第344話 Side アレン(上)
「アレン君おめでとう。FランクからEランクに昇格よ」
受付嬢のソニアからランクアップを告げられた。
「アレン、おめでとう!」
「よかったな!」
その場にいた冒険者たちが祝福してくれる。
「……ありがとうございます」
この一年地道に魔物を狩り続けてきてよかった……。
「それじゃあ、アレン君。手続きついでに少し話をしましょう」
てっきりここで話をするのかと思ったら、ソニアは奥の面談室へ歩いていくので俺もついて行く。
「そっちに座ってちょうだい」
ソニアの向かいの席に座るが、何の話だろうか。
「まずは、改めておめでとう。一人でよく頑張ったわね」
「ありがとうございます」
「アレン君のことはエイレーネ先輩から聞かせてもらったわ」
「そうですか……」
エイレーネといえば、コラビの冒険者ギルドの副ギルド長だった女性だ。あまり良い話ではなさそうだな。
「心配しなくていいのよ。過去に起こったことを掘り返そうという話ではないわ」
「それじゃあ、いったい?」
「アレン君が前に調べて欲しいと言っていた、エディという少年のことについてよ」
「何か分かったのか⁉︎」
「本当は少し前にエイレーネ先輩から手紙が来てたのだけど、Fランクは見習いレベルなので教えられなかったの。Eランクになったから教えることができるようになったわ」
「そうだったんですか」
「ただ、これをアレン君に伝えていいのか分からないから、まずはエディ君の現状を伝えるわね。とても幸せそうにしていて、もしかしたらアレン君のことは忘れているかもしれないわ」
「そうですか、それでエディはどこに?」
「……どうやら意思は固いようね。パーティーを組むように言っても、一人で冒険者を続けていたアレン君には今更か」
そんなに言いにくいことなのか?
「エディ君の本当の名前はエドワード様と言ってヴァルハーレン大公家の嫡男だったのよ」
「は!? 何を……」
「生まれて直ぐ盗賊に連れ去られたようね。祝福の儀で家名があることに気がついて、ヴァルハーレン領まで一人で行ったらしいわ」
「エディが貴族?」
「そうね。貴族でもただの貴族ではないわ。王家の血筋だから、王族になるのかしら? アレン君は謝りに行きたいのでしょ?」
「どうしてそれを?」
「あら、前にお酒を飲んだ時に言ったのを覚えてない?」
そうだ! 以前ソニアに誘われて飲んだアレか! 次の日、飲んだ記憶が全くなかったので、アレ以来酒は飲んでいない。
「アレン君がエドワード様にやったことはいけないことだったけど、もうエドワード様は覚えていないかもしれないし、覚えていたとしたら最悪殺される可能性もあるわ。このままヴィンスにいれば会う可能性はゼロに近いから、会うのは諦めなさい」
エディが貴族……言われるとなるほどと思うところはあった。ソニアがそこまで言うということは、そうなんだろうな。会う可能性がないというヴァルハーレン領はそんなに遠い場所なのか。俺はそんな遠い場所へエディを一人で行かせてしまったのか……親友だったのに……。
今思えばくだらない誘いに乗ってしまった自分が許せない。孤児院に入れられた時、親に捨てられ荒れて誰も近寄らなかった俺に声をかけてくれたのはエディだけだったじゃないか! そんな、何もなかった俺に夢や仲間を与えてくれたのに捨て去ってしまった。
「エディを裏切ったのは俺だ。罰を受けなければならないのなら、それも仕方がないと思っている。それで終わるにしても、新たに始めるとしてもエディに一言謝ってからだ」
「……やはりそうなるのね。普段のアレン君を見ているとそうじゃないかと思ったわ」
「色々と面倒見てもらっていたのにすいません。孤児院に入れられた時の俺は結構ギリギリで、独りぼっちで、夜逃げしようとしていたんだ。それを止めてくれたのがエディで、その後も頻繁に話しかけてくれて、エディがいなかったら逃げ出してどこかで野垂れ死んでいたはずだ」
「そこまで感謝しているのに、恋の力が勝っちゃったのね」
「多分、一緒にいるのが当たり前になってしまって大切なことを忘れていたんだと思います。もうエディと一緒にいられることはできないけど、最後にあいつの顔を見たい。今後のことはそれから考えようと思う」
「しょうがないわね。少し待ってなさい」
そう言ってソニアは部屋を出ていった。
しばらく待っていると帰ってきて。
「アレン君、私について来て」
どうやら部屋を変えるようだ、前に講習を受けた会議室に入っていったので、俺も後に続く。
会議室には四人の冒険者がいた。この町ではかなり有名なBランクの冒険者でパーティー名はワイルドウィンド。何度か危ないところを助けてもらったことがある。助けても金銭を要求しないだけでなく、アドバイスまでしてくれるお人好したちだ。
「アレン君じゃん。久しぶりだね、以前会った時より強くなったみたいだね」
アーチャーのノーラさんが声をかけてくれる。
「ようやくEランクになれました」
「パーティーを組まずに一人で研鑽しているのだ、よくやっている方だろ」
「そうね、一人では受けられる依頼の幅も狭まるから早い方だと思うわよ」
タンクのランディックさんと魔術師のシエラさんも褒めてくれた。
「ソニア、アレン君を連れて来たのはどういうことだ? まさか連れて行けとは言わないよな?」
「ええ、アンディ。アレン君をヴァルハーレン領まで連れて行って欲しいのよ」
「ヴァルハーレン領までの道のりは大変だぞ? せめてCランクくらいないと。前回Bランクの俺たちでも死にかけたんだぜ?」
俺をヴァルハーレン領まで連れて行くってどういうことだ?
「ソニア、俺は誰の世話になるつもりはない。一人で行くつもりだ」
「「「「一人では絶対に無理!」」」」
剣士のアンディさん以外が一斉に突っ込んだのだった。
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