第375話 レベルアップ
苦しい……目を開けると真っ暗で何も見えない。どうやら、アスィミに抱きしめられているようだ。
「アスィミ、ちょっと苦しいのだけど……大丈夫!?」
頭を反らすと、アスィミの口から血が流れていることに気づく。アスィミはこの時折来る衝撃から僕を守っているのか!
「エ、エドワードさま……異形です……逃げてください」
異形がなぜこんな所に!? 館で黒い玉を破壊したあと何があったんだ!? 思考が定まらないが、アスィミの僕を抱きしめる力が弱まった。まずはアスィミを助けないと!
「スパイダーウェブ!」
アスィミをアラクネーの糸で守る。どうしてこの状況になったのか分からないが、二体の異形がアスィミを踏みつけていたようだ……。
続いて、アラクネーの糸で縛ると、二体は拘束され身動きがとれなくなる。さらに糸で包み繭のようにした。
「スノー?」
「ピッ!」
フードの中にいたのか。というかヴァイスも頭の上に乗っているんだね。
「スノー手伝って」
「ピー、ピッ!」
どんな怪我をしているのか分からないので、ヒール除菌プラスEXを発動すると、眩い光がアスィミを包み込み癒していく。
「エドワード様……」
「アスィミ、痛いところはない?」
アスィミは自分の体を確認して、何かを思い出したようにあたりを見まわすと。
「エドワード様のおかげで痛みはありません、ありがとうございました。申し訳ありませんが、私を助けようとした、元貴族もお願いできますでしょうか?」
「アスィミを助けようと? もちろんだよ」
アスィミに連れられて、血まみれの男を介抱している、お爺さんの近くに行くと。
「アスィミ様、お体は大丈夫なのですか?」
「エドワード様に回復していただいたので大丈夫です」
「アスィミを助けようとしてくれたんだってね」
アスィミほどは酷くないようなので、手をかざし、ヒール除菌プラスで怪我を治す。
「クレスト様!」
「……はっ! アスィミさんは!? あれっ? 無事!?」
絶賛混乱中のようだ。それを見かねたお爺さんが教えている。僕もアスィミから黒い玉の事などを聞きながら辺りを見回す。そういえば、ここはどこなんだろう。船がたくさんあるから、港ということは分かるのだけど、おじい様やおばあ様に会いたいな。
「海……エドワード様が目を覚まされた上に、私の回復を!? その瞬間を見ることができなかった!」
倒れて気絶していたから当然だと思う。元貴族らしいが、愉快な人のようだ。
「さて、まずはアレをどうするかだね」
アラクネーの糸で繭の中に拘束して閉じ込めた、異形の前に行く。
二体は中で脱出しようともがいているが、アラクネーの糸には敵わないようだ。
「ところで、敵はこの二体だけ?」
「え!? 兵士たちがいないです!」
「さっきまでいたのに! サイモンは知っているかい?」
「申し訳ございません。クレスト様に気を取られて失念しておりました。誰か見た者はおらぬか?」
数人の兵士がやってきて報告する。どうやら退却したようだな。
「どこに行ったんだろ?」
『エディよ、アレではないのか?』
ヴァイスが足指した方を見ると、二隻の船がちょうど動き出した。イグルス帝国に撤退するつもりなのだろうか?
