三百二十三話:

 「ええ……? なんかもう……次元が違うんだけど」


 玉木さんの放った魔法に、アマネさんがドン引きしている。


「近づけないよー!?」


 緑色の風刃が戦場を蹂躙している。

 色付きなので分かりやすいね。

 まるで生き物のような動きで炎のゴーレムと周囲の魔物を蹴散らしていく。

 ジョブを得たことで範囲も威力も、それに継続力も増加しているようだ。


「ふふ、シンク君には誰も近づけさせないわ」


 ヤンデレ女王様みたいなセリフの玉木さんが恍惚の表情をしている。

 

 玉木さんの魔法で炎のゴーレムも傷つくが、すぐに修復していく。

 自己再生能力はかなり高そうだ。

 頭部を破壊しても動き続けるし、やはり中心の紅蓮石を狙うべきだろう。

 【炎貫紅槍ループロミネンス】で一気に貫くべきかと思ったが、なんとなく嫌な予感がする。 

 ゲームで言えば同属性。

 炎系の攻撃は効果が薄いんじゃないだろうか?


「『デックイグニス』」


 試しに炎獣をけしかけてみるが、やはりというか炎に対する耐性を持っているようだ。

 直撃し炎の柱は上がるが、紅蓮石へと吸収されていく。


『斬撃、炎は効果が薄いようですね。 炎のゴーレムには打撃武器と水属性魔法を使える人で応戦してください』


 栞さんから念話が流れる。

 俺意外にもこの声は届いているようで、集まっていた部隊が編成を変えていく。


「シンクくん、私も攻撃に参加する?」


「否」


 今回は木実ちゃんのバフスキルが鍵だ。

 彼女の水魔法も強力な威力を秘めているが、魔力を温存しサポートに徹してもらう。


「頑張って、アマネちゃん」

 

「ふぅぅ……ちゃんと戦果を残さないと、統括が怖いしね……」


 赤城統括は来ていない。

 彼女は忙しいので理由なく『天海防衛ライン』を離れられないらしい。

 背丈よりも大きな黄金のハンマーを持ったアマネさんを中心に、大槌部隊が集結する。

 その後方で水属性魔法を使える人たちも杖を構えた。


「来るよーー!」


 炎のゴーレムがその腕をこちらに向けると、奴の後ろに控えていた野犬部隊もこちらに向かって走り出してきた。

 狙いは俺たちの後方部隊か。

 反りの大きい刀を持ったツインテが抜刀し、爛々と瞳を輝かせて今にも飛び出しそうだ。

 だが、一歩踏み込んだところで顔を顰める。

 恐らく栞さんから注意が飛んだのだろう。


「シンク君、後ろは任せてね」


「うむ」


 前を向く。

 炎のゴーレムは動く気はないようで、悠然と待ち構えている。


 これは長い戦いになりそうだな。




◇◆◇




「うっま!」


「美味しいーー!」


 ゴーレム砦食堂は今日も賑やかだ。

 いや、いつもの倍は賑やかかもしれない。

 鉄鍋を振るう音が途切れることがない。


 すでに辺りは暗く、篝火は焚かれている。

 炎のゴーレム戦は決着が着くことはなく、一時撤退してきた。


「時間が掛かりそうね~」


 腹ペコさん達がたくさんいるので調理に時間が掛かっているようだ。

 やはりワンオペでは無理があるようなので、調理人ももっと募集しないとな。

 まぁ敵地の前線なので来てくれる人を見つけるのは大変かもしれないが。


「チーズですか? 良い匂いです」


 『クラフトワークス』にネペンデス式トイレを設置したお礼にもらった自家製チーズだ。 

 あそこの料理人さんもなかなか良い腕をしているので引き抜きたいが、まぁやめとこ。 


「ご主人様」


 料理を待っている間、木実ちゃんたちとチーズをつまんでいると、ハクアさんがやってきた。

 なぜかご主人様呼びなんだよね、この人。

 ちなみにアマネさんはツインテと一緒にご飯をかっこんでいる。


「ふふ、ハクアさんも一緒にどうかしら?」


「はぃ……奥様。 ぁりがとうございます」


 ハクアさんの白鳩は偵察に戦闘もできて優秀だ。

 それだけでなく異界にある『監禁王の洋館』にすら伝言を伝える能力を持っている。

 それでいて俺に友好的なわけで、玉木さんの魔手が伸びないはずもなく。


「うちに来たらいつでも美味しい料理が食べられるわ。 それにこっちは女子も多いから色々分かち合えると思うの、二人で一緒に東雲東高校に来たらいいわ」


 さりげなくハンマー使いのアマネさんも勧誘している、さすが玉木さんだ。


「……よろしいのですか? ぁりがとうございます、奥様」


 本当に嬉しそうなハクアさん。

 美味い美味いとご飯をおかわりするアマネさんも、勧誘したらコロッと来ちゃいそうだし、統括に怒られるんじゃないか?

 

「シャリふわっ!?」


「キーンってこない!?」


 デザートの『ふわふわかき氷ネペンデス君の実スペシャル』(木実ちゃん考案)を食べて叫んでいる二人。

 ふわふわのかき氷ってキーンってこないよね。

 

「こんなに美味しいご飯と、戦闘いっぱいなんて……茜ちゃんずるい、ずるいよ! 私もココに住むからね!」


「……本気?」


 夜戦に控えていたメンバーたちがやってくる。

 九条先輩やミサと葵も夜戦に向けて、昼間は戦闘に参加していなかった。


「ゆっくりやすみなさいよ、シンク?」


「……夜更かし、ダメ」


 女の子に囲まれている俺を見て二人から心配の、いや、ヤキモチかな?

 明日もゴーレム戦をするつもりなので、そんなベッドの上で夜戦なんてしませんよ?

 ……しないですよね?


『夜更かししなければ、……大丈夫ですよね、シンクさん?』


 皆の前だと大人しい栞さんから、秘密のメッセージが飛んでくるのであった。

 

 

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