第345話 Side アレン(中)
ヴァルハーレン領に一人で向かうと言ったところ、みんなに大反対された。
「アレン、今の俺の話を聞いてなかったのか? 最低Cランクは必要だと言ったんだ。お前の実力は以前見た段階でEランクは超えていた。それから研鑽をかさねたとしてもDランクがいいところだろう。いくらなんでも無謀すぎる」
「例えそうだとしても、俺に行かないという選択肢はない」
「それを無謀というのだ! 無駄死にするだけだ」
「それでも俺は行く!」
「アンディとアレン君、とにかく話を聞いて欲しいの。今回の提案はどちらにもメリットがある話なのよ」
「俺たちにもメリットがあるというのか?」
ソニアが止めに入った。メリットがあるという話にアンディさんの目つきが変わったが、俺を連れて行くメリットなんてあるのか?
「ええ、まずワイルドウィンドとアレン君の今回の目的が同じなのよ」
「目的が? アレンもエドワード様に面会したいのか?」
「そうよ。面会した後の目的は違うから、会うところまでになりますが」
「会うだけなら、お荷物になるアレンを連れて行くメリットはないと思うが?」
お荷物か……。
「アレン君にエドワード様との面識があるとしても?」
「アレンに面識が? エドワード様は大公家嫡男だぞ? 遠くから見たことがあるとかじゃ話にならないからな」
アンディさんの言うことは分かる。普通に考えて俺とエディの接点なんて考えつかないだろう。
「分かったわ。アレン君は確かコラビから来たって言ってたわね。エドワード様もコラビにいたそうだから、同じ孤児院にいたのね?」
ノーラさんが鋭い指摘をする。ワイルドウィンドのリーダーはアンディさんだが、実質的に仕切っているのは一番賢いノーラさんだ。
「アレン、本当なのか?」
「はい、俺がエディの正体がエドワード様だと知ったのは、さっきだけど」
「なるほど、つまりアレンはエドワード様と幼馴染ということか……しかしアレン。大公家嫡男だったエドワード様に取り入ろうとか考えているのだったら、連れて行かんぞ? 俺はそういうのが好きじゃないからな」
「そんなことはしないっ! それに俺一人で行くと言ってるだろうが!」
「二人とも話が進まないから抑えてね。アンディも煽らないの。アレン君がそういう子じゃないって知ってるでしょ?」
「……アレン、すまない」
ノーラさんが止めに入った。今のはわざとだったのか……。
「いえ、俺の方こそすみません」
「うーん、アレン君の事情を聞きたいところだけど、私たちの事情を説明しないのもフェアじゃないから先に話すわね」
ノーラさんからワイルドウィンドがエディのところに行く理由を教えてもらう。
「つまり、ワイルドウィンドの皆さんはエディに命を救われたから、無償で何か手伝いをしに行くと?」
「そうだ。俺たちはフォルターグリズリーから助けてもらった。あれがなければランディックは助からなかったし、俺たちも時間の問題だっただろう。名も名乗らずに助けてもらったとはいえ素性が分かった今、恩を返さないという選択肢は俺たちにはない」
アンディさんが言うと他のメンバーが頷く。俺もこんなパーティーが欲しかったはずなのに……それにしても、ワイルドウィンドでも倒せなかったフォルターグリズリーをエディが?
「エディが授かった能力は『糸』で生産職という話でした。とてもフォルターグリズリーを倒せるとは思えないんですが」
「生産職? 『糸』という能力自体初めて聞いたけど、間違いないのよね、ソニア?」
俺の話を聞いてノーラさんがソニアに尋ねる。
「間違いありません。エドワード様の能力も『糸』ですし、現にエドワード様が立ち上げたモイライ商会は今や王国中で噂になっております。エドワード様がエディという名前でコラビの孤児院で育ったのも公表されています。強さのことを話しますと、今まで謎だった海神様を単独で討伐したそうです。その海神様の亡骸はファンティーヌの港で公開され、ヴァッセル公爵領でエドワード様は海神様と呼ばれているのだとか」
「エディが海神様?」
生産職というのは嘘だったのか? 俺の愚かさは呆れるレベルだな。いや、本当は能力なんて何でも良かったはずなのに……。
「えっ!? 海神様が討伐されちゃったの?」
「シエラ、あなたはファンティーヌ出身でしたね。現在ファンティーヌではエドワード様の像を祀ってあるそうですよ。討伐された海神様はシュトゥルムヴェヒターという魚の魔物で、ファンティーヌの港を埋め尽くすほどの大きさだったと聞いております」
ソニアからエディにまつわる話が次から次へと出てくる……そういえば、ジャイアントスパイダーもエディが倒したと噂になっていたが、本当のことだったんだな。
「シエラすまん。俺の回復が遅れたばかりに」
「ランディックが謝ることはないわ。あなたが無事だったおかげで、こうして冒険者を続けられているのだから。それにしても、エドワード様に感謝することが増えてしまったわね」
「そういえば、シエラのお父さんは海神様に殺されたのだったわね」
「ええ、それが原因で残された私や家族は迫害を受けたわ。それでファンティーヌに住めなくなって、町を転々と移動して最終的にこの町に移り住んだのよ。それが神様じゃなくて大きな魔物だったなんて、旅立つ前に母さんのところに顔を出してくるわ」
「ご家族も喜ぶんじゃない?」
「そうね、父の
「シエラ、その話は後にしろ。次はアレンの番だが話す気はあるか?」
「……分かりました」
俺は全てを話すことにしたのだった。
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