「国を荒らして逃げるのか……」
元貴族……じゃなくて、クレストが悔しそうな顔をしている。
辺りを見回すと悔しがるのも分かるな。破壊された家が多く、瓦礫も散乱している状態だ。おじい様と楽しみにしていた風景は、こんなにも寂しい景色だったのか……。
「大切な家族に怪我をさせて、簡単に逃げられると思ったら大間違いだよ」
アラクネーの糸を飛ばして、二隻の船をこれ以上進まないように固定する。一本でも十分のようだが、念のためたくさんの糸で固定しておく。
ニルヴァ王国のダンジョンで、ペタノサウルスに壁ごと破壊された経験から、空間に固定した。ヴァイスの案なんだけどね。
急に進まなくなった船の甲板で、混乱している兵士たちの姿がここからも見えるが、まずは異形を片付けよう。
繭のように拘束された異形は、完全に封じ込めた状態だ。そういえば昔、ジャイアントスパイダーにされたのを思い出したよ。あの時『糸』の能力を使えなかったら、死んでいただろうな。
もしかしたら、おじい様たちも、異形と戦っているのかもしれないな。騎士団のみんなも戦えるようにしておいて良かった。
「エドワード様?」
「ごめん、アスィミ。ちょっと考え事してたよ。さっさとコレを片付けよう」
さて、どうやって倒そうか? バラバラにして酸毒をかければ倒せると思うが、バラバラにするのが面倒だ。中が見えない繭の状態で倒せば、精神的にも楽なはず。
毒糸を突き刺して、酸毒を強めにして流し込む。
肉を溶かす嫌な音が響き渡った。
「これはいったい?」
お爺さんが話しかけてきた。
「あの異形は頭部を潰しても再生してきます。完全に倒すには、再生が止まるまで粉々に叩き潰すしかないので、この繭の中で同じようなことをする実験をしているのです」
さすがに初対面の人に酸毒のことを言うのはね。それにしても、アラクネーの糸は酸毒に耐えられるのだな。今度どのくらいの強さまで耐えられるのか、実験してみる必要がありそうだ。
音が消えたので繭を触ってみると、中がなくなっているのが何となく分かったので、アラクネーの糸を取り込むと、何も残ってなかった。
「異形がいなくなった!」
元貴……じゃなくて、クレストたちが騒いでいる。それにしても酸毒最強じゃない? でも、酸毒で溶かせないアラクネーの糸の方が強いのか。
「今の方法がスマートだと思うけどどうかな?」
「破片が散らばらないのは良いと思います。エドワード様、本当にお身体は大丈夫ですか?」
「身体? そういえば、心配かけたね。特に問題なさそうだよ。レベルアップで身体が破裂するって、聞いただけでも恐ろしい話だけど、本当にもうないんだよね?」
「真実は分かりませぬが、文献の個数が正しければ、全て使用したことになります」
お爺さんが教えてくれる。アスィミの話によれば、かなり歴史に詳しいという話なので、今度話を聞いてみたいな。
「まあ、みんなに気をつけさせるとして、僕が破壊すれば大丈夫か」
「エドワード様! 私たちはエドワード様をお守りするためにいるのです。今後あのようなことは止めてください。エドワード様に何かあったじゃすまないのです!」
アスィミが僕を抱きしめて訴える。こんな真剣なアスィミを見るのは初めてかも。
「分かったよ、次からは気をつけるね」
破壊すると駄目だと分かったので、次からはスパイダーウェブにくっつければ問題ないだろう。アスィミの雰囲気がいつもと違うので絡みづらいな。
とりあえず、レベルがどのくらい上がったのか確認してみることにしよう。
【名前】エドワード・ヴァルハーレン
【種族】人間【性別】男【年齢】8歳
【LV】5
【HP】1400
【MP】2745
【ATK】1340
【DEF】1340
【INT】1720
【AGL】1450
【能力】糸(Lv
【加護】モイライの加護▼、ミネルヴァの加護、フェンリルの加護
【従魔】ヴァイス、ウルス、スノーホワイト、カザハナ
六つもレベルが上がっている。あの玉二つでシュトゥルムヴェヒター以上ということか、確かに普通の人だと死んでもおかしくないかも。問題はアスィミに投げた方がダミーだった場合、あと一つ残っていることになる。もし、複製できた場合、二つ壊したらアウトの可能性があるので、十分気をつけることにしよう。
レベルより嬉しいのが、糸のレベルだ。条件は分からないが、レベル50に乗ったことが、影響しているのかもしれないな。
戦闘には影響ないので、検証はあとにするとして、イグルス帝国の皆さんにはそろそろ消えてもらおう。僕を狙うだけならまだしも、大切な家族を傷つけた以上、一人も逃がすつもりはないからね。
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