第353話 説明
アレンはしばらく目を覚さないと思うので、応接室に移動して冒険者たちから話を聞くことにした。話が長くなりそうなので、ノワールとエリーには帰ってもらったため今度埋め合わせしないとな。
「アレンのことを話す前に、エドワード様に俺……いや、私たちの話を聞いてくれ!……じゃなく、聞いてください」
後ろの女性に二回も叩かれた……。
「エドワード様、ここからは私がお話しします。私の名前はノーラ、ワイルドウィンドという冒険者パーティー名でランクはB、リーダーは剣士のアンディ、タンクのランディック、魔術師のシエラ、アーチャーの私の四人になります」
「一緒にいたけど、アレンはパーティーのメンバーじゃないんだね」
「アレン君とはヴィンスの町で知り合いました。私たちがエドワード様に会うため、ローダウェイクへ向かうことになっていたので、その旅に同行させた形となります」
「ヴィンスの町から来たのですか!? アレンはともかく、ワイルドウィンドの四人が僕に会いに来たというのは?」
「エドワード様は二年ぐらい前、フォルターグリズリーに苦戦していた冒険者を助けたのを覚えていませんか?」
「二年前?」
二年前というと、ヴァルハーレン領に向かっている時か……そういえば、能力の練習をしているときに……。
「あっ、あの時のアーチャーのお姉さん!? タンクの人も無事だったんですね!」
「よかった! 覚えていてくださったんですね。あの時助けてもらった冒険者です!」
あの時助けた……竜宮城に連れて行ってくれるわけではないだろうな。
「よく僕だと分かりましたね」
「諦めていたのですが、エドワード様の活躍が王国全土に轟いたおかげで分かった次第です」
王国全土というのは言い過ぎでは?
「それでは、わざわざお礼を言うためだけに、ヴィンスの町から来たのですか?」
そう質問するとリーダーのアンディは突然立ち上がる。
「エドワード様のおかげでランディックは……いや、俺たちは救われた。この恩を返さないという選択は俺たちにはない!」
「アンディ抑えて! エドワード様、申し訳ございません。この興奮は感謝の表れと思っていただけたら、ありがたいです」
どうやらノーラは苦労人のようだ。仲間の命のために戦い、助かれば一緒に恩を返す。とても良いパーティーだな。あの時助けたのは正解だったようだ。僕たちも冒険者をやっていたら、こんな未来もあったのだろうか?
「あなたたちのことはよく分かりました。具体的にどうやって恩を返すのでしょうか? わざわざお礼を言いに来たというだけでも、十分だと思いますが」
「俺たちは冒険者だ! 冒険者に出来ることなら大概のことはできる。何か依頼してくれれば無料で十回するというのはどうだ! ……どうでしょうか?」
魔術師のシエラが持っていた杖でアンディの頭を思いっきり殴ったぞ! それにしても、依頼十回無料って、肩たたき券じゃないんだから。
「うーん、僕には元冒険者の騎士団もいるので特に必要ないかな」
「元冒険者というと、エディ親衛隊のことでしょうか?」
「ノーラは知っていたんだね。リーリエは彼女たちのことは知ってるのかな?」
「全く知らないです。アザリエがクランを立ち上げる前の話ではないでしょうか?」
「えっ!? クランなんてあったの!」
「私はクランエディ親衛隊所属、エディ君に撫でられ隊リーダーのリーリエです」
「エディ君に撫でられ隊……エディ親衛隊よりふざけている……」
アンディがガックリ膝をつく。
「ふざけている? これは、わたくしたちがエディ様の世話をしていたときのブームで、あの頃のわたくしはそれだけが生き甲斐だったのです。断じてふざけていませんよ? 今もたまに撫でていただいていますし」
そんなことを自信たっぷりの表情で言わないでほしい。どうしても撫でて欲しいというから撫でただけなのだが、そんなブームがあったとは覚えていないな。
「エドワード様、彼女たちは冒険者を辞めたと聞きました。騎士団になった以上、動きにくいこともあると思います。そういったことを私たちに任せてもらえませんでしょうか?」
「そういうことって可能なの?」
