第341話 収穫
今日は春に蒔いた種の作物の収穫が終わったということで、畑や温室を管理しているノーマンが結果を報告しにきたため、父様と一緒に話を聞くことになった。
「ノーマンはエドワードと『タネマキ』の能力を試していたのだったね」
「仰る通りでございます。エドワード様の意見を取り入れ検証を重ねながら一先ず収穫が終わりましたので、ご報告に上がりました」
「頼んだよ」
「結果から申し上げますと。能力による差は感じられませんでした。私が蒔いたものと比べましたがどれも誤差の範囲に収まるものかと」
「なるほど、エドワードはどう思う?」
「すぐに効果が表れないということは、熟練度が足りない可能性もあると思います」
「熟練度……なるほど、『タネマキ』の能力を過去に試して失敗していたのは熟練度が足りなかったと考えているんだね?」
「そうです」
僕の『糸』の能力も、糸を作るための素材を登録できなければ一生糸を出せなかった。何かのきっかけが必要な可能性もあるが、既に種に触れたりのきっかけは満たしているので、今回は熟練度の可能性が高いと思っている。
「ノーマンは二人を指導してみてどうだった?」
「二人ともやる気があり、筋も良いのでこのまま続けても問題ないかと思われます。たとえ能力に目覚めなくてもそのまま温室などの管理ができるように育て上げるつもりです」
「そのまま育ててくれるのかい? それは助かるよ」
「これで息子を騎士団に取り立てていただいた恩を返せます」
「エルマンならよくやってくれているよ?」
「ハリー様に憧れて騎士団に入りたいと言い出した時には、どうやって諦めさせるか悩んだものです」
「それはノーマンが真面目に働いていたのと、エルマン本人が頑張ったからだよ。騎士団の入団試験は平等だからね」
「入団試験前に剣術を指導していただいたのは平等ではないかと思いますが」
「それは僕の我儘で、顔見知りが騎士団にいた方が何かと頼みやすいからだよ」
どうやらノーマンの息子は騎士団で働いているようだな。
「二人は私が責任もって指導いたしますので、このまま様子を見るということで良かったでしょうか?」
「引き続き頼んだよ」
「ありがとうございます。ところで相談なのですが、今回成果がでなかったことを気にした二人が魔物を倒したいと言い出しましてどうしたものかと」
なるほど、それも試してみたいのでありなのかもしれない。
「それも一つの手段だけど、二年ぐらいは今のまま試してもらえるかな?」
「父様、魔物を倒すのも効果的だと思いますが、どうしてでしょうか?」
「結果を急ぐならそれもありだけど、毎回『タネマキ』の能力の人たちに魔物を狩らせるのは大変かな。エドワードの糸で魔物を拘束すれば比較的安全に倒せそうだけど、まずはそのままで効果が出るのかを確認してからだね。これからは麦の種蒔きが始まるから、熟練度上げにはちょうどいいタイミングだと思わないかい?」
父様の言うとおり『種まき』の能力なのに、魔物を倒さないと使えないでは意味がないな。レベルが上がらないから使えない能力のままの可能性も捨てきれないが、まずは普通に試すのがいいかもしれない。
「確かに魔物を倒さなくても効果がでるのなら、そちらの方が安全ですね」
「そうだね、魔物を倒すというのは普通の人には難易度が高い。無理をして死なれては領にとって損失になる。今回祝福の儀で能力を授かったチーギスがよい例になればいいと考えているのだよ」
「ハリー様はそこまでお考えでしたか。このノーマン、全身全霊で取り組む所存でございます!」
ノーマンの変なスイッチが入ってしまい、話はヒートアップしたのだった。
後から父様に聞いたのだが、元々ノーマンは長年連れ添った奥さんを亡くして引退を考えていたそうなのだ。前回僕が話した能力の件で少し元気が出たらしいのだが、チーギスやその父親であるムーライ一家と仲良くなり、今ではムーライ一家を家に呼んで一緒に住んでいるという話だ。
幸いエルマンを含めたノーマンの子供たちは、息子のエルマンも含め独り立ちして別に住んでいるそうだ。奥さんが亡くなって一人になった時点で一緒に住むよう説得して欲しいと父様に話があったのだが、奥さんとの思い出の多い家を手放したくないと断られたのだとか。
既にエルマンもムーライ一家に会って了解しているそうなので、トラブルになることもないだろうという話だ。
今回、『種まき』の能力の件で長年不遇にされてきた能力は、簡単に解明できないと感じることができ、『陶芸』の能力も物になるまで時間がかかるかもしれないなと思うのだった。
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