第340話 クイーン

 ツリーハウスにクイーンウィズラが住み着いてしまったのだが、どうしようか悩む。


「おじい様、クイーンウィズラとオスのウィズラしかいないということは、他のメスのウィズラは追い出されたのでしょうか?」


「珍しい鳥だから詳しいことは分かっていないが、あの状況を見た限りではそうなんだろうな」


 やはりそうか。だとしたらツリーハウスを占拠されるのは困るな。


「みんなは少し待っていてください」


 そう言って、ツリーハウスに飛び移ると、クイーンウィズラは僕に気がついてウィズラに指示をだす。オスのウィズラはクイーンウィズラを守るようなフォーメーションとなり僕に近い二羽は羽根を広げてダンスのような威嚇をした。確かこんな感じの求愛行動をとる鳥っていたけど違うよね。


「スパイダーウェブ!」


 二羽のウィズラを拘束する。できればこの辺りのウィズラとは仲良くやっていきたいので、討伐しない方向でいきたい。


「ギョエー!」


 クイーンウィズラが何か指示をだしたようなのだが、鳴き声可愛くないなと思っていると。


「ピィ」


 クイーンウィズラの鳴き声に反応したのか、フードからスノーが出て僕の頭の上に飛び乗った。


「ピィッ!」


 スノーがもう一度鳴くとウィズラたちはひれ伏す……エーデルオラケルもやってたけど、この世界の鳥は土下座を標準装備しているのだろうか?


 さすがにクイーンウィズラはひれ伏していないが、嘴をカチカチ鳴らして明らかに脅えているな……スノーはこんなに可愛いのに。


「ピッ」

「ギョエッ」

「ピー」

「ギョッ」

「ピーピッ」

「ギョエ」


 何を言っているのかさっぱり分からないが、クイーンウィズラも遂にひれ伏した。スノーの鳴き声は念話に近いみたいで、僕に話しかけているときは何となく分かるのだが、他人に話しかけているときは全く分からないのだ。


「それでスノー、どうなったの?」


「ピピピッ」


「出て行ってくれるんだ。よかった」


「ピッピピ」


「お願いって?」


「ピィーピッピ」


「他の場所にツリーハウスを作るの?」


「ピッ」


「そこにクイーンウィズラが住むってこと?」


「ピッ、ピッピピピィーピッ」


「その代わりに卵の提供と魔物を狩ってくれるの?」


 卵の提供はともかく、どう見ても狩られる側の魔物にしか見えないんだけど。


「まあ、卵をくれるのなら構わないよ」


「ピーピピピ」

「ギョエッ、ギョエギョ」


「なんて言ったの?」

「ピッ」

「へー、作って欲しい場所があるんだ。分かったよ」


 みんなに説明して地上に降りるとクイーンウィズラも降りてきた。


『鳥さんが可愛いです!』


 そう言ってエリーがクイーンウィズラに抱きつく。


「エリー!」


 ノワールを含めみんなエリーの行動に驚くが、クイーンウィズラは特に気にした様子を見せないどころか体を下げ、乗りやすくなったところにエリーが乗ってしまう。


 ――!


「クイーンウィズラって人を乗せられたの?」


「ピッピピィ」

「ギョエギョギョ」


「ピピピーピ」

「えっ!? そうなんだ」


「エドワード、スノーはなんと言ったのだ?」


 気になるのか、おじい様が聞いてきた。


「エリーは特別だから大丈夫だそうです。あと、僕は駄目らしいですね」


「そうなのか? 何にでも好かれるエドワードにしては珍しいな」


「簡単に男を乗せるメスではないらしいです……」


「そうか、それは残念だったな……」


 周りにたくさんいるオスのウィズラはただの護衛なのだろうか。


 エリーを乗せたクイーンウィズラは、巣のエリアを少し過ぎた所にある大きな木の前で止まった。


「ギョエ!」


 どうやらこの木にツリーハウスを作って欲しいようなので、蔓の能力で作っていく。


「こんな感じでどうかな?」


 そう言うとクイーンウィズラはツリーハウスの中に入ってチェックし始めた。


「ギョギョギョ」


 何か文句を言っているように見えるけど。


「スノーお願い」


「ピピッ」

「ギョギョギョ」

「ピッ!」


 スノーが何か言った瞬間、クイーンウィズラはカチカチ嘴を鳴らして震え始めた。


「スノー、なんかクイーンウィズラが震えているみたいだけど?」


「ピピィピィ」


「そういえば、向こうのツリーハウスには敷いたんだったね。まだ残っているから大丈夫だよ」


 どうやら、クイーンウィズラは床に木屑を敷いてないと言ってきたらしい。クイーンウィズラの言葉にスノーが怒ったのだろう。スノーってこんな小さくて可愛いのに、もしかして強いの!?


 床に木屑を敷いてふかふかにしてあげるとクイーンウィズラは頭を下げてお礼をする……意外と頭がいいのだろうか?


 クイーンウィズラがふかふかの床で寝そべっていると、どこからかギョエー!と鳴き声が聞こえる。

 

 鳴き声に素早く反応したクイーンウィズラは飛び起き、外に出てツリーハウスの屋根に飛び乗った!


「ギョエーッ!」


 クイーンウィズラが鳴きながら羽指した方向を見ると、巣を狙い木をぐるぐる登っている大きな蛇の姿が見えた。あれはローグヴァイパーだったかな。卵を狙っているのかもしれない。だとしたらまずいので倒しに行こうとすると、急に辺りが暗くなる。空を見上げると無数の影が見えたと思った瞬間、その影はローグヴァイパーに向かって次々と急降下していく。


 たくさんの影の正体はウィズラで、ローグヴァイパーに次々と襲いかかり、嘴で肉をえぐる。木に登っている最中のローグヴァイパーは抵抗する間もなく、半分になって木から落ちていったのだった。


 ツリーハウスから降りてみんなと合流したところで尋ねる。


「おじい様、ウィズラって強いのですか?」


「一匹ずつは大したことはないのだが、クイーンウィズラの号令で強くなる上に数が多いので見てのとおりだな。時々ああいった数の力で押し切るタイプの魔物もいるので注意するのだぞ」


「……ウィズラって危険な魔物だったのですね」


 卵をたくさん獲って来たリリーの呟きももっともだけど、クイーンウィズラが住み着いたのは案外正解かもしれないなと思ったのだった。

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