなり悩んでいるな。


「……エドワード様の言う通りにいたします」


 やはり、高い所は苦手のようだ。


「じゃあ、彼らのことは頼んだよ」


「エドワード様! 進言がございます!」


 元……じゃなくて、クレストが片膝をついて話しかけてきた。進言って、僕の部下じゃないでしょうが。


「えっと、何かな?」


「はっ! 船を海の藻屑に変えるのはもったいないと思いまして! 特にベニードの乗っている船は帝国の最新型なので、破壊せず残された方がエドワード様のためになるかと」


「そうなんだね、教えてくれてありがとう」


 そう言うと、空中に糸を階段のように張って、空へ向けて登っていく。


 アスィミの様子もおかしいが、クレストもおかしなことを言うな。仮に船を残しても僕の物になるわけ……!? マーリシャス共和国の船じゃないから、そうなっちゃうの!?


 これは嬉しい話だな。改めてベニードの乗っている船を見てみる。大きさはファンティーヌで乗ったアンさんの船と同じぐらいだけど、船尾楼が大きく装飾も派手だが、ガレオン船まではいかない感じだ。キャラック船とガレオン船の中間といった感じだろうか。持って帰ってレギンさんに改造してもらおう。

 

 ◆


 船の上空に到着して下を眺めると、動かない船に右往左往している兵士たちの姿が見える。どうやら慌てて出航したから、船乗りの数も足りてないようだな。これだと、海に出たとしても、帝国には帰れなかったかもね。


 まずは兵士を減らそう。船をもらうからには、血や肉片で汚したくない。 とりあえず、走り回っている兵士の足を、タイミング良く炭化タングステンの糸で拘束してみた。


 急に足を拘束された兵士は、勢いのまま海に転げ落ちた。鎧プラス炭化タングステンの重みで、二度と浮き上がることはないだろう。


 今度は、落ちた兵士の様子を見ようと、船から身を乗り出している兵士の首に、直径十センチの炭化タングステン製のマフラーをプレゼントする。


 兵士は突然加わった重みに、抗う術もなく、次々と頭から落ちていくが、運よく落ちなかった兵士が出てしまった。


 当然キツめに拘束したので、息ができず甲板でもがき苦しんでいる。異変に気づいた仲間が助けに来るが、直径十センチの炭化タングステンになす術もないまま、兵士は終わりを迎える。


 なるほど、この方法なら甲板を血だらけにしないで、兵士の動きを止められるな。そういえば、糸での拘束を父様と検証したのだが、早く移動されると拘束できないことが発覚した。


 今のように上空からしっかり相手の動きを見て拘束することは可能だが、戦闘中でお互い動いてというのは難しく、早く動く父様を拘束することはできなかった。ジャイアントスパイダーの時は相手が大きかったのと、運が良かっただけのようだ。


 もがき苦しんだ兵士の登場に、甲板では敵襲と叫び、警戒体制に変わる。しかし、この世界の人たちは敵襲の号令で空を見上げる事などしない。もちろん弓隊などがいるなら上空も警戒するだろうが、この状況では船の周りを警戒するだけである。


 普通に拘束してもよいのだが、できるだけ情報がほしいので、恐怖心を煽り自白させなければならない。


 直径五センチ、長さ七十センチの炭化タングステンの糸を兵士たちの手足に巻き付ける。


 一本、ニ十キロオーバーの重りが手足に四本現れたため、兵士たちは四つん這いに。鎧の重さもあるので、ほとんどの兵士は動けなくなる。それでも動けそうな兵士には、追加で巻き付けていくと、全ての兵士は動けなくなった。


 最後まで抵抗していたベニードの横に降りる。


「誰だ!?」


「お前たちのターゲットの某人物だよ」


 ベニードはかなり抵抗したので、首にも巻き付けてある。こちらを見るのもギリギリのようだ。


「これを外せ!」


「命を狙われているのに、そう言われて外すと思う?」


「……」


「今回の作戦の首謀者について教えてもらえるかな?」


「教えると思うか?」


「だよね」


 ベニードが乗っていない船の兵士を蔓で持ち上げる。UFOキャッチャーみたいだな。それにしても、この重さでも簡単に持ち上げられる蔓って凄いな。


 兵士たちが叫び声を上げる中、一人ずつ海に落としていく。


「何をしている!?」


 ベニードには落とされる兵士たちの叫び声と、落とした瞬間の水の音しか聞こえない。


「とりあえず、向こうの船の兵士を海に落としてるよ」


「悪魔め!」


「マーリシャス共和国の人にとっては、お前たちがそう見えただろうね」


「……」


 ベニードは顔を真っ赤にして、歯軋りを鳴らすのだった。


 ――――――――

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