第354話 孤児
ワイルドウィンドの人たちは、メイドに頼んで宿泊する部屋に案内してもらった。
「エディ様、大丈夫ですか?」
ワイルドウィンドが退出すると、リーリエが心配そうに尋ねる。ノーラが最後に言った内容でショックを受けていると思ったのだろう。
「大丈夫だよ。アレンだけしかいなかった時点で、そういうのも覚悟していたから……メグ姉はどこにいるか分かる?」
「おそらく、カトリーヌさんの工房ではないかと」
「じゃあ、そっちに向かおうか」
リーリエとシルエラを連れて、カトリーヌさんの工房へ向かった。
◆
工房に入ると、メグ姉とカトリーヌさんがいた。
「エディ! どうしたの!? 顔が真っ青よ!」
メグ姉は僕の顔を見た途端驚き、僕を抱きしめた。
メグ姉の顔を見て安心したのか涙が溢れ出す。自分では冷静だと思っていたのだが、そうではなかったらしい。
「リーリエ何があったの? ノワール様とエリー様に会っていたんじゃないの?」
カトリーヌさんがリーリエに尋ねる。
「実は……」
リーリエが二人にアレンのことを説明した。
「アレンが大怪我を?」
メグ姉が反応した。
「はい、雪解けが進んだことにより強行してローダウェイクまで来たのが裏目に出たようです。ローダウェイク付近はまだ雪が多く残っているので、マスプロマンショにやられたようですね。この時期は別の雪のある地方に行く準備のため、獲物をたくさん食べるので気性が荒くなっています。生き残れる実力を持つワイルドウィンドは優秀なのでしょう」
「それだけの実力があるなら、普通は強行しないはずよ?」
「ワイルドウィンドの人たちは言いませんでしたが、あの様子では、ローダウェイクを目の前にしたアレン君が暴走したのでしょう。ワイルドウィンドのメンバーはそれに巻き込まれたのでしょうね」
「大怪我したとはいえ、見捨てないでくれただけでもありがたいのかしら?」
「カティの言う通りだけど、アレンの怪我はエディが治したのでしょう? なのに、どうしてエディはこんな状態なの?」
「それが、エディ様を見捨てた残りの二人が亡くなったようです」
「……メアリーとトーマスが?」
「そのようですね。コラビの冒険者ギルドにいたエイレーネさんが、現在ハットフィールド公爵領のアルトゥーラの冒険者ギルドにいるらしく、ローダウェイクへ向かう道中で二人の話を聞いたようです」
「確実な情報なのかしら?」
「場所的にはハルフォード侯爵領のシュータスに向かう街道で魔物にやられたようですね。アレン君のようにヴィンスに向かわないで、シュータスに向かおうとしたところを、スタンピードからはぐれた魔物にやられたというところでしょうか。一旦、ヴィンスの冒険者ギルドに寄ってからアルトゥーラに向かったエイレーネさんが、二人を確認したそうです」
「二人だけで向かおうと……するわけないわね。あの子たちにそんな土地勘はないわ」
「そうですね。他にも複数の死体があったそうなので、コラビからの避難者の中にシュータスへ向かおうとするグループがあったのでしょう。そのグループの後をついて行ったのでしょうね」
「そう、冒険者になれなかった時、そこまで気にしていなかったエディがここまでショックを受けるとは意外だったけど、私の話を聞きなさい」
メグ姉は僕の頭を撫でながら話を続ける。
「普通の孤児院では、魔物の解体や護身術は教えないわ」
僕は頷く。
「知っていたのね。亡くなった神父様から聞いたのだけど。孤児院から出てすぐに冒険者になった子たちの半分以上は、一年以内に亡くなってるそうよ」
「えっ!?」
顔を上げると、メグ姉は優しく微笑んでから話を続ける。
「神父様はとても強かったわ。だけど元冒険者ではないそうよ。聞いてはいないけど、どこかの貴族の血筋じゃないかと思うの」
今思えば、確かに立ち振る舞いや所作は、洗練されていたように思う。
「エディの記憶には残っていないかもしれないけど、小さい時に冒険者活動をしていた私をエディはカッコいいって言ったのよ」
「えっ!? 冒険者をしていたメグ姉を知っていたってこと?」
「そうよ。その時エディが『将来冒険者になる』って言ったから、アザリエたちが冒険者を目指したのよ」
「全然覚えてないけど、リーリエも?」
「もちろんです! あの時のエディ様のお姿は今でもはっきり覚えております!」
アザリエたちが冒険者になったのは、完全に僕のせいじゃん。
「エディ、今いる騎士団のメンバー以外にも、冒険者を目指した子たちはたくさんいたのよ」
「それってもしかして……」
「そう、あとの子たちは亡くなったわ」
「そんな……」
「先生、どうしてエディ様にそれを言うのですか?」
「メアリーやトーマス以外にも、冒険者になった子がいるってことを知っておいた方が良いと思ったのよ。リーリエ、エディに話して上げなさい」
「……分かりました。最初わたくしたちは、クランではなく個々のパーティーで良きライバルとして活動していました。しかし、わたくしと同期だった別のパーティーが全滅し、他にも多数亡くなったのです。それを知ったアザリエがクランを立ち上げ、生き残った人で再編したのが、今残っているメンバーなのです」
「エディは、自分のせいで亡くなったと思っているでしょ?」
「……違うの?」
「アザリエたちも含め、みんな自分の意志で冒険者になったのだから、そう思うのは亡くなった子たちに失礼よ」
「エディ様。ちょうど、アザリエからわたくしたちの世代ぐらいまでは、飢饉も重なったため孤児が多く、仕事も冒険者ぐらいしかなかったのです。先生の指導を受けていなかった子たちは、ほとんどが全滅していますので、わたくしたちはエディ様のおかげで生き残れたのだとあの時強く思いました」
「……」
「亡くなった子たちのことは残念だけど、それが現実なのよ」
「……」
「だけど、今のエディは力のない孤児ではなく貴族よ。エディの気持ち次第で、そういう子たちを減らすことができるのよ?」
「すでにヴァルハーレン領では、エディ様のおかげで様々な仕事に溢れております。先生がハリー様に色々と孤児院の運営について進言されたと伺っています」
「メグ姉が?」
「エディのお父さんに聞かれたから答えただけよ。私の考えというよりは神父様の考えね。エディの家族は素晴らしい人たちだから、しっかり学んで孤児でも様々な仕事につけるように考えなさい。エディならできるわ」
「ヴィンスにいる仲間はどうしよう?」
「それはエディのお父さんと相談してからね。金額が十分ではないとはいえ孤児院には領主がお金を出しているのだから、領主の許可なしで、孤児たちを領外へ連れ出すのはまずいのよ」
「ヴィンス以外の町にも移動させられているみたいなんだけど」
「どうしてそんなことをしているのか分からないわね。その辺りも含めて相談してみるしかないんじゃないかしら?」
「今日の夜には帰ってくるから、相談してみるよ」
結局、メアリーとトーマスについてはアレンから聞くしかないので一旦諦めることにした。今日は色々あったせいか、父様たちが帰ってくる前に寝てしまったのだった。
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