第346話 Side アレン(下)
「……アレン君ごめんね。こいつそういった話に弱いのよ」
ノーラさんが謝ってきた。
「いえ、俺の方こそくだらない理由ですいません」
俺の事情を全て話したところ、アンディさんが号泣している……。
「くだらなくないぞ! よし、俺たちに任せろ! 絶対アレンとエドワード様の友情を取り戻すぞ!」
……不安しかないな。
「だから、一言謝りたいだけなんで。俺一人で大丈夫です」
「しっかり俺たちが鍛えて送り届けてやるぞ!」
……鍛えてってどういうことだ? 話がよく分からない方向へ向かっているような。
「それではアレン君はワイルドウィンドの皆さんにお願いしても大丈夫でしょうか?」
まずいな、ソニアがまとめにかかった。抵抗しないと勝手に決められてしまう。
「だから――!」
俺が断ろうとすると、アンディさんが俺の口を塞ぐ。
「アレン、まあ聞けや。ソニアの言う通りお前を連れて行くことで、俺たちが門前払いされる可能性は減る。お前もエドワード様の所に辿り着ける可能性も増え、ソニアの言う通りお互いにメリットがあるといえるだろう? お前が仲間を信用できないというのは分からんでもないが、目的のために俺たちを利用すればいいだけのこと。お前はエドワード様に一言詫びを入れる前にくたばってもいいのか?」
「それは駄目だ!」
「だろ? だったらやることは一つじゃねえか?」
そうだ、エディに謝るまで死ぬわけにはいかないんだった。
「……よろしくお願いします」
俺がそういうと、アンディさんはがっちりと手を握ってくる。
「良かったわ。エドワード様は優しい方だという話ですが、アレン君の場合は事情が事情だから注意するのよ? 例えエドワード様が許しても周りの人が許さない場合もあるのだからね?」
「……ソニア……さん、色々とありがとうございました」
「アレン君はもうヴィンスの町の冒険者なんだから、エドワード様と再会してすることがなくなったらいつでも帰って来てもいいのだからね?」
「まあ、その時は俺たちと一緒に帰ってくればいいだけのことだ。仮にアレンと別々になってもソニアに結果は報告してやるよ」
「アンディ、ありがとう!」
「おっ? おぅ、まかせとけ……」
アンディさんの顔が真っ赤になった。
「話がまとまったばかりだけど、一つだけ問題があるのよね」
「ノーラ、今の俺たちに問題なんてあったか!?」
アンディさんのテンションが、二段階くらい高くなった気がする。
「今から向かうと冬になってしまう件ですね?」
「ソニアはずっとヴィンスの町だったわりに詳しいのね?」
「ええ、今回のアレン君の件でかなり調べましたので……あっ!」
かなり調べたのを隠したかったのか、少し頬が赤くなるソニアさんに対し赤鬼のように俺を睨むアンディさん。ソニアさんのことが好きなんだろうが、俺の年齢考えてから嫉妬してくれ。俺もこんな感じだったのだろうか……。
「冬のヴァルハーレン領に入るのは危険だから、次の春に着くよう出発するか、王都ぐらいまで進んでから春になるのを待つかだね」
「冬は危険なんですか?」
「アレン君は雪って知ってる?」
「雪ってなんだ?」
初めて聞いた。
「うーん、説明が難しいわね凍った雨が降るのよ」
「凍った雨が分からないです」
「アレン君、氷も見たことない?」
「見たことも聞いたこともないな」
俺がそう言うとみんなは頭を抱えた。有名なのか?
「おかしいわね……コラビのシスターといったら氷華なんでしょ?」
「氷華って誰だ? 俺の知ってるシスターはマルグリットだけだ。新しく来たシスターの名前は知らない」
「そのマルグリットが氷華って呼ばれている元冒険者なんだけど、知らなかったようね」
「シスターマルグリットが元冒険者? ……そうか、それでヴィンスの孤児院では魔物の解体をさせてないのか……」
ヴィンスの孤児院に魔物を届けに行ったとき、解体して持って来てくれと言われたのを思い出した。
「コラビの孤児院ではそんなことさせていたのね。普通の孤児院ではそんなことさせないわよ。冒険者なりたてにしては解体が手慣れていたのは孤児院で習っていたからなのね?」
俺が頷くと、アンディさんは何か考えている。
「……そういえばかなり前にコラビ出身の冒険者でやたらと美人で強いのいなかったか?」
「いたわね。確かハルフォード侯爵領のシュータスの町でアンディが告白して秒でフラれてた子たちでしょ?」
「それは、今言うんじゃねぇ!」
ソニアさんのアンディさんを見る目が変わった……これはエディが昔、口は禍の元とか言ってたやつだな。
「確か
ノーラさんが出したエディの単語にみんな顔を見合わせた後、俺の方を見る。
「俺は知らないですが、エディはシスターが赤ちゃんの頃から面倒みていたそうです」
「それなら面識がありそうだから間違いなさそうね」
「俺は赤子に負けたのか……」
ガックリと膝をつくアンディさん。エディは孤児院で常に女の子がくっついてたし、男の俺が見ても綺麗な顔をしていたから、アンディさんでは勝ち目がなさそうだ。今ので完全にソニアさんとの恋が終わったのは俺でも分かる。
「ノーラさん、話を戻しましょう。ヴァルハーレン領に行くには、雪というのが問題なのですか?」
「意外と冷静なのね。まあ、結論からいうと雪が積もってヴァルハーレン領には行けないということです」
「全く想像つかないが分かった。そうなると王都で雪が無くなるのを待つのが一番良い方法だと思うけど、何か問題があるのか?」
「王都に滞在すると物価が高いわ。アレン君は貯金あるの? 孤児院に結構な額を寄付していると噂で聞いたけど」
「……生活費以外はない。孤児院でコラビの仲間を見つけたんだ……みんなの待遇があまり良くなくて……」
「よし、アレンの足りない分は俺が出してやろう!」
突然立ち上がったアンディさんが、訳の分からないことを言い出した。
「宿代が足りないなら、野宿するので大丈夫です」
「それじゃあ、ずっと疲れが取れないから強くなれないぞ?」
「強くですか?」
「ああ、宿代ケチって体調を崩すような冒険者は三流以下の冒険者だ。素直に受け取らないところは加点要素だな。なら、貸してやるからいつか返せってのはどうだ?」
「……いいのですか?」
「俺はヴィンスの孤児院の出だからな。後輩のためにギリギリまで寄付するお前が気に入った! 準備が出来次第出発するぞ!」
王都へ向けて移動することが決まったのだった。
「ソニアとの望みがなくなったから早く出発したかったのね……」
シエラさんの呟きは俺の耳にしか届かなかったようだ。
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