第349話 石板
「――!」
何かの刺激を感じた?
「エディ、ちょっといいかい?」
……あれっ!? 部屋で寝ていたはずなのに僕を呼ぶ声が聞こえ、まだ重い目を開けると声の主が僕を見ていた。
「……父様? もしかして寝坊しました?」
「いや、まだ夜だよ。少しだけ大丈夫かい?」
どうやら、寝ていたところを父様に起こされたようだ。まだ、頭がボーっとしている。
「……はい、もう大丈夫です。どうしました?」
「少しついてきて欲しいんだ。エディと二人で話をしたいから、君たちはここで待っていてもらえるかな? 話が終わったら連れてくるから安心していいよ」
今日の護衛当番に話しかけて、了解を取っている。
「それじゃあ、移動するね」
そう言うと父様は僕を抱えて移動を開始し、ロティの部屋に入る。
「エディと話があるから、少しだけ外に出ていてくれるかな?」
ロティを世話しているメイドたちも部屋の外に出すようだ。何かロティに関する内緒の話でもあるのだろうか?
「そろそろ立てるかい?」
「……もう大丈夫みたいです」
さっきは寝ぼけてふらふらだったのだが、今は回復したようだ。
「そういえば、よく起こせましたね。一度眠ると朝まで起きないとよく言われるのですが」
「少し奥の手を使ったからね」
「奥の手ですか?」
いったいどんな手だ? 騎士団のみんなに教えてあげれば喜ぶと思うのだが、きっと父様にしかできない……そういえば起きる前に何かの衝撃があったような。少し嫌な予感がするぞ。
「さて、以前僕がエディの加護を知っていたのを覚えているかい?」
「……そういえば、二人っきりで話をしようと言ってましたね」
すっかり忘れてた。
「それについてはすまない。つい最近まですっかり忘れていたんだ」
父様でもそういったことがあるんだな。
「それで、エディの加護を知っていた秘密はこれなんだ」
そういうと、父様は収納リングから、見たことがある石板を一枚取り出した。
「祝福の儀で使う石板でしょうか?」
「うん、見た目は一緒だけど少し違うんだ」
「つまり、これを使うと、祝福の儀をまだ受けていないロティの能力を知ることができるのですね?」
「……すぐその結論に辿り着けたエディはやはり凄いね。僕が父様から初めて聞いたときは、理解するのに時間がかかったよ」
「それは、僕がエンシェントウルフから、能力の発現と祝福の儀は無関係という話を聞いてるからですね。その石板はおじい様が持っていたのですか?」
「そうだね。これは当主だけの秘密だから、エディもみんなには内緒にしていてね」
「母様やおばあ様にもですか?」
「そうして欲しいかな。これは王家の宝物庫にあったのを勝手に持ち出した物なので、出来るだけ秘密にしておきたいらしいよ」
勝手に持ち出して大丈夫なのだろうか?
「分かりました。それにしても、どうしてこのような石板が存在しているのでしょうか?」
「父様が言うには、現在教会が所有している石板の元となった石板ではないかという話だね」
「元になった石板ですか?」
「大昔は生まれてすぐ能力を確認していたそうなんだ。ところが、優れた能力を持っていない赤子を育てない事態になり、人口が減少したらしい。そこで、七歳の祝福の儀まで能力が分からない仕組みを作ったという話だね。今の話は王家の間で伝わっているらしく、父様はその大昔にあった石板ではないかと考えているみたいだね」
「おじい様はどうして、その石板が元になった石板だと分かったのでしょうか?」
「若い時に内緒で宝物庫を探検していたときに見つけたそうだよ。僕が生まれた際に、たまたま思い出して使ってみたところ、石板が作動して分かったと言っていたね」
「そうだったんですか」
おじい様らしいといえば、おじい様らしいな。元々今の王城はドルズベール王国を滅ぼして、手に入れ改築したものだから、ドルズベール王国以前から宝物庫に存在していたのかもしれない。
「それじゃあ、ロティの能力を確認してみよう。今回見た能力は祝福の儀までは内緒にしておくんだよ?」
「もちろんです」
父様はロティの小さな手をつかみ、石板に当てると魔力を込めた。そういえば祝福の儀では祈りを捧げると、暖かい魔力が入ってきたのはどんな仕組みなんだろう。それ以前に、この石板は誰が作ったのだろうか? 見た目は本当にただの石板なので、どんな仕組みになっているのかさっぱり分からない。
石板は鈍く発光すると、文字が浮かび上がる。
【名前】シャーロット・ヴァルハーレン
【種族】人間【性別】女【年齢】0歳
【LV】0
【HP】1
【MP】1
【ATK】0
【DEF】1
【INT】1
【AGL】1
【能力】魔:雷
能力に雷の属性があるな。これでエンシェントウルフが言っていた、女神様と能力は関係ないことが証明されたわけだ。まあ、父様が僕のステータスを既に見ているので、分かってはいたんだけどね。
「加護は無いですが、雷の属性がありますね。各ステータスの値はどうなんでしょうか?」
0と1のオンパレードだ。
「そうだね、エディは生まれたときから魔力だけが高かったかな。今考えれば加護のおかげなんだろうけど、このくらいが普通みたいだよ。父様が僕のを見た後に、何人かのステータスを見て確認したらしい。中には生まれたばかりでは能力がない子もいるそうだよ」
「そういうパターンもあるんですね。その能力がなかった子はどうなったのですか?」
「祝福の儀ではステータスに能力が記載されていたようだよ。おそらく、七歳までの成長過程で出てくるのだろうね」
「父様、祝福の儀で能力が無いことはあるのでしょうか?」
「この間のように効果が不明な能力はあっても、何もないというのは聞いたことがないかな」
「つまり、この石板で能力がなかった赤ちゃんは……」
「だろうね。それにしても、以前エディから聞いた話も合わせると、この石板が存在した時代は、能力を女神様から授かったという話がどうなっていたのか気になるところだね」
「本当ですね。女神様から授かるのか、そうでないのかは気になりますが、調べる手立てがないんですよ」
「国が滅びると、その国の歴史書などは処分されるから、基本的には残されていない。数百年も存続している国はないので難しい問題だね。ロティの能力も確認できたし、エディの部屋まで送ろう」
「一人で帰れるので大丈夫ですよ?」
「エディの護衛と約束していただろ? 最後まで送り届けないと、彼女たちに怒られてしまうよ」
こう言われてはしょうがないので、最強の護衛に付き添ってもらい、部屋まで戻るのだった。
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近況ノートにエディ&ヴァイスのイラストを掲載しました
https://kakuyomu.jp/users/ru-an/news/16818093074695820666#comment-16818093074701945014
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