第374話 Side アスィミ ――目覚め――

「何なんですか!? 次から次へと敵が現れて、キリがないです!」


 敵の中に変なのが混ざっていて、先に進めません! 痛みを感じていないのか、腕が折れて曲がり、剣が刺さっても無表情で向かって来るので、かなり不気味ですね。

 

「アスィミ様、エドワード様を背負われて戦うのに、無理があるのでは? もしよろしければ、我々でエドワード様をお運びしましょう」


「そうです。先程も背中の海神様を庇って負傷してますし、そうした方が良いです!」


 エドワード様を背負ったままでは、スピードがでないことは分かっています! でも、会ったばかりの人に、大切なエドワード様を任せることなんてできません!


「エドワード様は私が守ります」


「そうですか……お前たち、海神様をしっかりお守りするのだ!」


 元貴族が指示を出すと、兵士たちが私の前に出て盾になります。この人たちでは、あの不気味なやつを倒し切れないので、どんどん倒されていきます。いったいどうしたら……。


 考えていると、突然辺りが雲で覆われ、轟音が地面を揺らし、無数の稲妻が館の方に落ちました。


「一体何事だ!」


 敵の指揮官が叫び、敵味方関係なく、雷の方を見ますが、収まるとすぐに戦闘が再開されます。

 

「アスィミ様、今のは?」


「初めて見ましたが、多分、アルバン様の魔術だと思います。それより、あなたたちではアレに勝てません、兵を下げてください!」


「アレが万雷の破壊王子、アルバン様のお力……」


「多分、エドワード様が帰ってこないので怒っているのです! 早く戻らないと、この国がなくなっちゃいますよ!?」


「これだけの兵力が帝国から来ているのなら、既にマーリシャス共和国は終わっています。我々にできることは、海神様を無事王国にお返しすることです!」


「クレスト様! たくさんの敵兵が館側より来ます!」


「何! これ以上増えては、対応できないぞ!」


「クレスト様にアスィミ様。港の方に行くのはどうでしょうか? ここは狭いので、アスィミ様も力を振るいづらいかと」


「アスィミさん、どうします?」


 確かにエドワード様を背負った状態で戦うには、この路地は狭すぎます。


「逃げましょう! これ以上増えるのはまずいです」


 ◆


 敵を倒しつつ港まで辿り着きました。


「なんだ、この船の数は……」


「クレスト様、ほとんどイグルス帝国の船でございますな……」


 よく分からないですが、あまり良くない状況のようです。



 

「この戦闘は一体何事だ!」


 筋肉質の男が兵士を引き連れてやって来ました。指揮官が報告しています。


「あの男は?」


「私も初めて見る男ですが、サイモンは?」


「わたくしも存じ上げませんが、おそらく、あれがベニードではないでしょうか」


「なるほど、どおりで聞いたことない名前だ。帝国人がマーリシャス共和国の首相をやっていたとは……」


「片付けようとしていたウェイブ家がこんな所にいたとは! ……その獣人はなんだ!?」


 ベニードが私を見て叫びます。なるほど、帝国人というだけあって、相当獣人が嫌いなようですね。


「何!? 背中の子供がターゲットだと! 撤退しようと思っていたがツキが回ってきたか。おい、すぐ失敗作を連れてこい!」


 ベニードが叫ぶと、先程戦っていた不気味なやつと似たような兵士を二人連れてきました。失敗作というのは、どういうことなのでしょうか?


「これだけしか残っていないのか!? まあいい」


「「「――!」」」


 ベニードは小箱を取り出し、中に入っていたナイフを兵士の首に突き立て、私たちの方へ蹴とばしたのです!


「お前たち、それから離れろ」


 兵士たちが離れると、蹴とばされた兵士の筋肉が盛り上がり、巨大化により皮膚は割れ、二メートル越えの異形に変化したのです。


「エドワード様が王都で倒したと言っていたやつと同じやつ?」


 そう呟いた瞬間、二体が迫ってきます。


「化け物を倒すんだ!」


 元貴族が叫ぶと、兵士たちが一斉に襲い掛かります。


 「「「――!」」」


 異形へと変貌を遂げた存在に対して、兵士たちの剣はもはや歯が立たたず、かろうじて敵の皮膚を傷つけただけに終わる。それに対し、異形からの反撃は容赦なく、兵士たちを容易く吹き飛ばしたのです。


「なんて力だ……」


「クレスト様、皮膚もかなり硬いようです」


「二人は邪魔なので、少し離れてください」


 双剣を構えて迎え撃ちます。


「アスィミさん、アレと戦うのは危険です。逃げてください!」


「クレスト様、こちらへ!」


 察したお爺さんが元貴族を連れて離れると、異形二体が私を次のターゲットと認識します。


 二体がパンチを出してくるので、間をすり抜けて躱しながら足を狙う。


 さすがはレギンさんの作った武器、二体の足を簡単に切り裂きました。これなら勝てるかもしれない。


 そう思ったのも束の間、切り裂いた傷口がゆっくり塞がっていったのです。


「単発でなく、傷が塞がる前に連続でダメージを与え続けなくてはならないようですね」


 私は深呼吸すると、スピードを上げて二体の攻撃を避けながら、攻撃し続けます。


 足の付け根を切ったところ、一体がガクッと倒れ、その瞬間を狙い、片腕を切り落とすことに成功。


 そこへもう一体のパンチが飛んできたので、ギリギリで躱すと、倒れた異形を殴り飛ばしました。一メートルほど飛ばされた異形は、顔が潰れて動かなくなったのです。


「顔というか頭が弱点!?」


 そうと分かれば、残った一体の頭を狙うため、まずは足を……。どうにか、膝をつかせることに成功しました。


 異形は暴れパンチが飛んできますが、難なく躱し首を狙います。何回か切りつけて、ついに頭を切り離すことに成功した瞬間。


「アスィミさん! 後ろ!」


 元貴族の声がしたので後ろをみると、先程動かなくたった一体が、私を攻撃しようとしていたのです。


 まずい! 背中にはエドワード様が!


 逃げるのに間に合わないと思った私は、体をひねり、体で攻撃を受けました。


「ぐっ!」


 三メートルほど飛ばされますが、背中から落ちないように注意したおかげで、なんとか着地に成功。


「ゴホッ、ゴホッ!」


 吐血し、膝をついてしまいました。


 頑丈さが売りの私が、一撃で機動力を奪われてしまうとは、なんて威力。さらに、攻撃を繰り出した一体が追いかけてきます。


 逃げるのを諦め、エドワード様を固定していた紐を解き、抱きしめ、蹲ったところに異形の蹴りが私の背中に。


「――っ!」


 呼吸ができなくなったところへ、もう一撃! さらに一撃と連続で蹴りがきます。


「アスィミさん、逃げて!」


 元貴族が私を助けようと、突っ込んできますが、剣ごと吹き飛ばされてしまいました。


 このままでは、私のせいでエドワード様が……ヴァイス様はこんな時でも頭の上にいるのですね……。


「ヴァイス様、申し訳ございません。もう体が……」


『もうしばらく耐えるのだ』


「耐えるって何を……っ!」


 異形の蹴りが再開し、内蔵が傷ついたのか、急に呼吸が出来なくなり、意識が朦朧としてきます。


「アスィミ、ちょっと苦しいのだけど……大丈夫!?」


 エドワード様が目を覚ましたのです!


「エ、エドワードさま……異形です……逃げてください」


 そう言った私の目から、枯れたはずの涙が……。きっと、体中が痛いせいでしょう。


 ――――――――――

 作者近況ノートに書影帯無し帯付及びカバーイメージを掲載しています。

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