第334話 トーゲイ

 ウィズラについては進展があり、全ての巣で卵を確認できた。ツリーハウスにもウィズラが住み着いて繁殖も始まったせいで、ウィズラの卵が大量に入ってくるようになった。


 これだけ集まると商人ギルドに出している依頼も取り下げても問題ないのだが、商人ギルドからは取り下げないで欲しいとお願いされたのだ。卵の採取依頼は冒険者ギルドでもかなり人気の依頼になっており、それ目当ての冒険者も多いらしい。冒険者がたくさん集まれば、始めたばかりの屋台の方にも客が集まるのでいいこと尽くめなんだそうだ。


 最終的にローダウェイクが栄えれば、税収がアップするので良いのだが、問題は卵の使い道である。バケツプリンを作っても余ってしまうので、モイライ商会で卵を使ったお菓子を販売することになった。プリンなど器が必要な物は器代込みの値段にして、器を返却すると器代を返却する仕組みを採用したのだが、出すと完売する大ヒット商品となり、卵を高額で買い取っても全く問題にならなくなった。


 ◆


 段々と日が長くなり日差しも少しずつ強くなり始めた頃、祝福の儀でトーゲイを授かった子と、その他に三名がやって来る。


 祝福の儀でトーゲイの能力を授かった女の子がアーリタ(7歳)とその父のミノー(24歳)、その他にクトゥニ(9歳)という男の子と、その父親のセトゥ(23歳)が見つかった。その他に何人かは記録に残っていたらしいのだが、見つけることはできなかったそうだ。住所を登録するわけではなく、名前と能力だけで探し出しているそうなので、時間がかかるのはしょうがない。ちなみに、種まきもそうだったが、親が同じ能力だったのは記録があったわけではなく、たまたまだそうだ。

 

「四人にはこれからはヴァルハーレン家で働いてもらうことになるけど大丈夫だよね?」


 四人は顔を見合わせると、何やらひそひそと相談している。


「フィレール侯爵様はお前たちの忌憚のない意見を求めている。言葉遣いを気にせず、丁寧に話をせよ」


 リーリエはそういう対応もできるんだな。

 

「侯爵様。働くのは問題ねぇです。ワシらのために立派な家まで用意してありがてぇですが、ワシらの能力は役さ立たねぇのに、申し訳ねぇです」


 四人の中のミノーが代表して喋る。若干訛っているが全然聞き取れるので問題ない。


「陶芸の能力が仮に役に立たないとしても、そのままヴァルハーレン家で雇用するから安心していいからね」


 みんなの表情が少しだけ和らいだ。種まきの時もそうだったが、授かった能力の使い道が分からない人たちは同じような不安を抱えているのかもしれない。


「僕の考えで陶芸の能力は、土などの素材を捏ねて、器などを作る能力だと考えてるんだよ」


「ワシらそんなことやったことねぇですが……」


「やったことがないのは分かっているから大丈夫だよ。ただ、僕も作り方を教えられないから。もう一人雇ってあるんだ。ジョーモンこっちに来て」


「畏まりました」


 そう言って小麦色に日焼けした男が前に来た。


「彼はジョーモンといって歳は三十八、土師はじの能力を授かって壺などを作っているんだ。最初は彼に教えてもらって、まずは土器を作ることを覚えて欲しい」

 

 四人は不安そうながらも頷く。


「エドワード様はトーゲイの能力が土師の能力に似ていると考えておられるのだ。俺の能力の使い方をお前たちにも教えてやるから、何か引っ掛かりを感じたら報告するように。土を触ったりすると時々何かを感じることがあるが、土師としては大切な引っ掛かりだからな」


「ねえ、ジョーモン。その引っ掛かりというのは、例えば壺などを作る際に、壺に適した土かどうか解ったりするのかな?」


「……その通りなんですが、どうしてエドワード様がそのことを? 他の奴らは土ならどれでも一緒と思っているんですよ」


「まあ、僕の能力も特殊だから似たようなところがあるんだよね」


「そうですか、土の事まで理解していただけるのなら話は早い、確か作業場を用意して下さっているとお聞きしているのですが?」


「もう仕上がっているから早速行こうか?」


 ◆


 作業場に移動したのだがみんな無言だ。

 

「……エドワード様これが俺たちの作業場ですか?」


「そうだけど何か足りないものでもある? 用意するから遠慮なく言ってね」


「これは?」


「窯だね」


「何にするのですか?」


「土器を焼く?」


「野焼きじゃなくてこの箱で土器が焼けるのですか? 三つあるのは何か意味があるのでしょうか?」


 そうか、普通の土器は窯を使わないのか。冷蔵庫を改良して電気釜のようなスライム釜を作ったのだ。三つあるのは土器用、陶器用、磁器用となっておりそれぞれ設定温度が違うのだ。取りあえず温度が違うということだけを説明しておくか。


「なるほど……つまりこれが土器用なのですね。これより設定温度が高い物を作ったということは、トーゲイの能力はもっと高い温度が必要ということなんでしょうか?」


 鋭いところに気がついたな。


「実は高温で焼くとより良い物が作れるという情報がみつかったんですよ」


「なるほど、この四人は私にお任せくださいませ。取りあえず土器を作れるようにしてみましょう」


「うん、お願いするよ。ある程度作れるようになったところで、次はもっと良い土がないか探してみることにしようか」


「畏まりました」


 実際土器、陶器、磁器などの違いは材料や焼く温度の違いなので任せておけば大丈夫だろうと思うのだった。

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