第343話 ベビーベッド

 今日は朝から冬に向けた準備をしている。商業ギルドから除雪用のマグマスライムグラウンドローラーを増やして欲しいとお願いされたのだ。


 屋台エリアは冬季の間は閉鎖する予定だったのだが、店主たちがどうしても続けたいと言ってきたらしく、除雪作業を効率よくするためにマグマスライムグラウンドローラーを増やしたいらしい。


「エドワード様、旦那様がシャーロット様の部屋に来るようにとのことです」


「ロティの部屋に? 分かったよ」


 家族内でのシャーロットの愛称はロティで決定した。それと同時に僕のことも愛称で呼ぶことを宣言され、最近は家族からもエディと呼ばれるようになった。本当は愛称で呼びたかったらしいのだが、コラビ組がエディ呼びなので遠慮していたという話をメグ姉にあとから教えてもらった。ちなみに、ジョセフィーナはエドワード呼びのままで行くらしい。


 ◆


 ロティの部屋に行くと父様に母様、あとロティを世話しているメイドたちが数名いた。


「みんな揃ってどうしたんですか?」


「エディに聞きたいことがあったんだよ」


「僕にですか?」


 何だろう? 最近変わったことはしてなかったはずだけど。


「朝起きたらロティのベッドが変わっていたのだけど、エディの仕業だね?」


「そうですね。小さな籠ではロティが可哀想だったので作りました」


 世界的には分からないが、この国にはベビーベッドというものがない。しばらくは籠に入れて、その後は普通のベッドで寝ることになるのだ。


「柵があれば動けるようになったとき、ロティがベッドから落ちたりする危険性も少ないですし、こうして柵を倒せばオムツを変えるのも楽にできます」


 ――凄いっ!


 柵を倒したところでメイドたちから歓声が上がったが、父様は若干ひいているようにも見える。更なるアピールが必要なようだな。


「マットにはスライムを使いこれから寒くなる冬に備えて、汗をかかない程度の暖かさにしてあります」


「……マットはスライムだったんだね」


 そう言うと父様はマットを触って確かめている。


「スライムにしておけば濡れても大丈夫ですし、そもそもベッドカバーをカタストロフィプシケの布で作ってあるので、濡れる心配もなく常に清潔です!」


 濡れる心配がない言ったところでメイドたちから拍手が起こった。冬場は洗濯が大変だからだろう。


「なるほど、エディがロティのために作ったのは分かったけど、少しやり過ぎじゃないかい?」


「ちょっと、何言っているのか分からないですね。まだ足りないというのなら分かりますが、やり過ぎということはないはずです」


「……」


 言い切った僕に父様は驚いた表情を見せた後、母様の方を向いた。


「エディがロティのことを大切にしてくれるのは嬉しいけど、専用の小さなベッドは大袈裟じゃないかしら?」


 母様まで言うということは、ベビーベッドという赤ちゃん専用のというのは無駄に見えるのだろうか。


「父様と母様は勘違いしているようですね。確かにロティのために作りましたが、これは今後モイライ商会でも扱っていきます。スライムのマットは使いませんけどね」


「これをモイライ商会で扱うのかい?」


「もちろんです。エミリアにも売れるか確認とってありますので安心して下さい」


「赤子専用のベッドが売れるのかしら?」


「母様、エミリアに調べてもらったのですが、生まれて五年以内、さらに言えば一年以内の死亡率がもっとも高いらしいのです。このベッドは赤ちゃんの死亡率を下げ、世話するメイドたちの負担も軽減する画期的なベッドなのです!」


 メイドたちから拍手が起こった。うつぶせ寝での窒息などの考え方は、地球でも比較的近年での考え方だ。当然この世界で死亡理由など分かるわけないので、ベビーベッドと一緒にそういった考え方も広めていければよいのだけど。



「そこまでエディが考えていたとはすまなかったね。僕たちが間違っていたよ」


 父様が謝り、母様が僕を抱きしめる。確かに多少は調べたけど、死亡率云々は後付けでしたとは言えなくなったな。エミリアに何か美味しいお菓子を作らなければならないようだ。


「ところでロティの侍女はまだ決まらないのでしょうか?」


「侍女?」


 父様が何のこと? と言った感じで僕を見る。


「あれっ、ジョセフィーナは僕が生まれる前にあった募集を受けたんだよね?」


「エドワード様、それはエドワード様が嫡男だからです。先程エドワード様が言った話にも繋がりますが、五歳までの死亡率は非常に高いので、五歳を迎えるまで侍女はつけないケースが一般的です」


 孤児院が小さい子を引き取らない理由もそんな感じだったので、ジョセフィーナの意見が一般的なのだろう。


「心配なさらなくても私がしっかり面倒見るので大丈夫ですよ?」


「メリッサが!?」


 不安しかないな。


「ちょっとエドワード様! その目はなんですか!?」


 どうやら顔に不安が滲み出てしまったようだ。ポーカーフェイスへの道のりはまだまだ道半ばだ。


「メリッサだけが見るわけではないのでご安心ください」


「コレットさんやメイドのみんながいれば安心だったね」


「私では心配なんですか!?」


 メリッサの叫びにみんなが頷き、心が一つになった。あと、ロティが起きるので大きな声で叫ばないで欲しい。


「それにしても、赤子の死亡率を下げるというのはいい案だ、今までそういうものだと納得していたので、誰も思いつかなかった発想だね」


「原因が分かるようなら、対策するのが一番早いかと」


「僕の方でも調べてみるよ。みんなそういった情報は隠したがるので表には出てこないけど、改善に繋がるのなら協力してくれる人も出てくるはずだよ」


 基本的にこの世界の人たちは、生きて育ったらラッキーぐらいの感覚なので、そういった発想がないのだろうな。


 それはともかく、メイドたちにはできるだけメリッサ一人で面倒を見させないように頼んでおくことにしよう。メイドたちはどのお菓子が好きかジョセフィーナに確認しようと思うのだった。

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