第355話 心配
……寝ている僕の体を誰か動かしている?
目を開けるとジョセフィーナ、アザリエ、リリーがいて三人で僕を抱きかかえていた。
「おはよう」
「エドワード様、おはようございます」
「「エディ様、おはようございます」」
「何してるの?」
「エドワード様が起きないので、着替えを先にしておりました」
「ご馳走さまでした」
「えっ!?」
ジョセフィーナとリリーが答えたので、自分の服を見てみると、既に着替えは終わっていた……リリーは何をやってたんだ?
「そんなに寝坊したかな?」
「先触れでトニトルス公爵になられた、バージル殿下がローダウェイクに立ち寄られるようなので、準備するようハリー様に言われたのです。何回か起こしてみましたが反応がありませんでしたので、先に着替えの方をさせていただきました」
「バージル殿下が来るの?」
「はい。おそらく、元ベルティーユ侯爵領へ向かう前の挨拶で訪れたのではないでしょうか」
「そういえば、トニトルス公爵領に変わるんだったね」
「仰る通りです。用意も整いましたので朝食を召し上がってください。エドワード様が最後になります」
家族のみんなは出迎えの準備のため先に食べたらしい。
◆
朝食を食べたあと、みんなが待つ談話室に行く。
「しっかり起きられたようだね」
父様が声をかけてくる。奥の手で起こしてくれれば、すぐに起きられたのではないだろうか。
「遅れて申し訳ありません」
「本当のギリギリになったら僕が起こしに行こうと思っていたから大丈夫だよ。それより、マルグリットやリーリエから聞いたよ。昨日は大変だったみたいだね。心配していたけど、聞いていたよりは少し気持ちが回復したのかな?」
もう少し遅かったら奥の手が発動していたようだ。
「はい、まだスッキリしませんが、昨日よりは大丈夫だと思います」
「エディ、辛かったな! 仲間の死というのは儂でも慣れない。辛かったら休んでいても良いのだぞ!」
そう言って、おじい様は僕を抱きしめたあと、自分の膝の上に置いた。
「父様、トニトルス公爵はエディにも用事があるようなので、休ませるのはそれからにして欲しいのですが」
「エディがショックを受けておるのになんと酷い親だ! バージルの話は儂が代わりに聞いておいてやろう」
「まったく父様は孫にはかなり甘いのですね?」
「当たり前だ。エディはハリーと違って素直で可愛いからな」
「おじい様、心配してくれてありがとうございます。でも、みんなが傍にいるので大丈夫ですから」
「なんと素直な孫だ! 大切なお茶会を放り出して魔物狩りに行った息子とは大違いだ! エディはソフィアに似て良かったぞ」
「……」
父様、すっぽかしたことあるんですね。
「父様、メグ姉から話を聞いたのでしたら、僕と一緒にコラビの孤児院にいた子たちの話は聞きましたか?」
「もちろん聞いているよ。昨日のうちに、王都からモトリーク辺境伯に宛てた手紙を出すよう、指示してあるから大丈夫だよ」
「王都からですか?」
「通信施設から頼んでおいたよ。こういった時に、迅速に対応できるのはいいね」
さすが父様、しっかり使いこなしているな。ほとんど利用することがないので、すっかり忘れていた。
「モトリーク辺境伯は応じてくれるのでしょうか?」
「コラビが無くなったことにより、人口がかなり他領に流れたみたいなので、通常なら難しいところだね。しかし、モトリーク辺境伯はエディが自領にいたのを気づけなかった失態と、コラビを陥落させた失態もある」
「コラビの陥落はそうですが、僕に気が付かなかったのは失態なんですか?」
「もちろん、失態だよ。約七年もの間、自領に特殊な容姿の子がいた事に気が付かなかったのだからね。ヴァルハーレン家としてエディは病気ということになっていたけど、少しでも勘のいい貴族なら、何らかの事情があることは気がつくはずだ。コラビの陥落にも関わるけど、全くコラビを管理できていなかったのではないかと、他の貴族からも追求されていたよ」
「僕に気が付かなかったのが、管理不足に繋がるのですか……」
実際のところ、メグ姉はモトリーク辺境伯が視察するタイミングで僕を隠していたらしいが、小さな町を把握できていなかったのは間違いないのかな。
「結局、町を断念してコラビがあった近くに砦を造ることになったのだけど、財政難でハットフィールド公爵から資金を借りているそうだ。今回はその辺りから交渉しているから大丈夫だろう」
「資金援助ということですか?」
「そうだね。エディが助けたいのは孤児院の子たちだけど、エディがお世話になった人たちは他にもいるはずだからね。モトリーク辺境伯を援助しておくのは、そういった人たちへの恩返しにもなるからちょうどいい。幸いエディのおかげでうちは潤っているから、資金についても心配しなくても大丈夫だよ」
確かに色々と気にかけてくれた人たちもいた……父様に言われるまですっかり忘れていたな……。
「父様に言われるまで全く気が付かなかった自分が恥ずかしいです」
「恥ずかしがることはない。エディの環境は目まぐるしく変化しているから、そんな細かなところまで気持ちが及ばないのは仕方ないんだよ。今は自分のできることだけを考えて、足りない部分は僕たち家族に任せておきなさい」
確かに孤児院のみんなのことも忘れてたけど、気持ちに余裕がなかったからなのか?
「ほら、考え込みすぎるのは、エディの悪い癖だぞ。もっと気楽にするといい」
おじい様が、僕の頭をくしゃくしゃっと撫でる。そういえば、おじい様の膝の上に座ったままだった。
「今からバージルが来るって言ってるのに、何やってるのよ。エディの綺麗な髪が乱れたじゃない!」
おばあ様は、おじい様から僕を取り上げて自分の膝の上に置いてから、ブラシで髪をとかし始めた。膝の上じゃなくても良いのだけど、昨日のことを心配してくれているのだろうな。
みんなの気遣いを嬉しく感じながら会話を楽しんでいると、メイドがやって来る。
「ハリー様、トニトルス公爵様が間もなく到着いたします」
「それじゃあ、みんな行こうか」
トニトルス公爵と会うために部屋を移動するのだった。
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