第373話 Sideアルバン・ヴァルハーレン(下)
一斉に迫ってくる兵士たち。最後に戦争したのはいつだった? エディが見つかる直前に、イグルス帝国と戦ったのが最後だったな。あの時に比べれば大したことのない人数だ。
「アルバン」
「そう、急かすなクロエ」
儂は剣に魔力を流すと。
「雷光一閃」
一瞬の静寂の後、雷光が敵陣を貫く。稲妻が轟音と共に襲いかかり、兵士たちを次々と倒していく。
なるほど、エディが言っていた通り、稲妻は振り上げた剣にも反応して、向かっているように見える。
それにしても、以前より強くなった儂の勇姿をエディに見せたかった。
「次はあたしの番ね!」
クロエは待ちきれないと言わんばかりに、兵士に向かって駆けていくと、魔力を込めた愛用のハルバード振り下ろす。
「何っ!?」
今までは振り下ろしたハルバードを中心に、直径三メートルぐらい地面が陥没し、その範囲の生き物が無残な形になっていた。しかし、今放った攻撃は直径五メートルぐらいの陥没が三つもできた!
「強くなったのは、アルバンだけじゃないわよ」
儂より強くなっているな……本気でやったら、クロエには敵わないだろう。
「あたしの方がエディと行動をともにしていた時間が多いだけで、アルバンもすぐに追いつくわよ」
無茶を言うな。
儂とクロエの攻撃で、敵の動きが止まり、誰かが口にする。
「
誰だ、そんな昔の恥ずかしい二つ名を持ち出す奴は!? 儂もハリーのように、迅雷とか呼ばれたかったぞ。
「あら、あたしは結構気に入っているわよ?」
クロエよ、儂の心の中と会話しないでほしいかな……いや、本当は嬉しいのだが。
「ええぃ! 何をしている! そこにいるのは、たった二人だぞ!」
「奥義、
ベニードが叫んだ瞬間、たくさんの敵の首が血飛沫を上げて舞い上がる。
「フィレール侯爵騎士団! 敵を殲滅せよ!」
――はっ!
アキラの一撃と号令により、エディの騎士団が動きだす。アキラの技は初めて見たが凄いな……斬撃をあの距離まで飛ばすのか。
騎士団の動きもクロエの指導により、かなり良くなってきた。今後考えられる帝国との戦争を考えれば、騎士団に経験を積ませた方が良さそうだな。
儂とクロエの攻撃で、かなり逃げ腰になっているとはいえ、圧倒的な兵力差に動じることなく敵を屠っていく。元々冒険者をやっていただけあって、四人の連携がとても良く、各リーダーも仲間の動きをよく見ている。アザリエがしっかり全体の動きを見ているので、アキラは自由に動いているのか。
確かに、アキラは自由にやらせた方がよいタイプだな。
「儂らの出番はもう必要なさそうだな?」
「……」
「どうした、クロエ?」
「何か嫌な感じがするわ」
「なるほど、まだ何か隠しているということか」
ベニードのやつ、あんな後方まで下がっていったい何を……。
「マーリシャス兵を出せ!」
ベニードが叫ぶとさらに奥の建物が弾け飛び粉塵で遠くが見えなくなる。
「帝国はいったい何を……」
「クロエ?」
粉塵が風で流れ、姿を現したのは、体長三メートルほどの異形が二十体。
「あれはエディが王都で戦った、元ブラウと同じやつか?」
「みたいね……あんな物を大量に作りだす帝国は、ヴァルハーレン家として放置できなくなったわ」
儂とクロエが力を合わせれば、倒すことは可能だが、さすがに二十体の相手は厳しいか?
「アンリ! 憎っくきヴァーヘイレム王国相手に、ヴァロア家の力を見せる時がきたぞ!」
――ガァァァァー!
