第335話 エリーとノワール
昨年は家族に再会してから、ローダウェイクに落ち着いていることはなかったので気がつかなかったが、ローダウェイクの夏はとても涼しい。王国では北に位置するのと、夏でも水温が一定のプレジール湖のおかげなんだそうだ。この涼しさを求めて夏は避暑地として訪れる金持ちもいるのだとか。
今日は王都で会って以来のエリーとノワールがやって来た。エリーは両親も一緒だ。
「それではハリー様。エリーとノワールに関しては、婚約が成立ということでよろしいですな?」
「もちろんです。ヴァッセル公爵家のロゼ嬢と、バーンシュタイン公爵家のフラム嬢に関してもそのうち決まると思いますが大丈夫ですね?」
「うむ、本来は男爵家で大公家に嫁ぐことには無理がある。エリーの幸せを考えれば致し方ありません」
ニコニコした奥さんのラシュルさんに対して、男爵のジークハルトさんは顔が若干引き攣っている。
「それにしても、ノワールの婚姻の許可の書状をジークハルトが持って来るのには驚いたよ」
「うむ。うちもそうだが、テネーブル家はうち以上に他家との接触を嫌うからな。正式に王家の許可も下りているから何ら問題はないのにモルガンの奴め……」
どうやらテネーブル伯爵を誘ったのに断られたらしい。そんな状況なのに一切無表情のノワールは大丈夫なのだろうか……。
「私のことに関してご心配をおかけして申し訳ございません。エドワード様に差し出せるものはこの身一つしかなく申し訳ないのですが、伯爵家の娘として出してもらえるのは、父としての最大の譲歩なんだと思います」
ノワールは両親との仲があまり良くないのだろうか?
「ノワールはそれで問題なかったのかな? 私からモルガンに一言いうこともできるよ?」
「元々は第三王子のパトリック殿下に仕えさせようとしていたのを私が拒否したりと、父とは色々ございまして……。全ての非は私にありますので、できればこのままでお願いいたします」
第三王子のパトリック殿下にはまだ会ったことがないんだよね。第二王妃のフローレンス妃との子で第二王子のバージル殿下の弟になる。クリスタの兄でもあることを考えると、そこまで毛嫌いする相手でもないような気がするけど、何かあったのかは気になるな。
「なるほど、パトリック殿下にね……まあその件はエドワードと出会う前の話だろうから関係ないとして、テネーブル家のスタンスは了解したよ」
「ありがとうございます」
「ハリー様、ノワールに関しては当家からしっかりサポートいたしますのでご心配なく」
「ラシュル様! そこまで面倒をみていただくわけには……」
「あら、ノワール。あなたはエリーの姉みたいなものなんだから、私の子と同じよ」
「うむ、ノワールがいなかったらエリーとの関係はギクシャクしたままだったろう。私とラシュルはノワールが来てから楽しい毎日であった。エリーと同じ様に送り出させてくれ」
『お父様、ありがとう!』
ノワールがラシュルさんと抱き合い、エリーがジークハルトさんに抱きついたのだが、ジークハルトさんは数秒前の渋さが台無しの表情だ……。
「心配しなくても事情が分かっていればうちでもサポートするから大丈夫だよ」
「ハリー様まで、ありがとうございます」
「話が纏まったところでティータイムにしようか。エドワードの新作のフィナンシェというお菓子なんだけど、とても美味しいんだ」
父様がそういうと、メイドたちがティータイムの準備を整えて退出する。
『これがエディ様の新しいお菓子ですか!?』
「甘い香りがとてもよいです!」
エリーとノワールにも好評のようでよかった。しばらくみんなで歓談していると、おばあ様とおじい様がやって来る。
「これは、クロエ様にアルバン様。大変ご無沙汰しています」
ジークハルトさんとラシュルさんが挨拶した。
「話は纏まったらしいね。エドワードに任せておけば幸せにしてくれるはずだから、安心していいわよ」
おばあ様はそう言いながらノワールの方を見る。
「ノワールに少し聞きたいことがあってね。少し借りていくよ」
そう言ってノワールは、おばあ様に連れて行かれるのだった。
◆
――クロエ視点――
アルバンとノワールを連れて談話室に入る。ノワールはこの歳にしては肝が座っているわね。
「クロエ様にアルバン様。わたくしに話とは、テネーブル家のことについてですね?」
「ノワールに実家を裏切るような真似はさせぬから安心するがよい」
アルバンが少し怯えたノワールに語りかけた。
「そうね。あたしが聞きたいのは、ノワールはいったい誰の味方かってことよ」
ノワールはあたしの質問に驚いた顔をしたが、すぐに無表情な顔に戻る。
「わたくしが味方するのはエドワード様とエリー
「なるほど……ヴァルハーレン家ではなく、エドワード個人の味方ということなんだね?」
「その通りでございます」
「仮にエドワードがテネーブル家と揉めても、エドワードの味方でいられるのかしら?」
「当然でございます」
そう言い切ったノワールの目は力強い眼差しであたしを見た。
「クロエ様は……いえ、アルバン様はテネーブル家のことについてどの程度のことまでご存じでしょうか?」
「テネーブル家についてか? 国にではなく、王族個人に忠誠を誓う一族で、授かる能力も変わったものが多い一族ということぐらいだな」
「仰る通り、父は陛下に忠誠を誓っており、兄のウィスクは王太子殿下に忠誠を誓っております」
「嫡男のウィスクが、陛下ではなくアルバートの方にか?」
「その通りでございます」
「……ということは、亡くなったノワールの祖父は前王にして我が父であるフェリクスに忠誠を誓っていたと?」
「わたくしの生まれる前のことなので詳しくは存じ上げませんが、おそらくそうだったのだと思います」
「……」
アルバンが考え込む。あたしは誰に忠誠を誓っても一緒だと思うけど何が引っかかるのかしら?
「今の話から行くと、ノワールはエドワードに忠誠を誓っているとでもいうのかい?」
「仰る通りでございます」
全く迷いのない瞳。エドワードとの接触は貴族の令嬢としては多い方だけど、ノワールにそこまで決断させる理由が分からないけど……。
「ノワールがエドワードの味方ってことは理解したわ。エドワードのことはよろしく頼むわね。戻っていいわよ」
「ありがとうございます!」
ノワールは一旦外へ出ようと扉の近くまで行くが、小走りであたしの近くまでやって来ると。
「クロエ様には話しておきます」
そう言って、あたしだけに聞こえるように耳元で告げると、小走りで出ていったのだった。
「クロエ。最後のは何だったのだ?」
「……女の秘密だから、アルバンには教えられないわ」
「そ、そうか。それでは仕方ないな」
ノワールに対する疑いは晴れたけれど、エドワード
――――――――――
書籍の予約が開始されたようなので近況ノートに情報を書きました。
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