リーリエに聞いてみる。
「そうですね。わたくしたちも色々と仕事ができてしまって以前に比べるとそこまで自由に動けるわけではないので、エディ様でしたら、何かの素材を取ってきてもらうのはどうでしょうか? 素材採取は冒険者の基本のひとつなので、ちょうどよいのでは?」
リーリエは外見上しっかり答えているが、かなり面倒くさそうな雰囲気を纏っている。最近、彼女たちの微妙な心境の変化も感じ取れるようになったのだが、リーリエは適当な依頼をしてもらいさっさと帰ってもらえと言っているのだろうな。せっかく遠くから来てくれたのだから、何か依頼する方向で考えるか。
「分かりました。依頼については何か考える方向で進めるとして、アレンのことを聞いても大丈夫ですか?」
「ええ、まさかあの傷が治るとは思いませんでしたが、本人からは一度了解を取っていますので問題ないでしょう」
ノーラからアレンがコラビで冒険者になってからの一部始終を聞いたのだが、アンディがノーラの話で号泣しているので、かなりうるさい。
「スタンピードで、そんなことになっていたんですね」
「その……エドワード様はアレン君のことを、恨んでたりするのでしょうか?」
「そうですね……正直言うと僕の方も目まぐるしく環境が変わって、そこまで考えている余裕がなかったというところでしょうか? ただ、アレンがそこまで僕のことを大切に想ってくれていたのは、正直嬉しいです」
「それなら良かったです。アレン君は最悪殺されることも覚悟していたので」
「殺すって……メアリーに対する恋心があったとはいえ、『糸』の能力を生産職と吹き込まれて、魔が差しただけですよね? 本当に生産職だったらある意味正しい判断だったと思いますし」
僕のイメージってどうなってるの!?
「エドワード様はお優しいと聞いているのですが、周りの方たちが許さないのではとの意見もありましたので」
いくら過保護でもそこまでは……。
「リーリエ、みんなそんなことしないよね?」
「エディ様を仲間外れにしたのですよ? 極刑に決まってます」
当然ですといった感じで言い切った!
「そうなんだね。でもリーリエよく考えてみて。アレンと冒険者になっていたらローダウェイクに来ることもなかったから、リーリエと出会うこともなかったんだよ?」
「……確かに仰る通りですね。しかし、それは結果論であって感謝するのはモヤっとしますね」
「まあ、感謝しなくても、手出しはしないでほしいかな」
「今はエディ様の騎士なのですから、エディ様の許可なしでそんなことしませんよ?」
「そう? それならいいんだけど」
「もちろん、おかしな行動をとるなら、二度と男として表を歩けない程度には痛めつけますが」
アンディは股間を押さえて震えあがっているが、何かやましいことでもあるのだろうか?
「アレンのことは取りあえず分かったよ。あとは本人が目を覚ましてから話すことにしよう」
「それで、アレン君が気にしていた孤児院の子たちは何とかなりそうですか?」
「何とかする方向で相談してみます。他領のことに対して干渉するのが意外と面倒なんですよ」
「そうなんですか……」
「コラビのシスターだったメグ姉もいるので、何とかなるとは思っていますけど」
「コラビのシスターというと氷華のことですね」
「知ってるんですね?」
「もちろん有名人ですから」
そういえば、レギンさんもビビッてたからかなり有名だったのだろうな。
「それでは話としてはこんなところですか? アレンが目を覚ますまでは、部屋を用意するので城に滞在していてください」
「よろしいのでしょうか?」
「構いませんよ。その間に依頼の方も考えておきますので」
「よろしくお願いします」
「おい、ノーラ! あのことを言わなくてもいいのか?」
「あのこと?」
「ほら、アルトゥーラで聞いたやつ」
「そうでした。もう一つだけお伝えしたいことがございました」
そう言って、ノーラから聞いた内容は今の僕にはとても衝撃的な内容だったのだ。
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