アンリと呼ばれた異形が雄叫びを上げると、他の異形も一斉に雄叫びをあげる。
「なるほど、このマーリシャス共和国の惨状はアレのせいか……ヴァロア家といえば、残された貴族家の一つだな。ブラウと同じで利用されているのか」
「オウコク ノ ヤツラヲ タタキツブセ」
アンリが指示をだすと、異形が向かってくる。エディが言っていた通り、動きは早くないようだ。
「クロエ、付いてこい」
「分かったわ」
異形が近づくのと同時に、敵兵士が退いて行く。といっても、もう百名も残ってなさそうだが。巻き添えを恐れてだろうな。
「アキラ、騎士団を引かせろ。儂とクロエで対応する」
「アルバン様、我々も戦えます」
「アレを完全に倒すのは、骨が折れるぞ?」
「こうなる可能性を、予め予測していたエドワード様より、策を頂いています」
「エディがこの状態を予想していたと?」
「はい、王都での戦いのあと、このままでは対抗できる人間の負担が大きいと、ずっと試行錯誤されていたようです。騎士団は四人一組、私は一人で対応可能です」
「ならば、騎士団にも手伝ってもらうが、通用しなかった場合は、潔く退くのを忘れるなよ?」
「心得ております。それでは、騎士団が先陣を務めます」
そう言って、アキラが一番近くに来た異形へ向かって走ると、騎士団も四人一組に分かれて異形に向かう。
「クロエはエディの策を聞いているのか?」
「あたしも今、初めて聞いたわ」
異形に向かったアキラは斬撃を飛ばし、異形の目を切り裂く。力はさっき放った奥義に及ばないが、溜めの動作をしなくても、放つことが可能なようだ。
突然視界を奪われた異形の動きが止まる。その隙を狙い、アキラが溜めを作ると、刀身が鈍く赤黒い光を放つ。
「
アキラが技を放つと、赤黒い光が異形を切り刻んでいった。少し禍々しい技だな。
「なんだ、あれは?」
「あたしも初めて見る技だね」
異形は一瞬で切り刻まれ、バラバラになるが、すぐに再生しようと動いている。やはり無理か。
「ツムギ!」
アキラが娘の名を呼ぶと、突然バラバラになった異形の前に現れた! 全く気配を感じなかったぞ!?
「クロエは分かったか?」
「あたしにも分からなかったわ。ツムギの能力なのかしら?」
「分からんが、六歳にして既に能力を使いこなしているように見えるな……」
ツムギは収納リングから、直径十センチぐらいの半透明な玉を取り出すと、バラバラになった異形へ次々に投げた。
半透明な玉は異形にぶつかると、割れて中から液体が出る。液体は激しい音と煙を出しながら、異形を溶かし始める。
「そう言えば、エディは異形にワンダリングデススパイダーの酸毒をかけたと言っていたが、あの液体はもしかして……」
「入っているのでしょうね。外側はスライムかしら? あたしも欲しいわ」
今度は、四人組で対応している騎士団を見ると、各隊のリーダーが弓で矢を射る姿が見えた。
矢が命中した瞬間、足止めをしている隊員が異形から離れると、命中した所から炎が上がり爆発した。
「……しっかり対応できているようだし、まぁ、いいか。儂らも行くぞ」
「そうね」
あの様子なら、騎士団で十体は行けるだろうから、儂らは残りの十体を相手しよう。
さすがに体長三メートルもある異形がこれだけいると、威圧感があるな。
「クロエ、あれをやるから、少し時間を稼げ」
「そこまで必要かしら? あれは体への負担が大きいわ」
「今後のことも考えると、ヴァルハーレン家の圧倒的な力を見せつける必要があるのだ」
「……しょうがないわね」
クロエが異形の群れに飛び込み、相手しているのを見ながら一呼吸すると。
「天空に轟く雷鳴よ、大地を震わせ、雷神の怒りよ、万物を焼き尽くせ!
かなりの魔力が、体から無くなるのを感じると、上空に黒い雲が現れ、辺りは暗くなる。同時にクロエが離脱すると、轟音が大地を揺るがし、無数の稲妻が異形の群れに襲い掛かる。
稲妻は異形の肉体を容赦なく貫き、その破壊の光は周囲を照らす。万の稲妻が異形を焼き尽くし、その焼けた跡からは炎が噴き出し、痛みを知らぬ異形ですら、その苦痛に悶え苦しんでいるように見えるのだった。
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