第351話 ラーメンの右腕?

 今日は厨房に来ている。先日昼食でラーメンを食べていて重大な事に気がついたのだ。その時料理人たちが用意したのはラーメンと唐揚げ。そう、何も言わなくてもラーメンと唐揚げの組み合わせを導き出したロブジョンたちはさすがだと言えよう。


 しかし、その組み合わせを目にした瞬間、ラーメンの右腕と呼ばれる存在を思い出す。人によっては唐揚げが右腕だと言う人もいるだろうが、いないことが問題なので左右はこの際どちらでもいいのだ。


 ラーメンどんぶりを作ることばかり考えていて、肝心の相棒を忘れていたとは大失態だろう。


 早速、餃子を作ることにする。餃子は屋台でもいけそうだから、簡単なレシピは商人ギルドに渡しておこう。そうすればそのうち色々な餃子が味わえるはずだ。


 まずは皮から、あらかじめ料理人に頼んで、生地を寝かすところまで頼んでおいたのですぐに作ることができる。


「エドワード様、寝かせるまでの工程は同じでも、パスタやラーメンよりシンプルな配合なのですね」


「確かにパスタやラーメンより材料は少ないね」


 さすがロブジョン鋭い突っ込みだ。実はパスタやラーメンより先にこっちを作ることができていたのは内緒……いや気づいているか。能力で配合などは変更できるので、能力にはうどんとして取り込んである。薄く……短く出せば餃子の皮もすぐにできるのだが、今回は料理人たちに指示を出すだけなので簡単だ。


「次は小さく切った後、こういう感じで薄く伸ばしてもらえるかな」


 今回は直径十センチ、厚さ一ミリで作って見ようと思う。料理人たちは、僕が試しに作った皮よりも器用に手早く綺麗な円の皮を大量に作っていく。

 

「次はこの皮の中央に小さじ程度の餡をのせて皮の縁に水をつけ、半月形に折りひだを作るように折りたたんでいくんだ」


「エドワード様、そのひだは何か意味があるのでしょうか?」


 やはりその質問がきたか、予めウルスに聞いておいてよかった。


「ひだには二つの役割があって、一つはしっかり口を閉じることで餡から肉汁が逃げるのを防ぐこと。もう一つは皮に伸縮性を持たせて、焼いたときの破裂を防ぐ効果があるんだ」


「なるほど、実に理にかなった形状というわけですな。お前たち、エドワード様が作られたように作り始めろ!」


 ――はっ!


 うちの料理人たちは、一度見ただけの餡の包み方を僕より器用に包み、瞬く間に大量の餃子ができあがる。


「さすがだね。それじゃあ最後の工程にしようか」


「ついに焼くのですな」


 フライパンに油をひき、餃子を並べ火にかけると、餃子の下で油が軽やかに踊り始める。蓋をして蒸し焼きにする。水分が飛んで皮がパリッと焼け、餃子の完成である。


「ソースも用意したけど、一口目は取りあえずこのまま試食しようか?」


 料理人たちと一緒に一個ずつフォークで刺して半分かじる。パリッと焼き上がった薄皮は香ばしく、噛むと弾力のある食感が楽しめる。餡はジューシーで、肉汁が口いっぱいに広がった。グレートボアの肉と野菜の旨味が絶妙なバランスで、控えめに言っても美味しい。


 ソース無しでこの美味さとは、ソースをつけたらいったいどんな美味しさになるのだろうか。ヴァイスが早くソースをつけろと目で訴えているので、ヴァイスの餃子にソースをかけてあげると、凄い勢いで食べ始めた。やはり、間違いなかったなと確信した瞬間だ。


 僕たちも用意した醤油ベースの特製ソースに、残りの半分をつけて口に運ぶ。


 醬油ベースのソースは、酸味と甘味が絶妙なバランスで餃子の旨味をさらに引き立てている。


「エドワード様、これはまた美味しい物を作られましたな。仰っていた通り、平民でも作れそうな上にアレンジも無限にできそうなので、屋台にちょうど良さそうです。しかも、これは唐揚げと同等なぐらいラーメンに合いそうな料理ですな」


 さすがロブジョンは分かっている。違いが分かる男とは、ロブジョンのような男なのかもしれない。次回のラーメンの時は、黙っていても唐揚げと餃子がセットになって出てくることだろう。


 ちょうど試食が……ヴァイスが一皿食べ終わったタイミングで扉が開かれ、家族が入って来る。アスィミが母様に報せたのだろうな。しかし、こうなることは予測済み。


「ちょうどいいタイミングですね。ロブジョン頼んだよ」


「畏まりました。お前たち、エドワード様のようにギョーザを焼くのだ」


 ――はっ!


 ロブジョンの号令で料理人たちは餃子を焼き始める。


「初めて見る料理だね」


「はい、おばあ様。ウルスからラーメンに合うレシピを聞いて作ってみた、餃子という料理です」


「ラーメンに合うのかい? それはいいわね。あたしもラーメンの時は少し物足りなかったのよ」


 毎回あんなに唐揚げを食べていて、まだ物足りなかったのか……。


「ラーメンの時のレパートリーを増やしたかったのと、屋台など一般の人でも作りやすいレシピだったので試してみました」


「屋台で使えるのかい? それは良い考えだね。味のバリエーションが以前より増えたとはいえ、まだまだ串焼きの割合が多いから、何とかならないかと相談を受けていたんだよ」


「そうだったんですね? ロブジョンに一般の人でも作りやすいレシピを頼んであるので、完成したら商人ギルドには父様から持っていってもらえますか? モイライ商会にも貼りだす予定です」


「それは助かるよ」


「ハリー様、エドワード様が考案なされたギョーザでございます。最初は何もつけずに、その後はこちらのソースにつけてお楽しみください」


 みんなが餃子を食べ始める。それにしても、ヴァイスの追加分はともかく、おばあ様の餃子の数までとても多い。


「ほう、外はパリッとして、中から熱い肉汁が出てきて美味しいな。止まらなくなるわい」


「おじい様にも喜んでもらえて良かったです」


 パクパクと餃子を食べているが、家族の中で一番上品に食べるのは、意外とおじい様だったりする。王族としての教育が厳しかったのだろうな。母様も上品に食べるけど、おじい様には敵わない。


 餃子が完成しラーメンの左右の腕が揃ったわけだ。後はチャーハンも欲しいけど、肝心の米がまだ見つかっていないんだよね。王国内やニルヴァ王国にはなさそうなので、どこかのタイミングで他の国で探すしかないのだろうなと、美味しそうに餃子を食べるみんなの姿を見ながら思うのだった。

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