第337話 変革(上)

 秋の風が吹き始めるころ、母様のお腹もかなり大きくなってきた。僕がお腹に手を当て、中の赤ちゃんに話しかけると合図をくれるようになった。冬前には産まれるだろうという話なので凄く楽しみだ。弟でも妹でも元気に出てきて欲しいと願っている。


 そんな中、王都の会議に行っていた父様が帰って来たので、みんなで話を聞くことになった。今回の会議は公爵以上プラス辺境伯の会議なので、僕は不参加だったのだ。


「ハリーよ、みんなを集めるとは王都で何があった?」


「父様、色々と大きな動きがありました。みんなにも知っておいて欲しい内容もあるので共有しておこうかと」


 父様がそう言うと、一同が頷いた。


「まずは、おめでたい話からにしようか。第二王子のバージル殿下とハットフィールド公爵家長女のフランシスが結婚されることとなった」


「えっ!?」


 思わず驚いてしまったが、みんなは大して驚く内容でないのか普通にしている。ハットフィールド公爵家長女フランシスさんといえば強引なお姉さんのことだな。バージル殿下は公爵家嫡男のフリッツさんと仲が良いのだったな。


「年齢的には決まるのが遅かったが、婚約でなく即結婚というのは何かあるのだな?」


「父様の言うとおり、即結婚となったのはブラウ伯爵領などが関係しています」


「なるほど。ブラウ伯爵領の管理貴族が不在なのと、ベルティーユ侯爵の領地替えも絡めてきたんだな?」


「はい、ベルティーユ侯爵は元ブラウ伯爵領に領地替え、さらに領地も減らされます」


「それは仕方がないな。つまりバージルはベルティーユ侯爵領にか?」


「その通りです。まあ、元々ベルティーユ侯爵領だった土地を元に戻すだけなんですけどね」


「父様。元々ベルティーユ侯爵領だったというのは?」


「エドワード。ベルティーユ侯爵領とブラウ伯爵領の形は少しおかしいと思わないかい?」


「そうですね。ブラウ伯爵領がベルティーユ侯爵領の中央部に食い込む形となっていますね」


「あれはベルティーユ侯爵家がブラウに嫁がせる際、持参金代わりに譲った土地なんだ」


「嫁がせる際というと、ブラウに殺されてたという……」


「うん、前ベルティーユ侯爵の妹を嫁がせた時の話だね。結果だけ見るとブラウはその頃から帝国兵を迎え入れる計画だったのだろうね」


「……」


 妹のためとはいえベルティーユ侯爵は多くのものを失ってしまったんだな……ブラウはもういないがイグルス帝国は健在だから気をつけないといけないだろう。


「それでハリーよ、バージルは公爵になるということかな?」


「はい、トニトルス公爵になることが決定しています。旧ブラウ伯爵領の状態があまり良くないとの話なので、ベルティーユ侯爵領の引き継ぎと並行して行うそうです」


「そういえば、イグルス帝国の流民が流れ込んできて治安が悪いのだったな」


「流入自体は対策したようですが、既に入り込んでしまっている者たちが盗賊になっているケースが多いという話です」


 イグルス帝国は国民性もよくないのだろうか……。


「殿下の結婚や、領地に関する話はこんなところで、次は侵攻に関する話だね」


「侵攻ですか!?」


「さっきのブラウにも関連するけど、昨年イグルス帝国から大規模に侵攻されているからね。王国としてはベルティーユ侯爵やブラウ、ウェチゴーヤ商会絡みでかなりの被害が出ているわけだ」


「確かに、今までは儂らで追い返していたが、今回は実害も出ているからな」


「そこで、以前エドワードがニルヴァ王国から帰還した際に父様から陛下にシュトライト付近までを、王国の領土とする提案をしてもらったのだけど、今回はそれが通った形だね」


「領地を持たない貴族に侵攻してもらうと言っていたやつですね?」


「その通り、よく覚えていたね。今回はスタップ男爵が侵攻し、元シュトライト城近くに砦と町を作る予定になっている」


 スタップ男爵は中立派の貴族にいたような気がする。


「廃墟と化したシュトライトの資材を利用するのだな」


「その通りです。しかし、それだけでは人と資材どちらも足りないでしょう。本来ならスタップ男爵が全てやるところですが、イグルス帝国への侵攻ということでバックアップはハットフィールド公爵とバージル殿下が行います」


「イグルス帝国を気にしていては進むものも進まぬからよい判断といえよう。他の貴族やヴァルハーレン家としてはどんな対応になる?」


「まず、貴族が資材を提供できる場合は王家が買い取るそうです」


「ほう、スタップ男爵やハットフィールド公爵ではなく王家がか?」


「はい。ハットフィールド公爵は現在モトリーク辺境伯の方の復興も手伝っているため、提供できる資材が不足しているそうです」


「新たに作っているコラビの町だな?」


「ええ、といってもまずは魔の森の監視用の砦から始めているそうですが」


「元々あの町は監視用に建てられた町だから、砦があるだけで取りあえずの機能は果たすな」


 元々人口の多い町ではなかったから、たとえ町を作ったところで人が戻って来る保証もないので、仕方がないのかもしれない。


「それで、ヴァルハーレン家としての対応ですが、まずは当然トゥールスまでの道が騒がしくなるので、警備の強化が必要になります」


「盗賊が資材などを狙う可能性も出てくるからしょうがないだろう。今回は基本的に王家が貴族の持つ資材を買い取るが、商人の持つ資材は別だ。これを好機とスタップ男爵の所へ直接売りに行く商人たちも出てくるだろうというか、そっちの方が多いのではないか?」


「そうなんですか?」


「エドワード、町や砦を一から作るんだ。商人としては凄いチャンスだと思わないかい?」


「スタップ男爵に取り入って町の建設を手伝う商人も出てくるだろうな」


「手伝ってくれるのならいいのでは?」


「エドワード。商人が無償で手伝う訳なかろうが。町を作った後の利権を獲得するためだ。貢献度が高ければ良い場所に店を建てられたり、スタップ男爵からの待遇もよくなるだろう?」


 なるほど。町をゼロから作るんだ、店の場所や大きさも自由自在なんだな。


「トゥールスがそうだったように、国境付近の町は仕事も多いので人や兵士が集まる。トゥールスから新たに出来た町へ移住する者も出てくるだろう」


「そんな人がいるんですか? トゥールスはシュトライトが無くなってから建設ラッシュだったと思うのですが」


「普通の人は平和な方がよいだろうが、中にはそうではない人もいるからな」


「平和じゃない方がいい人なんているんですか?」


「もちろんだよ。戦争で一番儲かるのは武器商人だろうね。あとは酒場や娼館なども兵士が多いと儲かる仕事かな」


「兵士というのはかなり長期間拘束される。その間に給金を貰っても使えない、ストレスは溜まるということで酒場や娼館に行くケースが多いのだ」


 トゥールスに酒場や娼館が多いのはそういう理由だったんだな。


 ――――――――――

 近況ノートに領地変更の詳細図をあげました。

https://kakuyomu.jp/users/ru-an/news/16818023213844919940

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